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「マイ・ウェイ」新解釈 フェイルーズ

Fayrouz  BEBALEE.jpg

アラブ世界を代表する孤高の女性歌手、フェイルーズの新作。

正直、聴くのにためらいがなかったといえば、嘘になります。
思えば10年の前作“EH FI AMAL” の時点で、すでに75歳。
その年齢が信じられぬ官能に溢れた歌声が、奇跡的なアルバムでしたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-12-18
今度の新作は15年録音。あれからさらに5年を経ていて、
誕生月より後のレコーディングであれば、80歳になるわけです。

自分が愛した女性歌手の衰えた歌声を聴くのは、辛いもの。
さすがのアマリア・ロドリゲスも、亡くなる前の歌声は衰えていたし、
それでも80を数える前だったんですよね。
サラ・ヴォーンが亡くなったのは66歳で、70にもなっていなかったんだっけ。
80過ぎた女性歌手というと、アルバータ・ハンターくらいしか思いつきませんが、
カムバックしたアルバータの声は、老女そのものでした。

あ、いや、一人だけスゴい人がいましたね。
百歳で亡くなったお鯉さん(多田小餘綾)。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-08-23
99歳のラスト・レコーディングまで、
お世辞抜きに艶やかな美声を聞かせた、驚異の歌い手さんでした。
そうか、お鯉さんを考えれば、フェイルーズだって、と思い返し、
気を取り直して聴いてみて、ひと安心しました。

声量は落ちているし、音域も低くなって、昔のような美声というわけにはいきません。
それでも、無理をしない唱法、のどに負担をかけない、
ゆっくりとおしゃべりするような歌い方で、老いをカヴァーし、
衰えたという印象を残さない歌いぶりは、さすがです。
クール・ビューティな歌唱も不変で、さすがはアラブ世界を代表するディーヴァです。

本作は、カヴァー・アルバムということで、
「蛍の光」「イマジン」「追憶」「ベサメ・ムーチョ」
「アルゼンチンよ、泣かないで」といったレパートリーが並んでいるんですが、
「マイ・ウェイ」を取り上げているのが、聴く前の一大懸念。
うわ~、なんでまたこんな曲を取り上げんのかなあ。
あの歌、だいっキライなんですよ。

フランク・シナトラのあの大仰な歌いぶりも、
死期を前にした大スター歌手が過去を振り返り、
みずからの人生を自画自賛して歌い上げるっていう歌詞も、
いい気なもんだねとしか思えないもんでねえ。
もっともこの歌を最初に聞いたのは、
歌詞の意味も知らない小学生の頃で、
その時から嫌悪感をおぼえたのは、
メロディや歌いぶりにイヤらしさを感じたからなんですけどね。

その後、あらためて歌詞の意味を知り、
成功を収め、名声を得た大歌手が、こんな歌詞を大上段に構えて歌うのって、
アメリカ人てのは、ずいぶん慎みのない人種なんだなと、子供ごころに思ったもんです。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」「おごらず、たかぶらず」な道徳観を持つ日本人にすれば、
こういう歌詞に違和感持って当然だろと思ったら、そんなのは自分だけで、
感動したという人や、カラオケで歌いたがるご仁の多いことに、ア然。
卒業式で歌わされたりと、ずいぶんイヤな思い出があります。

で、その「マイ・ウェイ」を大歌手フェイルーズが歌っているわけなんですが、
こんな弱々しい「マイ・ウェイ」を聴いたのは、初めてです。
自分の歌手人生を、誇らしげに歌い上げるどころか、
サビで音程がゆらぐほど不安定に歌っていて、
それがかえって、すごく愛おしく聞こえ、びっくりしてしまいました。
この曲を、こんな風に歌うこともできるんですねえ。

そうか、この歌詞も、成功した歌手が歌うからシラけるんであって、
ヒット曲が1曲もないような、無名のままに終わった歌手が、
ぼそぼそと歌うのなら、真実一路を求めた人生の味わいが出るってもんだよなあ。

それでは、大歌手のフェイルーズが、
これほどか細く、自信なげに「マイ・ウェイ」を歌ったのは、なぜなんでしょう。
それはこの歌を、ちっぽけな個人の人生に還元して自己満足するのではなく、
生まれ育ったベイルートの街や祖国レバノン、さらに自分を愛してくれたアラブ世界に、
この歌を還元して歌っているからなのではないでしょうか。

これはまったくのぼくの空想ですけれど、
アラブを代表する歌手としての責任を、一身に引き受けてきた重みが、
フェイルーズにこんな歌い方をさせているように思えてならないんですよ。
傷ついた祖国や、いまだ平和と安定が約束されない、
アラブの庶民の苦しみを思う悲しみの深さが、勇ましく堂々と歌うのをよしとせず、
これほど弱々しい「マイ・ウェイ」を生み出したのだと、ぼくは勝手に解釈しています。

Fayrouz "BEBALEE" Fayrouz Productions/Decca/Universal 5777817 (2017)
コメント(2) 

コメント 2

としま

僕は結構気に入りましたね、このアルバム。昨夜のInstagramへの投稿で、まあまあ書きました。

ご存知のように、シナトラの「マイ・ウェイ」は、もとは彼のための曲じゃなかったし、フェイルーズもシナトラ・ヴァージョンを参考にしたのかどうか、ちょっと僕には分りません。
by としま (2017-11-21 01:15) 

bunboni

訳詞がオリジナルなのかどうか、興味ありますね。
by bunboni (2017-11-21 06:20) 

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