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フレッシュな古典ショーロ トリオ・ジューリオ

Trio Júlio.jpg

現代的なインストルメンタルと一緒に、
こういうオーセンティックなショーロの良さを味わえるアルバムが届くというのが嬉しい。
7弦ギター、バンドリン、パンデイロを演奏する、ジューリオ3兄弟のデビュー作です。

リオ出身の3人はパンデイロのマグノが兄で、
7弦ギターのマルロンとバンドリンのマイコンが双子の弟だそうです。
レパートリーはすべてマルロンとマイコンのオリジナル。
ショーロ第1世代の代表的な音楽家アナクレット・ジ・メデイロスや、
ジャコー・ド・バンドリンにオマージュを捧げた曲があるなど、
その作風も古典的といえます。

デビュー作とはいえ、すでに音楽学校で先生もやっている彼らのプレイは、
実力十分、余裕のある演奏ぶりで、伝統的なショーロを聞かせてくれます。
曲により、カヴァキーニョやピアノのゲストも加わり、
アコーディオンとザブンバのゲストを招いたバイオーンや、
トランペット、トロンボーン、サックスの3管入りのフレーヴォもあるなど、
多彩な内容で、カラフルなアルバムとなっています。

アルバムのオープニングとラストがマシーシというのも、
このグループの音楽性を象徴しているようで、
特にラストのホーン・セクション入りで、
古典的なマーチング・サウンドを聞かせるマシーシは、
最近めったに演奏されることのないスタイルだけに、
おおっと前のめりになっちゃいました。

この曲にゲスト参加したオス・マトゥトスは、
3年前に話題となったイリニウ・ジ・アルメイダの曲集を演奏していた
メンバーが主要となっているグループ。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-06-23
オフィクレイドのエヴェルソン・モラエスもいますよ。

ショーロの古典にまでさかのぼったオリジナルを、
フレッシュに聞かせるステキな3人組です。

Trio Júlio "MINHA FELICIDADE" no label no number (2017)
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アミルトン・ジ・オランダの後継者登場 カラピッショ・ランジェル

Carrapicho Rangel  NA ESTRADA DA LUZ.jpg

おー、いつかは出てくるとは思っていたけど、ついに出てきましたね、
アミルトン・ジ・オランダの後を追う、頼もしき若手バンドリン奏者が。
サンバウロ州の内陸、アララクアラ出身というカラピッショ・ランジェル。
少し前にアナ・コスタとのデュオ作が出て、初めてこの人を知りましたけれど
ブラジルの新世代ジャズ・レーベルとして注目の集まる
ブラックストリームからの新作ということで、さっそく買ってまいりましたよ。

ジャコー・ド・バンドリンやルペルシ・ミランダといった
先達のバンドリン奏者から学んだショーロの素養をしっかりと持ったうえで、
現代的なインストルメンタル、いまや素直にジャズと呼んでいい領域に
踏み込んだプレイをする人で、まさしくアミルトン・ジ・オランダの後継者。

音楽性はほぼアミルトン・ジ・オランダ・キンテートと同じといっていんじゃないかな。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-04-22
こちらの編成はピアノ、ベース、ドラムスのカルテットですけれど、
主役のバンドリンだけが弾きまくるのではなく、ピアノ、ベース、ドラムスが
緊密なアンサンブルをかたどる複雑なアレンジを施していて、
かなりテクニカルな演奏を聞かせます。

どんなに速弾きをしても、メカニカルな演奏やアブストラクトにならないのは、
楽曲がいずれも、ブラジルの歌心豊かなメロディ揃いだからですね。
ショーロ、サンバ、フレーヴォとさまざまなフォーマットを借りながら、
そこに変拍子を取り入れるなど、高度なジャズのテクニックを組み込んでいくところが、
まさにアミルトン・ジ・オランダが切り拓いてきた音楽性そのものでしょう。

優雅さとテクニカルなかっこよさが同居するプレイ、
これまでアミルトン・ジ・オランダだけのお家芸ともいえた、
10弦バンドリンの世界を、共に発展させる若きライヴァルの登場です。

Carrapicho Rangel "NA ESTRADA DA LUZ" Blaxtream BXT0021 (2018)
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ブラジリアン・ネオ・ソウル・ディーヴァ パトリシア・マルクス

Patricia Marx  NOVA.jpg

グレッチェン・パーラトを思わせる、
ひそやかでデリケイトな歌声に、息をのみました。
短いオープニングのイントロに続いて、するりとすべり込む、
綿菓子のようなふわーっとしたサウンドに、もう夢見心地。
人力ドラムスの生音グルーヴ、
鍵盤をレイヤーしたサウンドがもたらすネオ・ソウルの快楽。
う~ん、パトリシア・マルクスの新作、やるじゃない。

5歳でテレビ・デビュー、9歳で歌手デビューした
パトリシアの歌声を初めて聴いたのは、
ブラジル音楽評論家の大島守がプロデュースした
92年作の“NEOCLÁSSICO” でした。
そのアルバムは、当時としては珍しい本格的なボサ・ノーヴァ作品でしたけれど、
その後出た、クラブ・ミュージック仕様の95年作“QUERO MAIS” の方が、
この人の本領だったと思います。

Patricia  NEOCLÁSSICO.jpg   Patricia Marx  QUERO MAIS.jpg

ジョルジ・ヴェルシーロ、エジ・モッタ、マックス・ジ・カストロの曲に、
‘What's Going On’ やジャクソン5の‘Never Can Say Goodbye’ を取り上げた
レア・グルーヴ感覚満載のメロウ・グルーヴなアルバム。
なんとカルトーラの‘Acontece’ まで歌っているんですよ。
DJユースに重宝しそうな作品で、その昔家族とのドライヴでよく聴いたものです。
車を運転しなくなって15年、すっかりご無沙汰ですけど。

その後は、トラーマから出したエレクトロ/ラウンジ・ボサのアルバムや、
DJのブルーノ・Eと結婚して発表した共同名義作などがありましたけれど、
ロンドンのクラブ・シーンに関与するようになってからの作品はあまり興味を持てず、
すっかり疎遠となっていたので、この新作には見直しましたね。

エルベルト・メデイロスの鍵盤が生み出す甘美なサウンドが、
とにかくここち良いったら、ありません。
ムーンチャイルドあたりを参照してそうな音づくりで、
スネアの音が大きなドラム・サウンドも、イマドキといえますね。
パトリシアの声も、以前より脱力した軽い声で歌っていて、とても魅力的です。

Patricia Marx "NOVA" LAB 344 83369338 (2018)
Patricia "NEOCLÁSSICO" Camerati TCD1007-2 (1992)
Patricia Marx "QUERO MAIS" Lux 011023-2 (1995)
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小アジアの詩情 ディレク・コチェ

Dılek Koç  SEVDALIM AMAN.jpg

去年の暮れに買ったトルコ旧作が良くって、ここのところのお気に入り。
寒くなってくると、アナトリアの叙情を伝える弦楽アンサンブルが沁みますねえ。
それにしてもこのアルバムはユニークです。
ディレク・コチェというトルコの女性歌手のアルバムなんですが、
なんとこれがトルコ盤じゃなくて、ギリシャ盤なんですね。
しかもグリケリアが4曲で一緒にデュエットしているのだから、ビックリです。

へー、10年にこんなアルバムが出ていたのかと、今頃気付いたわけなんですが、
日本未入荷だったわけでなく、どうやらぼくが見逃していただけみたい。
このあと15年にもアルバムを出していて、
そちらは見覚えがあるものの、う~ん、なんで買わなかったのかなあ。

というわけで、かなり遅まきながら、聴いているわけなんですが、
なんとも大胆な企画でデビューしたものです。
日本人歌手が韓国の大物歌手のゲストも得て、韓国でデビューしました、みたいな。
いや、それ以上のインパクトだろうな。
トルコとギリシャの関係は、日韓どころじゃない険悪さですからねえ。
いや、最近の日韓も、それに迫るヤな雰囲気になりつつありますが。

ディレク・コチェはイスタンブール工科大学で建築を学んだあと、
ギリシャ第2の都市、テッサロニキに移住したという経歴の持ち主。
オスマン・トルコ時代に、コンスタンティノープル(現イスタンブール)に次ぐ
歴史的都市だったテッサロニキに暮らして、
ギリシャ歌謡に潜むトルコ民謡の陰を見い出したといいます。

ビザンティン音楽を学ぶ一方で、トルコ民謡をもっと深く知る必要性も感じて、
伝説の吟遊詩人アーシュク・ヴェイセルを熱心に聴くようになったのだとか。
そうしたトルコとギリシャが共有していた音楽文化を探訪しながら、
バルカンや東地中海のレパートリーも加えていくようになったといいます。
伝統的な弦楽アンサンブルで、アナトリアの詩情を歌った本作、
ミュージシャンは全員ギリシャ人のようですが、見事なものです。
トルコ人リスナーにも大いにアピールすることウケアイでしょう。

たいへんな力作にもかかわらず、
ディレク・コチェの肩の力が抜けた歌唱が、またいいじゃないですか。
さっぱりとした歌いぶりが、小アジアの歌心を再認識させてくれるようです。

Dılek Koç "SEVDALIM AMAN" Eros 3901167073 (2010)
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イサーンの節回し ノーンマイ・ムアンチョンペー

Nongmai MuangChompae  FAN KAO KUE PAO MAI.jpg

ルークトゥンやモーラムは、ごく一部の人気歌手をのぞき、
ほぼCD生産をストップしてしまったみたいですね。
フィジカルはMP3 CDかカラオケVCDのみになりつつあるというこの傾向、
タイばかりでなく、ほかの国にもどんどん広がっていくんだろうなあ。
というわけで、めぼしい新作が手に入らなくなったタイ歌謡でありますけれど、
旧作のなかから、絶品のモーラムを見つけちゃいました。

ノーンマイ・ムアンチョンペーというこの女性歌手、
ジャケットを見ると、かなりキャリアのありそうな顔立ちで、
イントロからいきなりググッと引き込まれました。
なに、このボトムの厚み。
地を這うベース・ラインのグルーヴィなことといったら、こりゃ、たまら~ん!

レーベルがグラミーのような大手ではなく、ダイアモンドという庶民派レーベルなので、
アレンジもたいして凝っておらず、プロダクションも豪華とはいかないものの、
このグルーヴは天下一品でしょう。
タメの利いたベースが、ビートに重量感をもたらし、
中低域が薄くなりがちなモーラムのサウンドを、ぐっと聴きごたえあるものにしています。

ノーマン・ムアンチョンペーのイサーン丸出しのこぶし回しが、
文句なしの実力を発揮しています。クセの強い声も、いいなあ。
楽団一座を率いて、ドサ回りを相当こなしてきた者でなければ、
バンドを引っ張っていく、これだけの歌いっぷりはできないでしょう。
これぞイサーンといった節回しが、本場モーラムの濃厚な味わいを醸し出し、
スロー・ナンバーのイサーン・ルークトゥンも、実に味わい深く歌っています。

Nongmai MuangChompae "FAN KAO KUE PAO MAI" Diamond Studio TOP751 (2013)
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ジャズマスターの業師 ネルス・クライン

The Nels Cline 4  CURRENTS, CONSTELLATIONS.jpg

センスのいいジャケットに目を引かれました。
おお、ジュリアン・レイジが参加しているのかと、
試聴機のヘッドホンをつけて、ボタンを押すと、
ジャーーーーーンと、ギターのカッティング一発。
はやここで、胸が高鳴っちゃいました。
ベース・ラインが走り出すと、ギター2台が後を追うように走り出します。
うぉー、カッコいい。

ネルス・クライン? 誰、それ?
ウィルコのギタリストなの? ウィルコ、聴いたことないしという、
あいかわらずのしょーもないロック音痴でありますが、
こんな即興系のカッコいいギター弾く人なのね。
ジョン・ゾーンやフレッド・フリスを思わせるアヴァンなギターに、即トリコとなりました。

ジュリアン・レイジとのツイン・ギターで、
堂々と個性を競い合ってるんだから、すごい実力じゃないの。
壊れた感じのアヴァンなロックから美しいスロー、
さらにインド音楽の影響を感じさせる曲など、楽曲の幅広さも魅力です。
それに合わせてギターのサウンドも多彩で、エフェクター使いは控えめですけれど、
ハーモニクス奏法など、引き出しの多さにキャリアが裏打ちされています。

カーラ・ブレイの‘Temporary’ のような不定形なリズムにのせて、
アブストラクトなラインを作るのもうまいし、この人、ほんとにロック・ギタリストなの?
なんか、即興系ギタリストとしか思えないんですけど。

あわててチェックしてみたら、なんとぼくより二つも年上。
おいおい、ヴェテランじゃない。ジュリアン・ラージと親子ほども年が違うぞ。
やっぱり出身はジャズだったんですね。
チボ・マットの本田ゆかさんの旦那さんだったとは。
ティナリウェンの11年作“TASSILLI” の1曲目でギター弾いてるのも、彼だったのか。

14年にはジュリアン・レイジとのデュオ作も出してたのかあ。完全に見逃してるな(恥)。
お互いの手の内を理解した、よく通じ合っているプレイは、そのせいなんですね。
緊張と調和も見事な、ツイン・ギター・カルテットの魅力に富んだ傑作、
このメンツでライヴ観たいです。

The Nels Cline 4 "CURRENTS, CONSTELLATIONS" Blue Note 00602567429104 (2018)
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ジャズを超える音楽作品 ネイト・スミス

Nate Smith  KINFOLK.jpg

ネイト・スミスって、クリス・デイヴと1つ違いなんですね。
二人ともすでに中堅どころのドラマーなのに、
年下の若手ミュージシャンとの共演が多いせいか、
新世代ジャズのイメージが強いんですけれど、もう40も半ばなんですよねえ。

ネイト・スミスの10年前のリーダー作は、自分ではほとんどドラムスを叩かず、
打ち込み使いのR&B色の強いヴォーカル・アルバムだったので、
17年の本作もプロデューサー作品なのかと、勘違いしておりました。
こちらもコンセプト・アルバムながら、
まごうかたなき現代的なジャズ作品じゃないですか。
いやー、聞き逃さずにすんで、良かったわあ。

スゴイですよ、このアルバムの完成度。
クリス・バワーズ(ピアノ)、フィマ・エフロン(ベース)、
ジェレミー・モスト(ギター)、ジャリール・ショウ(アルト&ソプラノ・サックス)
の4人を中心に、デイヴ・ホランド(アコースティック・ベース)、
クリス・ポッター(テナー・サックス)、アダム・ロジャース、
リオネール・ルエケ(ギター)、グレッチェン・パーラト(ヴォーカル)という
豪華メンバーを揃え、ネイト・スミスの音楽世界を十二分に広げています。

ネオ・ソウルあり、ジャズ・ファンクあり、ミナス風ブラジリアンあり、
牧歌的なアメリカーナありと、スナーキー・パピーにも似た
華やかなクロスオーヴァー・ジャズを繰り広げるなかで、
ヌケのよい爽快なドラミングが生み出すグルーヴは、やはり天下一品。
多彩な作風を演出する作曲家としての高い才能も示していて、
穏やかな楽想に沿った映像的な演奏も、見事です。
ドラマー、コンポーザー、プロデューサー、それぞれの才能の成熟を感じさせる
スケールの大きな音楽作品です。

Nate Smith "KINFOLK: POSTCARDS FROM EVERYWHERE" Ropeadope no number (2017)
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スウィンギン・アイリッシュ・フィドル ジェリー・オコナー

Gerry O’Connor  LAST NIGHT’S JOY.jpg

もう一丁、とびっきり清廉な1枚を。
こちらはアイリッシュで、歌ものでなく、インスト演奏。
ラ・ルーやスカイラークの活躍で知られるフィドルの名手、
ジェリー・オコナーのソロ作です。
バンジョー奏者のジェリー・オコナーじゃありませんよ、念のため。

ジェリーほどの名手ながら、これが2作目というのも意外ですけど、
ソロ・アルバムはなんと14年ぶりというんだから、
寡作ぶりにも程があるというもの。

ジェリー・オコーナーは北部ラウス州のダンドーク出身。
母親のローズ・オコナーは、多くの演奏家を育てた
ラウスを代表するフィドル奏者で、ジェリーもローズからフィドルを仕込まれたんでした。
ジェリーの息子のドーナル・オコナーも優れたフィドル奏者で、
ギターも弾くほか、プロデューサーとしても活躍しています。
本作では、フィドル、テナー・ギター、ピアノを演奏していて、
プロデュースとミックスも手がけています。

最初に挙げた同姓同名のバンジョー奏者も参加して、
なんとも軽やかでスウィンギーなフィドルの名人芸を堪能することができます。
伴奏のピアノやギターがリズムを生み出すのではなく、
ジェリーのボウイングがこのスウィング感をもたらしているところが、スゴイですね。
ダンスせずにはおれないグルーヴ感いっぱいのプレイで、身体がむずむずします。
アイリッシュ・ダンスのステップを習いたくなりますねえ。

うきうきするリールやジグに、歌ごころ溢れる美しいエアのほか、
1曲米国産ポルカをやっているのも聴きものです。
ジェリーの軽妙なスタイルとすごくマッチしていますね。
ジャケットの暗い写真があまりに不釣り合いな、
春の光を想わすすがすがしいアルバムです。

Gerry O’Connor "LAST NIGHT’S JOY" Lughnasa Music LUGCD966 (2018)
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スコットランドの新星デビュー ハンナ・ラリティ

Hannah Rarity  NEATH THE GLOAMING STAR.jpg

またしても清廉な歌声がスコットランドから届きました。
18年のBBCラジオ、スコットランド若手伝統音楽家賞を受賞した、
グラスゴーの若き新進女性歌手のデビュー作。
このクリアーなクリスタル・ヴォイスに、
ココロときめかないトラッド/フォーク・ファンなんて、いないでしょう。

ただきれいに歌うだけじゃありません。
アルバム1曲目を飾るのは、ジーニー・ロバートソンが歌った伝承曲の
‘The Moon Shine On My Bed Last Night’ なんだから、
スコットランド古謡へのまなざしも確かです。

才能豊かな若きハンナを盛り立てるのが、ベーシストでプロデューサーの
イアン・バートン、シボーン・ミラーやキム・カーニーなど、
多くの女性トラッド/フォーク・シンガーのプロデュースを務めるほか、
ジャズ・フィールドでの活躍もめざましいミュージシャンです。

そのせいか、イントロや間奏などなにげないところで、
おやっと思わせるハーモニーやフレージングを聞かせるところは、イアンの仕業でしょうか。
トラッド/フォークの味を損なわないように、目立たないところで、
カクシ味的なアレンジが利いています。

ハンナの歌いぶりで引き込まれたのが、
ディック・ゴーハンが歌った伝承曲の‘Erin Go Bragh’。
ひそやかに歌う曲とは違う力の入った歌いぶりに、
はっちゃけた素の顔が垣間見れて、とても魅力的でした。

フィル・カニンガムのアコーディオンをバックに、
デイヴィ・スティールの曲で静かに締めくくった、アルバム・ラストまで、
コンテンポラリーなフォーク・サウンドも抑制が利いていて、満足感が得られます。

Hannah Rarity "NEATH THE GLOAMING STAR" Hannanh Rarity HR085NEA (2018)
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王道ポップ・ライを更新したサウンドで カデール・ジャポネ

Kader Japonais  DREAM.jpg

おお、このメジャー感、スゴイな。
ここまでポップにしたライっていうのも、いいもんだね。
ジャケットからして、ライの場末感なんてみじんもない爽やかさですよ。

トゥアレグ・バンドとも共演するし、アラブ歌謡路線でもいけるという、
カデール・ジャポネの18年の新作は、この人のヴァーサタイルな才能が、
本来のポップ・ライという土俵で存分に発揮された快作になりました。
ノリにノッているのが、その歌いぶりからもしっかりと伝わってきますよ。

アナログ・シンセの温かな響きがいいじゃないですか。
ひらひらと鳴るクラリネットもグッときますよ。
80年代のポップ・ライのサウンドが完全に復活していますね。
フラメンコを取り入れているのも、同じベクトルでしょう。
ライアンビー、レッガーダなどのダンサブル路線を経て、
ライも一周回り終えたというか、歌謡路線にしっかりと戻ってきたのを感じます。

それもソフィアン・サイーディのようなレトロ路線ではなく、
しっかりと現代に更新されたサウンドとなっているところに、
王道のポップ・ライの逞しさをおぼえます。
なんら新しいことをしているわけでもないのに、
いや、むしろいっさいの新機軸を打ち出さずに、
これだけフレッシュなサウンドを作れるところが、手柄じゃないですかね。

Kader Japonais "DREAM" Villa Prod no number (2018)
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年明けはシャアビから カメル・シアムール

Kamel Syamour  DDUNIT.jpg

あけましておめでとうございます。

暮れの12月から良作が続出で、嬉しい悲鳴をあげっぱなしなんであります。
お気に入りのヘヴィロテ盤も聴きたし、未聴CDの山も片づけにゃならんし、
これじゃ正月休みが足りない~♪
とにかく買うCD、買うCD、全部いいんだから、仕事なんかしてる場合じゃない(?)。
このブログの記事もたまりにたまってしまい、ひと月先まで予約済という始末です。

そんなわけで、どれを年明け第1弾にしようかと思案してたんですが、
カビール人シンガー、カメル・シアムールの2作目にしました。
ここ数年聴いたシャアビで、間違いなくこれは最高作ですね。

シャアビというと、つい古いものばかり聴いてしまう傾向が強くて、
というのも、どうも最近のシャアビはガツンとこないというか、
スムースすぎて物足りないからなんですが、この人は違いました。
苦味のある声に、シャアビならではのメリスマには、
いにしえのシャアビの味わいがしっかりと宿っています。

それもそのはず、この人、90年代にパリへ渡ってから、
イディールやスアード・マッシ、アクリ・デなどのバックをつとめながら、
長い下積みを経て、ようやく09年にデビュー作を出したというのだから、
キャリア十分なわけですね。
なんだかソフィアン・サイーディといい、最近のアルジェリア音楽では、
こういう隠れたヴェテランの活躍が目立ちますね。

バックはすべて生演奏、カメルが弾くマンドーラを中心に、
ヴァイオリン、バンジョー、アコーディオン、ガイタ、ダルブッカなどの編成に、
男性コーラスやゲストの女性シンガーも加わるという、
100%シャアビのサウンドが嬉しい。

曲により、ストリングス・セクションが加わったり、ピアノを起用するほか、
うっすらと鳴らすキーボードのカクシ味も利いてますね。
リズム・アレンジには現代的なセンスが聴き取れ、
まぎれもなくシャアビの今の姿をくっきりと捉えた力作といえます。

個人的に嬉しかったのが、42年にフランスへ渡ったカビール人歌手
スリマン・アゼムの代表曲‘Baba Ghayu’ をカヴァーしていること。
スリマン・アゼムはカビール系移民の支持を集めて大成功を収めた歌手で、
カメルのいわば大先輩。
スリマンのオリジナル・ヴァージョンをイントロにサンプルして、
するりとレゲエ・アレンジにしたカメル・ヴァージョンへとすべり込む演出がイキです。

Slimane Azem  LES MAÎTRES DE LA CHANSON KABYLE.jpg

スリマン・アゼムのオリジナル・ヴァージョンが入ったAAA盤を聴き直してみましたけれど、
スリマンへのリスペクトが感じられる仕上がりじゃないですか。
こういう秀逸なカヴァーをするところにも実力をうかがわせる、
カビール系シャアビの傑作です。

Kamel Syamour "DDUNIT" Gosto no number (2014)
Slimane Azem "LES MAÎTRES DE LA CHANSON KABYLE : VOL.Ⅱ- LE FABULISTE" Club Du Disque Arabe AAA092
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マイ・ベスト・アルバム 2018

Itiberê Zwarg & Grupo.jpg   Deangelo Silva  DOWNRIVER.jpg
Monarco  DE TODOS OS TEMPOS.jpg   Johnny Tucker.jpg
RIRI 2018.jpg   クラックラックス 20181828.jpg
Netsanet Melesse  DOJU  BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION.jpg   Mafikizolo 20.jpg
Adekunle Gold  About 30.jpg   Angelique Kidjo  REMAIN IN LIGHT.jpg

Itiberê Zwarg & Grupo "INTUITIVO" SESC CDSS0110/18
Deangelo Silva "DOWNRIVER" no label no number
Monarco "DE TODOS OS TEMPOS" Biscoito Fino BF553-2
Johnny Tucker "SEVEN DAY BLUES" Highjohn 007
RIRI 「RIRI」 ソニー AICL3478
CRCK/LCKS 「DOUBLE RIFT」 アポロサウンズ POCS1710
Netsanet Melesse "DOJU : BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION" Truth Network Corporation no number
Mafikizolo "20" Universal CDRBL918
Adekunle Gold "ABOUT 30" Afro Urban no number
Angelique Kidjo "REMAIN IN LIGHT" Kravenworks KR1002

初の自著『ポップ・アフリカ700』を出して始まった50代、
終わってみたら、人生最大の荒波にもまれたデケイドでありました。
60代はどうなることやら。ハプニング上等とはいえ、おてやわらかに。
このブログも来年6月で10周年を迎えます。
いつも読んでくれて、ありがとうございます。
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ノスタルジックなサナート エィレム・アクタシュ

Eylem Aktaş  ÖZLEM.jpg

やっぱり好きだなあ、この人。
7年を経てようやく出たエィレム・アクタシュの2作目。
涼風のようなメリスマにうっとり。あらためてホレ直しちゃいましたよ。
ジャケットのチャーミングなお顔も見目麗しく、
LPサイズで飾っておきたくなりますね。

デビュー作では6人ものアレンジャーを起用し、生音アンサンブルにのせて、
しつこさのない爽やかな歌唱を聞かせていたエィレム。
古典歌謡をしっかりと習得した高い歌唱力を持ちながら、
それをけっしてひけらかさずく、さりげなく歌う淡い歌いぶりは、
新人らしからぬ成熟ぶりで、感じ入ったものです。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-05-11

そして、今回は古典歌謡やサナートをレパートリーとしながら、
びっくりアレンジで聞かせるアルバムに仕上がっています。
イントロからサルサ・タッチのピアノで始まり、えぇ?と驚いていると、
続いてシャルクのメロディにのせて、エィレムがしとやかなメリスマを響かせます。
異種格闘技みたいな、接ぎ木スタイルのアレンジがすごく面白い。

今作のアレンジは、作編曲家・プロデューサーとしても活躍する
ジャズ・ギタリストのジェム・トゥンジャシュ。
冒頭のサルサ以外にも、タンゴやジャズにアレンジした曲など、
全体にノスタルジックなムードを濃厚とさせながら、
メロディはあくまでもシャルク/サナートというところがミソ。
ライナーの歌詞カードには、各曲のマカームが書かれています。

エィレムもレパートリーの楽想に合わせ、表情豊かに歌っていて、
ジャジーなサナートというユニークな試みを、実に美味に仕上げています。
サナートなどのトルコ歌謡をまったく聴いたことがない、
ヴォーカル・ファンにも、ぜひ勧めてみたくなりますね。

Eylem Aktaş "ÖZLEM" ADA Müzik no number (2018)
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ジャズとレア・グルーヴの違い ステフォン・ハリス+ブラックアウト

Stefon Harris Blackout  SONIC CREED.jpg

最初聴いた時は、端正なコンテンポラリー・ジャズ・アルバムと、
それほど強い印象はなかったんですけど、
妙に色気のあるレア・グルーヴ感いっぱいのトラックに後ろ髪を引かれて、
何度も聴き返すうち、すっかり愛聴盤。
ああ、これもまた、現代のジャズらしさなんでしょうね。

そのひっかりを覚えたのが、元ジャネイのジーン・ベイラーをフィーチャーした2曲。
ボビー・ハッチャーソンの ‘Now’ で、ジーン・ベイラーの多重録音したコーラスと
ケイシー・ベンジャミンのヴォコーダーが、極上のメロウネスぶりを聞かせるんですが、
そのイントロからして、チェロ、ヴァイオリン、クラリネット、
ヴィブラフォンによる合奏のアレンジがデリケイトの極致。

さらにもう1曲の ‘Let’s Take A Trip To The Sky’ では、
ジーンの甘いタメ息のようなヴォーカルに絡むケイシー・ベンジャミンのヴォコーダーが、
超絶な甘美さで昇天もの。なんなんですか、このラグジュアリー感は!
こういうセンスがDJじゃなくて、ジャズ・ミュージシャンが持ち合わせてるところが、
イマドキなんでしょうねえ。

紹介が遅れましたけれど、ステフォン・ハリスは、
ボビー・ハッチャーソンの後継者ともいうべきヴィブラフォン奏者で、
ジャズ・フィールドばかりでなく、ライ・クーダーやコモンとも共演するなど、
各方面から引っ張りだこの人。

自身のユニット、ブラックアウト名義では9年ぶりの本作、
さきほど挙げたケイシー・ベンジャミンが、
アルト・サックスでも熱のあるブロウを聞かせるほか、
ステフォンとは長年の相棒であるテレオン・ガリーのドラムスが、冴えまくってるんですよ。
テレオン・ガリーといえば、クリスチャン・マクブライドからデヴィッド・サンボーンまで、
トップ・プレイヤーたちから頼りにされているドラマーで、
大西順子のアルバムにも起用されてましたよね。

そのテレオン・ガリーの秀逸なリズム解釈を聞けるトラックが、
レア・グルーヴ時代の人気曲だった、ホレス・シルヴァーの ‘Cape Verdean Blues’。
カリプソ調のハネる4拍子が印象的な曲で、ダンサブルなリズムで「踊れるジャズ」と
再評価されたのでしょうけれど、タイトルに相反してカリブ海系のリズムだったのは、
ホレスがカーボ・ヴェルデ音楽を知らなかったからでしょうか。
お父さんから教わらなかったのかな。
ちなみにホレス・シルヴァーは、カーボ・ヴェルデ移民二世で、
シルヴァーは本名のシルヴァを変えた名前だったんですよ。

それはさておき、オリジナルのヴァージョンは、
ハネる4拍子が続くだけのリズムだったのが、
こちらではテンポも拍子もめまぐるしく入れ変わる、
複雑なリズム・アレンジが施されています。
スリリングに変化していくリズムの中で、細かくリズムを割ったり、
ゆったりとルバート気味に叩いたりと、
テレオンは変幻自在に叩き分けていて、これ、ほんとスゴイぞ。

さらっとスムーズに聞けるようで、じっくりとリズムを聴けば、
相当複雑なことをやってのけていて、
さすがにこれは、レア・グルーヴのDJにはマネのできない、
ジャズ・プロパーの仕事ですね。
ボビー・ティモンズ、ウェイン・ショーター、アビー・リンカーン、
マイケル・ジャクソンという選曲も非凡で、聴けば聴くほどに引き込まれる作品です。

Stefon Harris + Blackout "SONIC CREED" Motéma MTM0238 (2018)
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トーゴリーズ・ヴードゥー・ディスコ ヴォードゥー・ゲーム

Vaudou Game Otodi.jpg

うぉ、今回はイイぞ。
トーゴのギタリスト、ピーター・ソロ率いるヴォードゥー・ゲームの3作目となる新作。
物足りなさが残った1・2作目とは、見違えましたよ。

去年トーゴ・オール・スターズのアルバムが出た時は、
ピーター・ソロがやりたかったことを先にやられちゃったねえ、
みたいな印象を持ちましたけれど、ついに一矢を報いましたね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-10-06

まんまJBズ・スタイルのオープニング‘Not Guilty’ から、引き込まれましたよ。
トーゴ・オール・スターズでもフロントを務めていた
トーゴのジェイムズ・ブラウンこと、ロジャー・ダマウザンがゲスト参加しています。
苦み走ったヴォーカルにヴェテランの味わいがあって、グッとくるんですが、
なんとピーター・ソロは、ロジャー・ダマウザンの甥っ子なんですってね。
知らなかったなあ。

1・2作目とはメンバーがすっかり変わり、デビュー作のメンバーは一人もおらず、
2作目のサックス奏者のみを残し、ほかは全員が交代しています。
さらに、今作はストリングス・セクションに女性コーラスも加わり、
サウンドの厚みばかりでなく、レパートリーの広がりもみせていますよ。

トーゴ・オール・スターズのような重量感には欠けるぶん、
小回りの利く、軽妙な切れ味がヴォードゥー・ゲームの良さ。
過去2作ではミックスが平板で、サウンドがやせて聞こえましたけれど、
今回のミックスは厚みが出て、奥行きが生まれています。

いわゆるアフロ・ソウルなディスコ・サウンドといえますけれど、
曲ごとに異なるカラーを持った曲が集まり、
典型的なファンキー・ハイライフの‘Bassa Bassa’ もあれば、
ルンバ調のギターをフィーチャーした‘Lucie’、
アフロビートの‘Sens Interdit’、
女性コーラスが歌うヴォードゥーの‘Tassi’ ありと、実に多彩。
トーゴリーズ・ヴードゥー・ディスコ、痛快です。

Vaudou Game "OTODI" Hotcasa HC59 (2018)
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ターラブの温故知新 マトナズ・アフダル・グループ

Matona’s Afdhal Group.jpg

ターラブは、アフリカとアラブとインドが出会ったハイブリッドな歴史を持つ音楽。
そこに、ジャズやクラシックなど西洋の音楽も取り込んでみれば、
より複雑なアラベスク文様をみせるターラブになるんじゃない?なんて思ってたら、
そんな期待に応えてくれる、素晴らしい作品が登場しました。

ノルウェイのジャズ・ミュージシャンが、ザンジバルのターラブの音楽家と出会い、
ターラブとジャズを互いに教え合いながらグループ活動を続けてきたという、
マトナズ・アフダル・グループ。
ブッゲ・ヴェッセルトフトが新たに発足させたレーベル、
OK・ワールドからのリリースです。

少し前に、ノルウェイ放送局管弦楽団と
ザンジバルのターラブの音楽家たちが共演したアルバムが出ていましたけれど、
そこにも参加していたウード奏者で歌手の
ムハンマド・イサ・マトナ・ハジ・パンドゥを中心に、ヴァイオリン、サックス、ギター、
ベース、ドラムスの5人のノルウェイ人ジャズ・ミュージシャンが集まったのが、
マトナズ・アフダル・グループです。

初めてのセッションがとてもうまくいき、ご満悦となったマトナが思わず発した一言、
「アフダル」(アラビア語で「最高」の意)を取って、グループ名にしたんだそう。
なるほどそのエピソードがよくわかる演奏ぶりで、
ノルウェイ勢がターラブ・マナーに寄り添い、
両者の音楽性を見事にブレンドしています。
ヴァイオリンの女性がスワヒリ語で歌っているのも、堂に入ってます。

最近は、ジャズとローカルなフォークロアとの融合が、
無理なく行われるようになりましたね。
ジャズ・サイドの音楽家たちが、ローカルな音楽の音階や旋法を理解しようと意識を
変え始めたことが一番大きいんじゃないのかな。
ひと昔前までは、ローカルな音楽にないハーモニーを加えたり、
テンション・ノートやスケール・アウトする音使いで、
「ジャズぽい」演奏にしてしまう無神経さが横行したものですけれど、それも今や昔。
ここで聞かれるギターなんて、ジャズ・ミュージシャンとは思えないほど、
ジャズ・マナーをおくびにも出さないプレイをしています。

ザンジバルの伝説的なターラブ音楽家イサ・マトナを父に持つ
ムハンマド・イサ・マトナ・ハジ・パンドゥは、
父の楽団でパーカッション奏者として修業したのち、
18歳でカシ・ミュージカル・クラブに参加して一本立ちしたターラブ音楽家。

Ilyas Twinkling Stars.jpg   Ikhwani Safaa Musical Club  ZANZIBARA 1.jpg

20歳でムハンマド・イリアス&トゥインクリング・スターズに加わり、
91年に来日して日本でレコーディングしたCDでは、
ヴァイオリンとコーラスを務めていました。
その後、名門楽団のイクワニ・サファー・ミュージカル・クラブに移り、
『100周年』記念アルバムでも、マトナの名をみつけることができます。

本作のレパートリーでは、ターラブを大衆化させた
伝説の女性歌手シティ・ビンティ・サアドの4曲に、
アラブ歌謡の巨匠ムハンマド・アブドゥル・ワハーブの2曲を
取り上げているのが注目されます。
モダンな音楽性を志向する一方、ターラブの古典やザンジバルやエジプトの古謡を
多く取り上げた温故知新の姿勢が、本作を成功させた秘訣といえそうです。

Matona’s Afdhal Group "MATONA’S AFDHAL GROUP" OK World 377 908 7 (2018)
イリアスのきらめく星 「ザ・ミュージック・オブ・ザンジバル」 セブンシーズ/キング KICP203 (1992)
Ikhwani Safaa Musical Club "ZANZIBARA 1: 1905-2005 CENT ANS DE TAARAB À ZANZIBAR" Buda Musique 860118 (2005)
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オランダで生み出した濃厚なエチオピアン・サウンド ミニシュ

Minyeshu  DAA DEE.jpg

エチオピアン・ポップスにはまれなジャケットのデザイン・センスに、
おぉ!と手にした、オランダ在住エチオピア人歌手ミニシュの前作。
その洗練されたジャケット・デザインが暗示するかのように、
サウンドの方もグローバル・スタンダードなクオリティのプロダクションで、
実にクールな仕上がりとなっていたのでした。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-11-17

ところが、5年ぶりとなる新作は、垢抜けないジャケットに、
おやおやと気落ちしたものの、中身は上出来。
前作のプロデュースはスーコ・103のメンバー二人が担っていましたが、
今回は2作目“DIRE DAWA” 同様、鍵盤/ドラムス担当の
エリック・ファン・デ・レストとミニシュの共同プロデュースに戻っています。

“DIRE DAWA” は、ジャジーな無国籍なワールド・フュージョンといった
サウンドでしたけれど、前作“BLACK INK” の経験がモノをいったんでしょう。
前作以上にエチオピアのフォークロアを巧みにブレンドさせた、
ハイブラウなサウンドを生み出しています。
洗練されているのに、濃厚なエチオピアの味わいを保ったままというのが、
得難いですねえ。

ホーン、ストリングス、コーラス、エレクトリック・ギターをレイヤーし、
立体的なサウンドを構築したアレンジが見事です。
曲中で変化するリズム・アレンジもスリリングで、
やっぱり人力演奏のリズム・セクションはいいと、改めて実感しますよ。

マシンコとワシント以外の演奏者は、全員欧州人のようですけれど、
エチオピアの旋法やリズムの理解も申し分なく、
北部ティグリニャの曲から南部のワライタのリズムまで、
エチオピア色満開のサウンドを楽しませてくれます。
ミニシュの線の細い歌もふくらみが増して、
前作を上回る充実したアルバムとなりました。

Minyeshu "DAA DEE" ARC Music EUCD2782 (2018)
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三代目東京人も60年間知らず おしゃらく

おしゃらく.jpg

この夏、『阿波の遊行』を聴いて四国の盆踊り歌にヤラれ、
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-08-12
やっぱりこういう豊かな芸能は、
地方に行かなきゃ見つからないんだろうなあなどと、
ぼんやり思ったもんですけれど、なんと今度は東京ですよ、東京。

「おしゃらく」というその名すら初耳という自分の不明ぶりが、
情けない限りなんですけど、江戸川区の葛西から千葉の浦安にかけて
伝わってきた、念仏踊りをルーツとする芸能だそうです。
いちおう東京人三代目で60年も生きてきたのに、まったく知らなかったという。
不明ついでに、まずは予備知識なしに向き合ってみようじゃないのと、
ブックレットの解説を読まずに聴いてみたんですが、
いやあ、圧倒されましたよ。
職業歌手には到底求められない、なまなましい唄の数々に。

明治生まれの爺さん婆さんたちの芸達者なことといったら。
おばちゃんたちが歌うあっけらかんとした明るい猥歌も、突き抜けていますねえ。
野趣溢れるのは唄ばかりでなく、猛烈にグルーヴする三味線も圧倒的。
民謡に三味線が入るようになったのは、昭和になってからというのが通説ですけれど、
おしゃらくでは、すでに明治の頃から弾かれていたというのだから、むちゃくちゃ早い。
グナワのゲンブリをホウフツとさせるワイルドぶりですよ。

念仏踊りにさまざまな遊興の芸能が交わってきたという痕跡は、
遊芸人がやっていた歌舞伎の演目が取り込まれていることにも、見て取れます。
念仏踊りのようなダンス・ミュージックあり、段物のような聴きものありと、
村の衆が念仏講で盛り上がっていた様子が、ダイレクトに伝わってくる芸能ですね。

圧倒されっぱなしで聴き終えたあと、あらためて解説を読んでみましたが、
監修した民謡DJユニットの俚謡山脈がおしゃらくとどうやって出会い、
この音源をCD化したのかという話には、ワクワクさせられっぱなしでした。
CD解説にこんなにコーフンさせられることは、なかなかないことです。

解説を読んで、64年にコロムビアから出された『東京の古謡』という5枚組LPに、
おしゃらくが10曲収録されているほか、74年にはキングから
『無形文化財 おしゃらく』というLPが出ていることも知りましたが、
いつもなら「これは早速探さなくちゃ」となる自分も、
今回はそんな気にはなりませんでしたね。

それは、伝承者の自宅に残されたプライヴェート録音から厳選した本CDの方が、
スタジオ録音のLPなどより、はるかにイキイキとした演唱であることは、
聞かずしてもわかるからです。
野趣溢れるホンモノの民謡は、こういうプライヴェート録音や
フィールド録音の中でしか、味わうことができませんからね。
あ、でも解説の中に書かれていた『おしゃらく』という本は、早速探して読んでみよう。

葛西おしゃらく保存会ほか 「おしゃらく」 エム EM1181DCD
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スパイシーなクレオール音楽絵巻 エルヴェ・セルカル

Hervé Celcal  COLOMBO.jpg

タイトルの『コロンボ』とは、奴隷制廃止後の19世紀に、
インド人労働者が小アンティル諸島へもたらした香辛料のこと。
クレオール料理になくてはならないそのスパイスは、マルチニーク生まれの
クレオール・ジャズ・ピアニストであるエルヴェ・セルカルにとって、
クレオールの象徴として掲げるのに、格好のものだったのですね。

5年前のデビュー作でエルヴェは、
マルチニークの太鼓歌ベル・エアー(ベレ)をテーマに、
マルチニークの奴隷文化ばかりでなく、レユニオンのマロヤにも目を向け、
奴隷貿易がもたらした大西洋とインド洋のクレオール文化を掘り下げていました。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-09
2作目となる本作では、さらに広範なクレオール文化に目配りをして、
クレオール音楽絵巻とも呼べる作品を作り上げています。

エルヴェのアプローチがユニークなのは、
クラシックなビギン・ジャズをカヴァーしたり、
マルチニークの伝統音楽のスタイルを探究するといった方法をとらず、
さまざまなクレオール音楽の要素を取り出して、
ジャズというフォーマットに落とし込み、
独自の音楽世界を構築しているところにあります。
こうした野心的なアプローチをとるビギン・ジャズの音楽家は、
これまでにいませんでしたよねえ。

このアルバムに詰め込まれたその情報量たるや、とんでもない多さで、
エルヴェが意図する中身を読み解くのは、ちょっとたいへんです。
たとえば、曲名を眺めてみても、西インド諸島の先住民族の「アラワク」、
マルチニークへ渡ったインド人や中国人労働者の「クーリー」、
インド洋海上交通の要衝である南インドの港町の昔の名「マドラス」、
なんてワードがぞろぞろと並んでいます。

音楽面でも、ショパンのマズルカに楽想を得たメロディに、
グラン・ベレのリズムを取り入れたオープニングから、
各曲ともふんだんなアイディアが詰まっているんですよ。

ニュー・オーリンズのセカンド・ラインや、
プエルト・リコのボンバを取り入れた曲もあれば、
ベレのリズムにのせて掛け声のコーラスが交差するパートから、
がらりと場面が変転してベースが弓弾きするパートへ移る組曲のような曲もあります。

ラスト・トラックは、フランス植民者が持ち込んだ舞踏音楽のカドリーユが、
アフリカ由来のリズムと出会って変容したオート・タイユ。
終結部のコーダでは、太鼓のベレが加わり、
コール・アンド・レスポンスのコーラスが反復されます。

全曲エルヴェの自作。ピアノ・トリオをベースに、曲によりパーカッション、コーラス、
チェロ、トロンボーン、トランペット、スーザフォンが加わる編成で、
キレのある現代性のあるビート感覚を生かしながら、
懐の深いコンテンポラリーなクレオール・ジャズを展開した一級品のジャズです。

奴隷文化のアフロ成分に、白人植民者が持ち込んだヨーロッパ成分、
そして、アジアの移民労働者がマルチニークに持ち込んだ音楽を繋ぎ、
さらには、ニュー・オーリンズやプエルト・リコという、
同じカリブ海で産み落とされた音楽をも呑み込んだクレオール音楽絵巻、
スパイスが利いていて、実に美味です。

Hervé Celcal "COLOMBO" Ting Bang TB9722916-07 (2018)
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ケタ違いの才能を伸ばせ RIRI

RIRI NEO.jpg

ケタ外れの歌唱力に圧倒されたRIRI の『RUSH』。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-07-10
女子高生R&Bシンガーの逸材登場に、オジサンの胸もトキめいたわけなんですが、
その後満を持してリリースされたメジャー・デビュー作は、新作4曲があったものの、
インディ・リリースのEP2作からの5曲とリミックス1曲を収録した
再編集ともいえるアルバムだったので、
今回が実質的なメジャー・デビュー作といえるかも。

出だしの第一声で、うん、今回もいいねと確信。
その声に身体の細胞が活性化されるのを感じる、まさしく天性の声です。
高校卒業後、ロス・アンジェルスに3か月滞在して制作されたという本作、
アメリカのメインストリームを照準に置いたプロダクションは、申し分ありません。
楽曲もいいし、ゼッド&アレッシア・カーラの「Stay」のカヴァーも鮮やか。

英語詞の合間に、ところどころ日本語詞を挟み込むというスタイルも
完全に定着しましたね。RIRI ほど、英語と日本語を全く違和感なくつなげて歌える
日本人歌手はいません。英語のリズムに、日本語のアクセントを落とし込んで、
シームレスに繋げるスキルが、RIRI の最大の武器です。
なぜ群馬で生まれ育った彼女が、
こんなスキルを身につけたのか、不思議でなりません。

歌唱・プロダクションとも、あまりにスキなく作られていて、
物足りなさが残るといえば、ゼイタクな注文でしょうか。
じっくり聴けば、さまざまな冒険をしているのもわかるし、
けっしてコンサバな作りではないんだけれど、
ケタ違いの才能がもっとハジけるような、規格外のところが欲しいなあ。

あと、ひとつだけ苦言を。
『RUSH』をリリースした時のミニ・ライヴの会場でRIRI に会ったとき、
「Jポップにならないでね」と老婆心ながら言ったおぼえがあるんですけれど、
その懸念がはや今回のアルバムに表われています。

清水翔太とデュエットした「Forever」がそれ。
こういう凡庸なバラードを、彼女に歌わせちゃ、ダメ。
こんな曲は、あまたあるJ-ポップ・シンガーに歌わせときゃいいんです。
この1曲ゆえ、本作を年間ベストに選べないのが残念でなりません。

[CD+DVD] RIRI 「NEO」 ソニー AICL3584~5 (2018)
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ビート・センスが更新した日本語の響き 中村佳穂

中村佳穂  AINOU.jpg

日常的に日本のポップスを聴く習慣があまりないので、
あくまでも偶然耳に飛び込んできた歌に、
反応する範囲での感想にすぎないんですけれど、
最近の日本の若手の歌って、日本語の響かせかたが、
べらぼうに巧みになったのを感じます。

先日知った折坂悠太もそうでしたけれど、
日本語を英語風に崩して発声するタイプの日本語ポップスの歌唱とは、
まったく異なる語法を身に付けている人が増えたように思います。
母音を強調する日本語の発声のまま、洋物のリズムにのせるスキルが、
若手はものすごく上達したんじゃないでしょうか。

これって、ヒップホップを通過した若い世代ならではの、
リズムやビートに対する鋭敏な感受性が成せる技という気がします。
もっとも、大西順子のアルバムにゲスト参加していたような、
昔の日本語フォークみたいなラップを聞かせる者もなかにはいるわけで、
みんながみんな、スキルが上がったわけでもないようですけれど。

日本語の響きをビートにのせることにかけては、
ヒップホップより、むしろポップスの分野できわだった才能が目立ちます。
水曜日のカンパネラのコムアイしかり、小田朋美しかり。
彼女たちのようなリズム・センスって、一昔前までは、
矢野顕子のようなひと握りの天才だけが持っていたものだったのに、
いまや多くの若手が獲得しているのだから、とてつもない進化です。

そんなことをまた思わせられたのが、
京都のシンガー・ソングライターという中村佳穂の新作。
ビート・ミュージックに始まり、新世代ジャズやネオ・ソウル、ピアノ弾き語り、
民謡をモチーフにした曲など、さまざまな情報を詰め込んだトラックが並ぶものの、
一本芯が通っているのが、ビートで磨きあげられた日本語の響きです。
作為のない中村の発声が、日常感情を率直に表現した歌詞をまっすぐに伝えます。

「日本語ロック論争」などといったものが、
完全に昔話となったのを実感させる、頼もしい若手たちの登場です。

中村佳穂 「AINOU」 スペースシャワー DDCB14061 (2018)
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ロンドンのブラック・ディアスポラ モーゼス・ボイド・エクソダス

Moses Boyd Exodus  DISPLACED DIASPORA.jpg

鳴り響くパトカーのサイレンに続いて、ヨルバ語のチャントが吟じられ、
エレクトロ・ファンク・グルーヴがすべり込んでくるオープニングに、
胸をぎゅっとつかまれました。
その昔、ロンドンにひと月ほど滞在した時によく通った、
ブリクストンやトッテナム、セヴン・シスターズといったアフリカ系移民街の街並みが、
まざまざと目の前に蘇ったからです。

UK新世代ジャズで注目を集めるドラマー、
モーゼス・ボイドが率いるエクソダス名義の初アルバムは、
タイトルが示すとおり、アフリカ/カリブ系移民子孫のまなざしを投影した作品で、
ブラック・ディアスポラ意識の高い音楽家たちが数多く集まっています。

ドミニカ人の父とジャマイカ人の母のもとに生まれたモーゼス・ボイドは、
南ロンドンのキャットフォード生まれ。
南ロンドンのアフリカ系移民街ペッカムにもなじみがあり、
ペッカムのメイン・ストリート、ライ・レーンをタイトルに掲げた曲も収められています。

このアルバムで大きな存在感を放っているのが、
トリニダッド・トバゴにルーツを持つアルト・サックス奏者、ケヴィン・ヘインズですね。
ケヴィンはアフリカン・ダンス・カンパニーのパーカッショニスト兼ダンサーから、
ジャズ・ミュージシャンへ転身した人で、キューバでサンテリアの音楽を学び、
バタやヨルバ語を習得したというユニークな経歴を持っています。

ケヴィン率いるグルーポ・エレグアが参加した4曲は、
オープニングの‘Rush Hour/Elegua’ ほか、
チューバとギターが冴えたプレイを聞かせる‘Frontline’ に、
ファラオ・サンダースやサン・ラが思い浮かぶ‘Marooned In S.E.6’、
バタとエレクトロが交差する‘Ancestors’ と、
都会に野生を宿らせたナマナマしい演奏ぶりに、ドキドキさせられます。

新世代スピリチャル・ジャズともいうべき、熱のある演奏を聞かせる一方で、
UKジャマイカンのザラ・マクファーレンが歌うジャズ・バラードや、
テリー・ウォーカーをフィーチャーした、
ヒップホップ/ネオ・ソウルのトラックもあるのは、
エレクトロのプロデューサーとしての別の側面を表わしたものなのでしょう。

コンクリートとアスファルトの街に響き渡るバタのリズムと、
アフロフューチャリスティックな響きを獲得したエレクトロニカが、
熱量のあるドラミングによく映えた本作がレコーディングされたのは、15年のこと。
すでにボイドはここから一歩も二歩も歩みを進めているはずで、
多角的な才能を発揮する俊英ドラマーの今後にも、期待が高まります。

Moses Boyd Exodus "DISPLACED DIASPORA" Exodus no number (2018)
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20年代ハーレムのギター・マエストロ ボビー・リーキャン

Bobby Leecan  Guitar Maestro.jpg

1920~30年代に活躍したギター兼バンジョー奏者、
ボビー・リーキャンの単独アルバムが、
戦前ジャズ/ブルースの専門レーベル、フロッグから出ました。

よほど熱心な戦前音楽ファンでないと知る人もいないでしょうけれど、
ぼくにとっては、アルバータ・ハンターや
マーガレット・ジョンソンの伴奏で忘れられない人です。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-03-26
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-03-24
いまだに写真の1枚も見つかっていない、謎のリーキャンですけれど、
近年の調査で判明したさまざまな遍歴が、ライナーに載せられています。

バンジョーをバリバリとフィンガリングする、太く逞しいサウンドがリーキャンの持ち味。
低音弦を響かせてドライヴするギターに、その凄腕が表われています。
高音弦を華麗に響かせてメロディ・ラインを作るロニー・ジョンソンとは、
真逆のタイプですね。リーキャンが高音使いするのは、
装飾的に和音を鳴らすときくらいなんですけれど、
12弦ギターのような複弦の音がするのが不思議。

解説には、チャーリ・クリスチャンのプレイとの類似性が指摘されていますけれど、
その見解はぼくには疑問。リーキャンは、ギターをメロディ楽器として弾くことより、
リズム楽器としてプレイすることを重視した人で、
ショーロの7弦ギターのように、低音弦をガンガン鳴らすプレイが特徴でした。

このCDには、相棒のハーモニカ奏者ロバート・クックシーと組んだ
サウス・ストリート・トリオや、ウォッシュボード・バンド、
女性歌手の伴奏など、さまざまなタイプの演奏が収録されています。
そのどれもが、ジャズというよりヴォードヴィル色の強いもので、
レパートリーのほとんどがダンス・チューンというところが嬉しいんですよね。

黒人大衆演芸ムードがいっぱいの、
エリザベス・スミスとシドニー・イーストンの掛け合いも聴きもの。
エリザベスの歌に茶々を入れるシドニーの語り口が、いいんだなあ。
映画『ストーミー・ウェザー』で、
エイダ・ブラウンの歌にファッツ・ウォーラーが絡むシーンを思わせますね。
そのファッツ・ウォーラーが、パイプ・オルガンを弾いているトラックもありますよ。
ギター弾き語りで聞かせるリーキャンの歌にも、味わいがあります。

ボビー・リーキャンは、ずいぶん昔にドキュメントがCD化した2枚がありましたけれど、
選曲・曲順の良さでは、このフロッグ盤の方に軍配が上がりますね。
音質も驚くほど良くって、ガッツのある低音がすごく出ていますよ。
寒くなってきた宵の口に聴くのにもってこいの、
身体も気持ちもほっこりと温めてくれる、最高の一枚です。

Bobby Leecan "SUITCASE BREAKDOWN" Frog DGF86
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冬に聴くディープ・ヴォイス アル・リンゼイ

Al Lindsey  VERSATILITY.jpg

寒くなってくると、いいサザン・ソウルであったまりたくなります。
ということで、今年の冬も嬉しいアルバムに出会えましたよ。
かすれたスモーキー・ヴォイスが持ち味のデトロイトの実力派シンガー、
アル・リンゼイの新作です。

80年代のアーバン・ソウルをホウフツさせるサウンドにのせて、
じっくりと歌い込んでいますよ。
スローでの胸をかきむしるようなノドを絞った歌唱に金縛りとなり、
ブルースのアップ・ナンバーでのキレのある歌いっぷりに、ノック・アウトをくらいました。

ゴスペルの熱さをしっかりと伝えてくるディープなヴォーカルは、
やっぱり聴きごたえがありますねえ。
ウイリー・クレイトン、J・ブラックフット、ラティモアなどとの共演歴が、
この人の実力を物語っています。

アイザック・ヘイズの影も見え隠れするコンテンポラリーなサウンドは、
ヴィンテージな香りが漂い、華美になりすぎないプロダクションが、
歌と実にいいバランスです。ディープ・ソウルのコブシを利かせつつも、
現代のコンテンポラリーな洗練された歌い回しもできる、
間違いなくトップ・クラスの実力派シンガーです。

Al Lindsey "VERSATILITY" no label no number (2018)
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トゥアレグ版『パープル・レイン』 エムドゥ・モクタール

Mdou Moctor  AKOUNAK TEDALAT TAHA TAZOUGHAI.jpg

トゥアレグ版『パープル・レイン』ついにDVD化!
これは嬉しい。観たかったんです、この映画。
ニジェールのトゥアレグ人ギタリスト、エムドゥ・モクタールが主演した
『かすかに赤みがかったブルー・レイン』です。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-10-18

監督を務めたサヘル・サウンズの主宰者クリストファー・カークリーは、
全編タマシェク語の音楽映画は世界初と豪語しており、
ナイジェリアのハウサ語映画に牛耳られている
サヘル地帯の映画事情に風穴を開けようとしたと、鼻息荒く語っています。

この映画で描かれているのは、アガデスに暮らすトゥアレグ青年たちの日常。
レベル・ミュージックといった政治的なテーマは、ここには出てきません。
エレクトリック・ギター、オートバイ、携帯電話がこの映画のキーとなっているように、
疎外されたサハラの若者たちの心情をすくい上げた娯楽映画になっています。

当初カークリーは、『パープル・レイン』をベースにした脚本を作っていったものの、
現場で俳優たちからシナリオを拒絶され、よりトゥアレグの若者たちの現実に
沿った内容へと、どんどん修正されていったんだそうです。

その修正の結果、敬虔なイスラーム教徒の父親が、
ギターを弾くヤツなど、麻薬やアルコールの中毒者だけだと、
息子のギターを燃やしてしまうシーンや、
エムドゥと恋人が仲たがいするエピソードのシーンが生まれたのだとか。

このほかにも、コンペティションに向けてリハーサルをしていたエムドゥの演奏が、
小遣い目当ての少年に携帯電話で盗み録りされて、
ライヴァルのギタリストに自作曲を盗まれたり、
かつて父親も音楽家を夢見て詩を書いていたことを知ったエムドゥが、
父の詞に曲を付けて歌うなどのプロットにも、
トゥアレグのリアルな現実がよく捉えられています。

こうしてみると、この映画、『パープル・レイン』というより、
ジミー・クリフの『ザ・ハーダー・ゼイ・カム』とカブるところもありますね。
出演しているキャストの大部分がアマチュアで、
ミュージシャン自身が演じているところも同じなら、
かたやキングストン、かたやアガデスという、
街のヴィヴィッドな姿を活写しているところもよく似ています。

フランス人撮影監督ジェローム・フィーノとともに、
たったの8日間で撮影を終えたという低予算映画ながら、
現場での葛藤が良い方向へ作用して、ストーリーにリアリティを生み出し、
トゥアレグのアマチュア俳優たちのいきいきとした演技につながった、秀逸な作品です。

全編75分。英仏語字幕付、NTSC方式なので、日本のプレイヤーで視聴可能。
1000部限定のリリースです。

[DVD] Mdou Moctor "AKOUNAK TEDALAT TAHA TAZOUGHAI" Sakel Sounds no number (2015)
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トゥアレグ新世代ギター・バンド イマルハン

Imarhan Temet.jpg

アルジェリア南部タマンラセット出身のトゥアレグ人バンド、イマルハンの2作目。
今年2月に出ていたのに、まったく気付かなかったのはウカツでした。
2年前のデビュー作が、優れた出来だったにも関わらず、
日本ではまったく評判になりませんでしたよね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-05-16
新作も上出来なのに、ずっと気付かなかったほど
話題に上らずにいるのは、残念すぎます。

あまたあるトゥアレグ・バンドの中で、イマルハンが抜きん出ているのは、
ソングライティングの良さですね。
キャッチーというと、ちょっと語弊があるかもしれないけれど、
リーダーのサダムが書くフックの利いた曲づくりのうまさは、
とかく単調になりがちなトゥアレグのソングライターたちに比べ、
頭一つも二つも抜けています。

歌と演奏のパートが、静と動のコントラストを鮮やかにつける‘Tumast’ や、
ヘヴィーなファンクの‘Ehad wa dagh’ がある一方、
砂漠の夜のキャンプファイアが目に浮かぶ、トゥアレグ・フォークの
‘Zinizjumegh’ など、振り幅のある曲を書けるところが強みです。

コーラスに女性数人を加えているほか、控えめなフェンダー・ローズやオルガンが
効果を上げるなど、ゲストの起用もツボにはまっていますね。
特に凝ったアレンジをしているわけではないものの、
無理のない起伏を作り出してアルバムに変化を与えていて、
アルバム作りの上手さも光ります。

伝統的なトゥアレグの歌詞やブルージーなメロディと、
ロックやソウルで育ってきた若い世代のサウンド・センスが、
これほど自然体で融合しているトゥアレグ・バンドは貴重じゃないでしょうか。
現在はパリで活動しているというイマルハン、
「繋がり」と題されたタイトルに、彼らの思いや立ち位置が示されています。

Imarhan "TEMET" City Slang/Wedge SLANG50135 (2018)
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ブルキナベ・ファンク・ジャム ババ・コマンダント&ザ・マンディンゴ・バンド

Baba Commandant & The Mandingo Band  SIRA BA KELE.jpg

サイケ趣味を炸裂させて、世界の秘境音楽をディグしていたはずの
サブライム・フリークエンシーズが、
最近はいったいどうしちゃったんですかね。
オコラのシャルル・デュヴェーユの仕事を集大成したかと思ったら、
最近ではデベン・バッタチャルヤのアンソロジーですよ???

正統的な民俗音楽研究とは、一線も二線も三線も画していたはずのレーベルが、
王道中の王道の民俗音楽研究家を手がけるとは、思いもよりませんでした。
なんだか、手の付けられなかったイタズラ小僧が、
急にガリ勉くんに変身しちゃったみたいな!?

さて、そのサブライム・フリークエンシーズの新録で、
ぼくが一番高く買っていたのが、ブルキナ・ファソのババ・コマンダントでした。
ローファイなサウンドで、アフロビートばかりでなく、
ダブやパンクまで呑み込んだセンスが、
いかにもサブライム好みのバンドに思えましたけれど、
往年のシュペール・ビトンを思わす野趣なサウンドには、
ぼくも快哉を叫んだものです。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-04-18

3年ぶりの新作は、デビュー作のサウンドとはがらりと変貌。
サックスが不在となり、アフロビート色がグッと後退して、
ドンソ・ンゴニを素直にファンク化したといった感じ。
なんか、ちょっとフツーぽくなっちゃって、
最近のサブライム・フリークエンシーズの傾向を反映してるんでしょうか。

ドラムスもどたばたしなくなったから、ドラマー交替したのかなと思えば、
同じ人だったので、腕前が上がったということでしょう。
グルーヴィなベース・ラインにも耳を奪われます。

全体にサウンドが整理されて、
マンデ系ジャム・バンドといった展開になりましたね。
前作の粗野なサウンドに、グッときていただけに、
ちょっとクリーンになりすぎたかなあと思わないでもないですけど、
バラフォンを押し出したサウンドには、
ライヴ・バンドらしいエネルギーが漲っているし、
なにより主役のババ司令官ことママドゥ・サヌの
泥臭いヴォーカルのアクの強さが、最大の魅力です。

Baba Commandant & The Mandingo Band "SIRA BA KELE" Sublime Frequencies SF113 (2018)
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ポップ/歌謡路線へ回帰するダンドゥット フィア・ファレン、ネラ・カリスマ

Via Vallen  OM SERA.jpg   Nella Kharisma  SEBELAS DUABELAS.jpg

ダンドゥットの新作から20年近く遠ざかっていたのは、
コプロやハウスといったディスコ化のせいもありますけれど、
CDが制作されなくなり、音楽配信が中心となってしまった影響が大きいですね。

なんせインドネシアでは、ケンタッキーフライドチキンでしか買えないCDが、
中産階級以上のミュージック・シーンを象徴するようになってしまったんだから、
場末感漂う下層庶民のダンドゥットなど、蚊帳の外になるのも当然でした。

そんなところに去年知った、イラマ・トゥジュフ・ナダというレーベルには驚かされました。
コプロやハウスといった流行とは無縁のラインナップで
温故知新なダンドゥット・アルバムを出しているのは、嬉しかったなあ。

すると最近もうひとつ、ペリタ・ウタマというジャカルタのレコード会社からも
ダンドゥットのアルバムが出ているのを知りました。
手に入ったのは、現在のダンドゥット・シーンで人気沸騰中の女性歌手2人。
昨年再生回数1億5千回で国内2位を記録した‘Sayang’を歌うフィア・ファレンと、
今年それをさらに2千回上回る1億7千回を記録した
‘Jaran Goyang’を歌うネラ・カリスマです。

ポップ・コプラのクイーンの異名を持つフィア・ファレンは、
その圧倒的人気からKFCからもCDも出していましたよね。
ド派手なダンス・トラックを抑えて歌謡性を強めたプロデュースは、
KFC向けだったのかもしれませんが、爆発的ヒットとなった‘Sayang’も、
ラップやバニュワンギも交えたポップ・チューンでした。
ディスコ路線が下火になって、ポップ/歌謡路線に揺り戻しがきているのかも。

フィア・ファレンはそんなに歌がうまいわけでもないし、
正直なぜそんなに人気があるのか、よくわからないんですけど、
ネラ・カリスマは、ちょっと鼻にかかったコケティッシュな歌いぶりに
ダンドゥットらしさがよく味わえる、いいシンガーです。

コプロ以降のスピーディなダンドゥットで、現代性のあるサウンドながら、
ロック調、インド風味、レゲエなどを織り交ぜたダンドゥットらしい雑食性を発揮した、
かつてのダンドゥット・サウンドを活かしているところも、いいんだな。
イラマ・トゥジュフ・ナダのような温故知新ではなく、
今のシーンに息づくダンドゥットのヴィヴィッドな手触りを感じます。

Via Vallen "OM SERA" Pelita Utama no number (2017)
Nella Kharisma "SEBELAS DUABELAS" Pelita Utama no number (2017)
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知られざるポップ・ムラユの傑作 キキ・タウフィク

Kiki Taufik.jpg


「ポップ・ムラユ・クレアティフ」のタイトルが付いたアルバムというと、
15年に出たイイス・ダリアの傑作が忘れられないんですけど、
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-06-17
その2年前にすでにこんなアルバムが出ていたんですねえ。

チャチャチャで始まり、途中からザッピンに変わるオープニング曲から、
熱帯歌謡の魅惑に溢れた歌と演奏にヤられてしまいましたよ。
ヴァイオリンやアコーディオンをたっぷりフィーチャーしたオルケス・ムラユのスタイルで、
マンドリンなどのカクシ味も利いたサウンドには、感心しきり。
スロー曲では、生音の弦オーケストラまでフィーチャーするというゴージャスぶりです。

これほど丁寧に制作されたムラユ歌謡アルバムが、
インドネシアで出ていたなんて、ちょっと信じられない思いですね。
この当時、すでにダンドゥットはコプロに劣化して、すっかり凋落していたし、
歌謡性の強いムラユが見直された気配はなかったけどなあ。
あー、でも、10年頃からポップ・ムラユの良作が、ぽつぽつと出ていたっけ。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-11-11

もっともイイス・ダリアのアルバムもそうでしたけれど、
マレイシアでCD化されたのは、インドネシアのカセット作品をCD化したんじゃなく、
最初からマレイシアのマーケット向けに作られたものだった可能性もあるのでは。
そんな疑惑すら浮かぶほど、インドネシアのローカル・シーンと遊離した傑作です。

主役のキキ・タウフィクという女性歌手、キャリア不明で、
どういう人なのかまったくわからないんですが、
繊細な歌声はなかなかにチャーミングで、歌唱力も確かです。
涙声で歌う泣き節なども巧みで、ダンドゥットを歌ってもいけそうな人です。

イイス・ダリアの作品はムラユ系ダンドゥットといった趣でしたけれど、
こちらの方はダンドゥット風味はなく、ザッピン、ジョゲットなど
ポップ・ムラユをたっぷりと堪能できる、素晴らしいアルバムです。

Kiki Taufik "POP MELAYU KREATIF: PANGERAN" Insictech Musicland 51357-22532 (2013)
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アンゴラの美メロ・シンガー・ソングライター マティアス・ダマジオ

Matias Damásio  Por Amor.jpg

とろっとろの甘さ。
この人もまたアンゴラの美メロ・マスターといえそうな、
マティアス・ダマジオであります。

美メロ曲で埋め尽くされた“POR AMOR”。大ヒットとなるのも当然ですね。
オリジナルは15年にリリースされましたが、ポルトガルの人気シンガー、
エベル・マルクスをフィーチャーした‘Loucos’ が16年にポルトガルで大ヒットし、
この曲をオープニングにすえ、曲順、ジャケットを変えて
16年に新装リリースされたのが本作です。

遅ればせながら、ようやく手に入って聴いたんですが、
いや~、女子はもちろんのこと、オヤジでもトロけますね。
ベイビーフェイス・クラスの美メロを書ける才人です。

ソングライターの才能ばかりでなく、ヴォーカルもまたいいんだ。
やるせない歌いぶりは、ラヴ・ソング歌いに必須の歌唱力といえ、
スウィートな歌声に加えて、ぐうっと歌い上げる男っぷりも鮮やかです。
なんでアンゴラって、こんなに歌える男が多いんだろうね。

82年ベンゲラに生まれたマティアス・ダマジオは、
11歳で内戦のためルアンダへ避難民として家族と共に移住し、
靴磨きや洗車などの仕事をするなど、苦しい生活を送ったようです。
少年時代はカッサヴのカセットを聞きながら、歌手となることを夢見ていたそうで、
テレビのコンテストをきっかけにプロ・デビューし、
05年にデビュー作をリリースしました。

Matias Damásio  AMOR E FESTA NA LIXEIRA.jpg

ぼくがこの人を知ったのは、09年の2作目“AMOR E FESTA NA LIXEIRA”。
キゾンバをベースに、マラヴォワ風のストリングス・セクションや
アコーディオンをフィーチャーしたセンバなどもやっていて、即お気に入りとなりました。
3作目の“POR ANGOLA” を探したんですけれど、とうとう入手することができず、
ようやく4作目の改訂版を入手できたというわけです。

キゾンバをベースとしたコンテンポラリー・ポップスという路線は、
2作目の“AMOR E FESTA NA LIXEIRA” を踏襲しているものの、
プロダクションはグンと向上しています。
打ち込みに頼らない生演奏主体なのが、アンゴラのいいところです。

キゾンバといってもこの人の場合、センバをベースにしているというより、
ズークやコンパなどフレンチ・カリブ色が強いのが特徴。
「ラスタファーライ」や「ガンジャ」が連呼される曲のリズムが、
レゲエでなくコンパというのが、この人らしいところです。
センバの‘Beijo Rainha’ では、ダイナミックなホーン・セクションに
アコーディオンを絡ませ、聴きものとなっています。

今月末には新作“AUGUSTA” がリリースされる予定。なんとか入手しなきゃ。

Matias Damásio "POR AMOR" Arca Velha/Sony Music 88985362412 (2016)
Matias Damásio "AMOR E FESTA NA LIXEIRA" Vidisco 11.80.8927 (2009)
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