So-net無料ブログ作成
検索選択

白人ポップ・シンガーが歌ったスカ スティーヴ・アライモ

Steve Alaimo.jpg

はぁー、おもしろいなあ、こんなレコードがあるんですねえ。
ツイストを歌っていたアメリカ白人のポップ・シンガーが、65年にリリースしたスカ・アルバム。
オールディーズはまったくの門外漢なので、
スティーヴ・アライモという人の名前じたい、今回はじめて知りましたが、
いわゆる企画ものの域を越した、本格的なスカをやっているのにはびっくり。

ブルース・バスターズの“I Don't Know”“I Won't Let You Go” といったスカ・ナンバーから、
リー・ドーシーの“Ya-Ya” やベン・E・キングの“Stand By Me” をスカでカヴァーしたものまで、
全編ごきげんなスカのロッキン・リズムが溢れ出します。

スティーヴのヴォーカルもキレのある歌いぶりで、
「ンッ、スカッ!ンッ、スカッ!」とトースティングまでしてるあたりは、
あてがわれた企画ではなく、本人のスカへの入れ込みようがホンモノの証拠。
スカを歌いたくってしようがなかったといった気持ちが溢れ出ていて、胸をすきます。

スティーヴ・アライモとスカとの出会いがどのようなものだったのかはわかりませんが、
アメリカのメインストリームでも、スカはけっこう聞かれていたということなんでしょうか。
R&Bの影響を受けてジャマイカで誕生したスカが、
アメリカにフィードバックされたアルバム、ともいえるわけですよね。

俳優のロバート・ミッチャムのカリプソ・アルバムと双璧といえそうな、異色の名盤です。

Steve Alaimo "STARRING STEVE ALAIMO" Henry Storm Music HSM5047-2 (1965)
コメント(0) 

クメール情緒を求めて イエン・シトゥル&オウチ・サヴィー

Sarikakeo.jpg

カンボジアへ旅行してきた方が買ってきたというCD。
カンボジアといえば、タイのルークトゥンも顔負けな原色使いのぎらぎらジャケットがお約束の、
クメール・ポップスが有名ですけど、このCDはぐっとシックなジャケット。
英語表記のみでクメール文字はどこにもなく、詳細な英文解説のライナーまで付いているので、
完全に国外マーケット用とわかります。

カンボジアの町なかのCDショップではなく、空港で売っていたというので、
観光客向けの伝統音楽CDかなと思ったら、たしかに前半はその通りなんですが、
後半はシン・シーサムットのレパートリーを取り上げるというユニークなアルバム。
そのバラエティ豊かな内容ばかりでなく、
しっかりとプロデュースされたクオリティの高さにウナらされました。

男性歌手イエン・シトゥルはクメール音楽を伝承する著名な歌手とのこと。
プノンペンでクメール古典舞踏や民俗舞踏を教えるほか、WOMEXに出演したり、
イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどの海外公演もしているそうです。
女性歌手のオウチ・サヴィーはイエン・シトゥルの教え子だそうですが、
ぼくにとっては、コン・ナイのリアル・ワールド盤“MEKONG DELTA BLUES”(07)で相方を務め、
のびやかで美しい節回しを聞かせていたのが忘れられない人。
思いがけずこのCDで再会できたのは、嬉しかったですね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-07-18

前半はイエンとオウチがソロやデュオで、
宮廷音楽や婚礼の音楽、伝統歌劇の劇中歌などを歌います。
ロニアット・エック(木琴)、トロー・チェー(胡弓)、クロイ(縦笛)など
伝統楽器によるアンサンブルも絢爛豪華で、これだけでも十分聴きものなのですが、
注目は先ほども言ったとおり、クメール・ポップスの帝王ともいえる国民的歌手、
シン・シーサムットのレパートリーを取り上げた後半の4曲。
最近のクメール・ポップスのような打ち込みサウンドではなく、
ギター、ベース、キーボード、ドラムスに、カンボジアの伝統楽器を加えた折衷スタイルで、
クメール情緒あふれる哀愁味をたっぷりと楽しむことができます。
二人がデュオで歌ったラスト・ナンバーでは、細やかな男女の情が通い合う
こぶし回しの美しさに、胸をきゅっとつかまれました。

60年代まではクメール・ポップスでも伝統楽器が使われ、
クメール音楽と西洋ポップスのミクスチャーが自然に行われていましたが、
70年代に入ると急激に西洋化し、いわゆるガレージ歌謡なロック・サウンドへと変貌。
クメール情緒などどこへやらの、<はいからはくち>ポップスだらけになってしまいました。

このCDを制作したカンボジア・リヴィング・アーツは、
ポル・ポト時代をサヴァイヴした伝統音楽の名人たちを支援し、
クメール伝統音楽を若い世代へ継承する目的で設立された教育機関とのこと。
西洋化一辺倒に傾きすぎたポップスの世界にも、こんな試みが刺激となって、
カンボジアらしさを取り戻すきっかけになってくれればと、淡い期待を持ちたくなります。

Ieng Sithul and Ouch Savy "SARIKAKEO" Cambodia Living Arts no number (2008)
コメント(6) 

ジョイスの再来 ジアナ・ヴィスカルジ

20100923_Giana Viscardi.JPG

ブラジルの若手女性歌手ジアナ・ヴィスカルジが再来日してくれました。
5年前ジアナのセカンド・アルバム“4321” をヘヴィー・ローテーションにしていた時、
ジアナが来日していたことをあとになって知り、「え~、来てたの!?」と地団駄を踏んだので、
今回は事前に情報を得られて、ほっ。
もっとも知ったのがライヴの5日前で、ぎりぎりセーフって感じでしたけど。

会場はぼくは初めての、渋谷セルリアンタワーにあるJZ Brat。
ブルーノートやビルボードをちっちゃくした感じのおしゃれなジャズ・クラブで、
普段は日本のミュージシャンが出演しているハコだそうです。

ジアナの“4321” をはじめて聴いた時の印象は鮮烈でした。
歌声がジョイスそっくりで、サウンドも“FEMININA” を意識してるのは歴然でしたけど、
ジョイスのリズム感のキレ味をさらに増した感じで、それは爽快なアルバムでした。
リズム・センスがとにかくバツグンによくて、ソングライティングのそこかしこに
ジャズ・センスを感じると思ったら、バークリー音楽院卒というのにナットクしたものです。

今回はプロデューサー兼ギタリストのミッヒ・フジシュカとともに来日。
ミッヒといえば、“4321” でエリオ・デルミーロそっくりのギター・ソロを弾いていた人。
エリオ・デルミーロは“FEMININA” でも絶妙なソロを弾いていたので、
なおさら“4321” と“FEMININA” の印象がカブるわけです。

ぼくが観たのは、来日ツアー最終の9月23日のセカンド・ステージ。
ジアナの透明感のある歌声はCDのまま、
リズムのキレはCDほどビシバシしておらず、もっとまろやかな印象を受けました。
ミッヒのギターは完全にジャズ・ギターでしたね。
ゲスト参加のパーカッションの安井源之新が、バツグンのサポートぶりをみせてくれました。

ジアナは英語・フランス語でも歌いますが、違和感はまったくありません。
MCもずっと英語で通していたし、CDに入れてくれたサインも英語だったしね。
ここ最近、バークリー卒のブラジル人アーティストがとても増えたように思いますけど、
マルチリンガルは当たり前って人が多く、昔のブラジル人アーティストのように、
英語で歌ったとたん不自然になるっていうことがなくなりました。
インク・スポッツの、というよりマンハッタン・トランスファーのカヴァーでおなじみの
“Java Jive” をすっきり聞かせるセンスに、それがよく表れてましたね。

残念だったのは、たった1時間のステージという短さと、
30人ぐらいしかいなかったお客さんの少なさ。
ステージ最前列のど真ん中に陣取ってた和服姿の女性が、
ライヴ中ずっと首を席の後ろにのけぞらせて、爆睡してたのも興ざめだったなあ。
寝るんなら、もっと目立たない隅っこの席に座んなさいっての。
アーティストに失礼でしょ(怒)。

ジョイスの再来と呼ぶにふさわしい、サンパウロの知性の人、
もっともっと聴きたかったので、また来てね。

Giana Viscardi "4321" Tratore GVMR02 (2005)
コメント(0) 

『フェミニーナ』真贋小話 ジョイス

Feminina.jpg

おお! ついにブラジルでCD化された。

いわずと知れたMPBのエヴァーグリーンな名作、ジョイスの“FEMININA”。
これがブラジルで初の単独CD化といったら、意外でしょうか。
ところが、ホントにそうなんですよねー。
ブラジルでは93年に、“FEMININA” の次作“ÁGUA E LUZ” との2イン1が出たっきり、
単体のCD化はいつまでたっても実現しなかったんです。
ぼくは、オリジナル・フォーマット優先、本国盤主義というめんどくさい性分のため、
「2イン1」や「日本盤」ではナットクできず、ずーっと単独CD化を待ち望んでたんですよ。

そもそもぼくがジョイスを知ったのは、何がきっかけだったんだっけなー。
そうだ、エリス・レジーナの“ESSA MULHER”(79)でしたね。
ジョイスが作曲したアルバム・タイトル曲の素晴らしさに感激して、
セルフ・カヴァーを含むジョイスの新作がまもなく出るというニュースに、
待ち遠しく思ったのをよく覚えています。そうして手にしたのが“FEMININA” で、
オープニングのジョイスが弾くギターのバチーダ一発で、名盤と確信したものです。
あれからもう30年かあ。
あらためて聴いても、みずみずしさいっぱいで、まったく古くなりませんね。

“FEMININA” 以降、インディ2作までは熱心に追っかけましたが、
CBS系のSBKに移籍してからのヴィニシウス集やジョビン集あたりで、
ぼくはジョイスから心が離れてしまいました。
でも、世間的にはその2枚でジョイスがブレイクしたのだから、皮肉なもの。
毎度毎度のこととはいえ、世間のトレンドと合わない自分を思い知らされます。

Feminina Bootleg.JPG

そんなわけで、ジョイスは“FEMININA” 一枚で十分なぼくなんですが、
実は6年前、ナゾの“FEMININA” のCDを手に入れたんです。
見つけたのは、家の近くの中古盤屋さん。小さな街のお店でまさかの遭遇だったのですが、
オリジナル・ジャケットどおりのデザインに、最初は「あー、日本盤ね」とか思いながら、
なにげに取ってみると東芝盤じゃない。
なぬ? ブラジル盤は出てないはずなので、頭の中が?????になったんですが、
トレイを開けてみたら、ブルーの星のレーベルが現われ、口あんぐり。
このデザインは、オデオン・レーベルが66~72年頃に使っていたもの。
レーベルに書かれているのはすべてポルトガル語で、CD番号はLP番号と同じ。
どっから見てもブラジル盤みたいなんですが、なんかオカシイ。
このアルバムは80年作なので、オリジナル盤のレーベルはブルーの星のデザインじゃないし、
そもそもブラジル盤CDで、このレーベル・デザインを使ったものなんてないはず。
それに、現在のレーベルのEMIのマークや文字がどこにもないというのもおかしい。
要するに、これは巧妙に作られたブートレグだったわけです。

それにしても良くできたブートレグです。
デザインはオリジナルLPのジャケットに忠実で、
バックインレイは曲目のみ通し番号にするなど、丁寧な修正が施してあります。
正規盤じゃないから、無粋なバーコードが付いてないってところもいいですね。

CDレーベルには1999年制作のクレジットがあり、
イギリスのDJブームでブラジル盤が人気を呼び、ブートレグが盛んに出た時期と一致します。
当時、ジョイスの76年作“PASSARINHO URBANO” や
オルランディーボの77年コパカバーナ盤のブートレグが出ましたが、
バックインレイはオリジナルLPの裏ジャケを、縮小コピーしただけのものでした。
バックインレイのデザインをこんな丁寧に作ったブートレグは、ジョイスのこのCDだけでした。

昔のオデオン・レーベルのデザインを採用するようなマニアックなこだわりも、
レコード・マニアらしい愛情にあふれていて、ブートレグといえど思わず目を細めてしまいます。
今回ようやくブラジルEMIから正規CD化されたわけですが、
このブートレグCDは、大事にとっておこうと思います。

Joyce "FEMININA" EMI 906771-2 (1980)
[Bootleg CD] Joyce "FEMININA" Odeon SMOFB422862CD (1980)
コメント(0) 

AWA CRAZY DANCE ザ・スペイスメン

The Space Men.jpg

秋祭りの季節になると、手が伸びる一枚。
いわゆるモンド盤なんですけど、これ、あなどれませんよ。
日本民謡とエレキバンドのたぐいまれなる邂逅。
この手の試みはクサるほどあれど、繰り返し聴くに足るものは稀です。

寺内タケシとブルー・ジーンズの『津軽じょんがら』というのもありましたけど、
親分だけが弾きまくり、バンドはおとなしく伴奏を付けてるだけってのがツマんない。
バンド全体がグルーヴしなくっちゃ、ねえ。

で、ザ・スペイスメンです。
1曲目「阿波踊り」のサイケデリックなフレーズを駆使してキレまくるギター、
ドライヴするホーン・セクションに、血流があがります。
この1曲目がスゴすぎて、ほかはやや大人しく聞こえてしまいますが、
アルバム全体を通して、エレキ・ギターばかりを押し出しているわけではなく、
バンド・アンサンブルをよく考えたアレンジとなっているところがミソ。

こういうアレンジのセンスって、ビッグ・バンドのアレンジをやっていたか、
ラテン・バンドの出身なんじゃないかとにらんでるんですけど、違うかなあ。
「おてもやん」や「チャッキリ節」の小粋なアレンジなんて、ほんとニクイばかり。
少なくとも、ベンチャーズやアストロノウツみたいなインスト・ロックを範にしたバンドとは、
ぜんぜん出自が違うバンドだと思うんですけどね。

<エレキで民謡をやる>というテーマと曲目だけが決まっていて、
ハコバンやってるバンドマンたちに、あとは適当にやっといてよみたいなことをいっといたら、
こんなん出来ました、みたいな感じだったんじゃないのかなあ。
いい加減な企画ものだったのが、<ひょうたんから駒>に大化けした作品だったのでは。
ハコバンの演奏家というのは、ジャズもラテンもハワイアンもロカビリーも、
要求される音楽はなんでもこなせなきゃ務まらない、プロ中のプロなわけで、
ふだんが譜面ばっちりの、型にハマった演奏しかさせてもらえないだけに、
自由にのびのび演奏できるとなったら、
思いっきり狂えるみたいなところがあったんじゃないんですかね。
スキルはあるだけに、ふんだんにあるアイディアも具現化できるし、アレンジも楽勝、
そうして生まれたのがこのアルバム、って想像してるんだけど、どんなもんでしょう。

この当時のエレキバンドやリズム歌謡にまったく明るくないので、
的外れだったらごめんなさいですが。
民謡を単なる素材に取り上げただけで終わらず、
祭りのエネルギーを見事にエレキ化したこのアルバムを今年も聴きながら、
またそんなことを思ったのでした。

ザ・スペイスメン 「AWA CRAZY DANCE ~阿波踊り/エレキ・ギターで民謡~」 ブリッジ BRIDGE034 (1965)
コメント(0) 

リマのグァルディア・ビエハ

De familia Pureza de una tradición Vol I. Valdelomar - Dávila.jpg   De Familia Pureza de un Tradición. Vol II. Castillo - Terry.jpg

サヤリー・プロダクションが“LA GRAN REUNION” シリーズの前に手がけた、
“DE FAMILIA” シリーズの2枚のアルバムをはじめて聴いた時は、それは大カンゲキでした。
オールド・リマのヴィンテージなクリオージョ音楽が、21世紀の今聴けるだけでも驚きなのに、
それがこれほどいきいきと響くのだから、奇跡的にすら思えたものです。

そのサヤリーの記念すべき1枚めが、バルデロマール家とダビラ家の音楽家たちによるアルバム。
05年から06年にかけて録音され、08年にミックスとマスタリング、
09年になって世に出るという、時間をかけてじっくりと制作されたものです。
バルデロマール家の3人が歌・コーラスと打楽器を担当し、
ダビラ家の3人がギターの伴奏を務め、クリオージョ音楽のグァルディア・ビエハ時代ともいえる、
30年代から代々伝わってきた歌を披露してくれます。

古いマリネーラ・リメーニャに特徴的な、
豊かな声量で遠くへ投げ放つように声を張り上げる、ヴォーカルのダイナミクスが格別。
年長の古老の枯れた声もたまらない味わいがあって、胸に迫ります。
現在ではほとんど聞かれなくなったカスタネットが使われているところも、また泣かせます。
本作にエンハンストで付いている14分を超すヴィデオを観ると、
当意即妙なやりとりに、もっとも純度の高い大衆音楽の理想型を見るようで、
これこそグァルディア・ビエハという思いがします。
グァルディア・ビエハとは、伝統の守護者や守旧派といった意味で、
旧い世代のタンゴの音楽家を指すのと同じ言葉。
ブラジルのヴェーリャ・グアルダと同じ意味ですね。

そしてもう1枚は、カスティージョ家とテリー家の音楽家たちによるアルバム。
歌・コーラスを務めるカスティージョ家は、二人の古老とその子供で、
ギターを担当するテリー家の3兄弟は、カスティージョ家の子供と同世代。
前のバルデロマール家とダビラ家と比べると、ぐっと平均年齢が下がったせいか、
若々しい潤いに満ちた歌声が中心となっていて、歌の表情もぐっとまろやか。
前のアルバムが古典時代の再現ならば、こちらは伝統の継承をテーマとしているように聞こえます。

どちらのアルバムも、全曲歌詞入り、カラー写真満載のブックレットが付いていて、
愛情深く、丁寧に制作されています。
リマの街角に暮らす市井の人々が継承してきた伝統が、ひしひしと伝わってくるアルバム、
ホンモノの味わいを求める人に、ぜひおすすめしたいですね。

Familias Valdelomar Y Dávila "DE FAMILIA : PUREZA DE UNA TRADICIÓN" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000029 (2009)
Familias Castillo Y Terry "DE FAMILIA : PUREZA DE UNA TRADICIÓN" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000043 (2009)
コメント(2) 

2010年ベスト・ラテン・アルバム ロス・グァルディアネス・デ・ラ・ムシカ・クリオージャ

Cristal Herido.jpg

ようやく秋の気配が感じられるようになってきた今日この頃。
ペルーのクリオージョ音楽を聴くのに、いい季節になってきましたよ。
二十年ぐらい前、ペルーのイエンプサ盤が日本へ大量に入ってきて以来、
とんとご無沙汰になっているという人も多いんじゃないんでしょうか。
若い方だと、クリオージョ音楽って何?という人も多いかも知れません。
そんなみなさんにおすすめしたいのが、サヤリー・プロダクション制作のアルバムです。

サヤリー・プロダクションは、リマで05年に設立されたばかりの新興プロダクション。
ペルー大衆文化にスポットをあてた意欲的な作品を企画し、
これまで4枚のアルバムを制作していますが、その4枚がどれも充実作揃い。
日本ではあまり流通しておらず、その存在がほとんど知られていないようですが、
リリースされたばかりの本作が、これまた極上の逸品。
心あるラテン音楽ファンなら、ぜったい聴かなきゃの傑作です。

このアルバムをひとことでいってしまえば、「ペルー版ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。
ペルーのリマで30年代に花開いた都市歌謡クリオージョ音楽の黄金期の味わいを、
今に伝える19人の古老たちによる、一大セッション・アルバムです。
古老だからといって、「枯れた味わい」なんてすぐに連想しちゃいけません。
なまなましくも情感の溢れる歌の数々からは、零れ落ちるオトコの色気がいっぱい。
若い女のケツを追いかけて、子供の一人や二人はまだ作っちまいそうな、
老いて盛んどころじゃない、アブないおじいちゃんぶりが、なんともよろしいですねえ。

Renacimiento.jpg

サヤリーによるこの一大プロジェクト“LA GRAN REUNION” は、
平均年齢70歳を越す彼らが元気なうちに、クリオージョ音楽の真髄を残そうと、
07年に録音が行われたもので、昨年まず第一弾“RENACIMIENTO” がリリースされ、
本作はその続編にあたります。
両方のアルバムとも、一人1曲ずつ計19曲を収録し、
ラストは参加メンバーが交互に歌うセッションとなっています。

どちらのアルバムにも64ページに及ぶ豪華ブックレットが付いていて、
写真集と呼ぶにふさわしいクォリティの写真が並びます。
“RENACIMIENTO” の方は、19人のモノクロのポートレイトでしたが、
“CRISTAL HERIDO” の方はカラーで、
古老たちのいきいきとした表情を捉えたスナップ・ショットがずらり。
CDを聴きながらページをめくると、音楽の味わいがさらに倍加します。

本録音後、すでに19人のうちの4人が他界してしまい、
このプロジェクトが本当にぎりぎりで行われたことがよくわかります。
今後サヤリーでは、本プロジェクトのドキュメンタリー・フィルムのDVD化や、
セッションに参加した古老たちのソロ・アルバムも予定しているようで、楽しみです。
ともあれ、本作は今年のベスト・ラテン・アルバムと、太鼓判を押させてもらいましょう。

Los Guardianes De La Música Criolla "LA GRAN REUNION: CRISTAL HERIDO" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000050 (2010)
Los Guardianes De La Música Criolla "LA GRAN REUNION: RENACIMIENTO" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000012 (2009)
コメント(2) 

70年の時空を越え アラン・ローマックス・イン・ハイチ

Alan Lomax in Haiti.jpg  Alan Lomax in Haiti 2.jpg

70年の時を経て蔵出しされた、
若き日のアラン・ローマックスがハイチで採集した音源をまとめたボックス。
今年のリイシュー大賞は、これでキマリでしょう。
布張りのしっかりとした造りのボックス・ケースの中には、
SPアルバム風に作られた布張りケースに10枚のCDが収められ、
168ページに及ぶハードカヴァーの解説書のほか、アランが書き残した調査日記(200ページ)、
調査時にアランが使っていたハイチの地図や小さな写真2枚の複製までも入っています。

当時アランはまだ二十歳そこそことはいえ、
すでに父親のジョン・ローマックスとともにアメリカ各地を旅行し、
フォークやブルースなど伝承音楽の発掘・収集を行い、
フィールド調査の経験を十分積んでいました。
ハイチというはじめてのアメリカ国外調査に、若きアランがいかに興奮していたかは、
3年前に出版された『アラン・ローマックス選集』(みすず書房)の
第2章「ハイチへの旅」にもいきいきと描かれていて、とりわけ印象的でした。

ボックスに収められた10枚のCDは、
アランが録音調査を進めていった順に分類・整理されています。
都会のポピュラー音楽から田舎のワークソング、さらにはヴードゥー儀式へと、
ハイチの奥深い世界へと分け入っていく様子が手に取るようにわかり、
1936年の年末から37年にかけての4ヶ月間、
アランのハイチの旅を追体験できる編集となっているのがミソです。
10枚のCDを順番に聴いていくと、
アランの調査探検の旅に同行している気分になれるんですね。

CDの1枚目は、ヨーロッパとアフリカの混淆がくっきりと残されたダンス音楽メラングを収録。
クラリネット、バンジョー、マリヌンバ(マリンブラ)などを擁した
サプライズ・ジャズとオルケストル・グランヴィル・デスロンヴィルという二つのメラング楽団や、
当時のハイチでもっとも有名なクラシック・ピアニストであったルドヴィック・ラモットによる
ヴォドゥ(ヴードゥー)の曲の演奏や、ヴォドゥ司祭の歌なども収録されています。
2枚目はトゥバドウ(トルバドール)特集。
キューバのソンの影響色濃い音楽で、クラーベのパターンがはっきりと聴き取れます。
ギターやバンジョーにクラベスの伴奏で歌われていて、
のちにジャズ・デ・ジュンが取り上げたヴォドゥ(ヴードゥー)の儀式曲“Feray-O” も聴けます。
3枚目はマルディ・グラのカーニヴァル音楽を収録していて、
太鼓の激しい乱打とコール・アンド・レスポンスをたっぷりと聴けます。
4枚目はララのバンドをフィールド・レコーディングしたもの。
ヴォドゥにまつわる歌も多く、ヴァクシーンが吹き鳴らされ、
大人数によるコール・アンド・レスポンスが臨場感たっぷりで、演奏のなまなましさは格別です。
5枚目は子供たちの遊び歌集。子守唄に始まり、
子供たちによる無伴奏コーラスが収録されています。
終盤には成人による合唱や、ヴァクシーンを模したヴォイス・パフォーマンスも聞けます。
このディスクには10分16秒の記録映像も入っていて、
冒頭のララの楽団が行進する映像がカラーなのにはびっくり。
6枚目はフランス起源のロマンス(バラッド)とカンティック(賛美歌)を中心に、
コントラダンスを数曲収録しています。
ヨーロッパ白人植民者が持ち込んだ音楽の影響が強く表れた無伴奏男女合唱にも、
ハイチ音楽の多様なクレオール性が刻み込まれているのが印象的ですね。
手製フィドルやフィフ(木製の笛)が伴奏につくコントラダンスも、聴きどころです。
7枚目はフランシリアという女性歌手が歌う伝承歌集。全曲ガラガラを振りながら歌っていて、
レパートリーはヴードゥーの歌、トルバドールの流行歌、
労働歌、アフロ・ルーツの古謡などさまざま。
8枚目はヴードゥーで歌われる歌。バタ、セゴン、マンマンの三台の太鼓を伴奏に、
女性司祭マンボと男女コーラスのコール・アンド・レスポンスをしています。
中ほどには、無伴奏のカトリックの賛美歌も入ります。
9枚目はコンビットと呼ばれる農民のワークソング。
金属棒を叩きながら歌うエネルギッシュな歌あり、
つぶやくように歌うものあり、太鼓を伴奏にしたコール・アンド・レスポンス、
太鼓のドラミングなどなど。
10枚目はヴードゥー儀式の録音。8枚目の録音とは違って、
シャッシャッと響くシェイカーの反復リズムが熱を帯びるのではなく、
気分を沈静化させるような効用があり、催眠効果のようなトランスへと誘われます。
最後にハイチのもっともディープな世界へと分け入っていくスリルを味わえます。

ヨーロッパとアフリカとカリブ周辺国の音楽がつづれ織りとなったそのさまを耳にすると、
ハイチ音楽の多様なクレオール性の複雑さに、あらためて圧倒されます。
学者が資料として採集した、血の通わないぶったくり的なサンプル音源とはまったく違って、
アランが感動しながら録音している様子がびんびんと伝わってくるこれらの音源からは、
時を超えた感動が呼び覚まされます。

このボックスの売上の一部はハイチ大地震の救援資金に充てられるということ。
まさしく「入魂」の一語につきる、リイシューにかけるすさまじい情熱がこめられた仕事ぶり、
企画から編集、制作にあたったすべてのスタッフに、敬意を表したいと思います。

"ALAN LOMAX IN HAITI 1936-1937 RECORDINGS" Harte Recordings HRT103
コメント(2) 

官能的な、あまりに官能的な ケム

Kem Intimacy Album 3.jpg

ほうっ♡ 思わずため息が洩れました。
なんてセクシーなアルバムなんでしょうか。

これが3作目というケム、初めて聴きました。
いわゆるクワイエット・ストーム系のR&Bで、絶大な人気を得ている人だそうです。
雨音のSEからスタートするボサ・テイストの1曲目から、
都会的でメロウなアダルトの世界へといざない、
アダルトをとうに飛び越えた歳のオヤジさえも、トロけさせます。

このアルバムを一言でいえば、ジャジーなアーバン・ソウルでしょうか。
いかにもチンプな形容ですけど、その生音中心のサウンドは抗し難い魅力があります。
ギリギリに絞った音数で、シンプルにメロディーの良さを引き立てていて、
ソングライターとして、またプロデューサーとして、抜きん出た才能を感じさせますね。
このアルバムを聴いて即座に思い浮かべたのが、ジョーの“ALL THAT I AM”。
官能的な、あまりに官能的なアルバムです。

全編ミディアム~スローにかかわらず、だれることのないフックの利いたグルーヴがあり、
柔らかな低音からハイトーンへ軽やかに舞い上がるシルキー・ヴォイスの質感と、
声音を変え、苦味のあるミドル・トーンで歌う表情豊かなヴォーカルが、
ただ心地よいだけで終わらない、この人のソウルを伝えます。

う~む。コットンクラブあたりで美女をエスコートして聴けたら最高でしょうか。
美女と無縁のオヤジには、ただの妄想にすぎませんが。
ホセー・アントニオ・メンデスでやるせなくなって、収まりのつかない胸の高まりを、
ケムでチル・アウトして眠りにつく、というのがオヤジの正しい使用法ってとこですか。

Kem "INTIMACY : ALBUM Ⅲ" Universal Motown B0014469-02 (2010)
コメント(0) 

もしわかってくれるのなら ホセー・アントニオ・メンデス

Jose Antonio Mendez.jpg

終わり行く夏の夜に、ホセー・アントニオ・メンデスが胸にしみます。
聴いているのはセカンド作の“JOSÉ ANTONIO MÉNDEZ”。
ピアノのアルペジオにエレキ・ギターが絡みつき、
ひと呼吸おいてリズムが奏でられると、
ホセーのなめらかな歌声がひそやかに流れ始める、
タイトル曲の「もしわかってくれるのなら」。

ホセーを聴いていると、素の自分に戻れますね。
妻の前ではだんなさんであり、子供たちの前ではおとうさんであり、
会社ではエラそうな肩書きがついて回るわけですけど、
そんなメンドくさい世俗のオトコ稼業から解放されるからです。
やせ我慢をする必要もなく、弱音を吐いたって大丈夫。
ひとりの弱いオトコのままでいられる、
そんな気分にさせてくれるのが、ホセーのフィーリンです。

中高年男性にとっての「心のヤドリギ」でしょうか。
いまや色恋には無縁となったオヤジにも、ひとつやふたつはある恋の古傷、
とうの昔に忘れていたはずのロマンティックな記憶を、
ホセーのフィーリンは鮮やかに蘇らせてくれます。
アルコールを嗜まないぼくでもホセーを聴いていると、つい涙腺がゆるむので、
夜中に一人で酒を傾けながら聴いていると、
ついつい深酒してしまうというみなさんのお気持ちは、よーくわかります。

ホセー・アントニオ・メンデスがメキシコRCA時代に残した5作のうち、
『フィーリンの誕生』のタイトルで日本盤も出た
1枚目の“CANTA SOLO PARA ENAMORADOS” に、
セカンド作の本作、“USTED… EL AMOR… Y JOSE ANTONIO MENDEZ”、
“EL MENSAJERO DEL AMOR…” の4枚を持っていますが、
ぼくはこのセカンド作が一番好きです。

ただ悔しいかな、ぼくが持っているのは、このセカンドだけがオリジナル盤でなく、
廉価盤レーベルのRCAカムデンから出た再発盤なんですよねえ。
オリジナル盤は、テーブルだけ明かりの灯った暗がりの部屋で、
ホセーが何か書きものをしているという雰囲気たっぷりのジャケット。
“USTED… EL AMOR…” の裏ジャケで知ってはいても、
現物LPにはいまだお目にかかったことがありません。

このセカンドこそ「ホセー・アントニオ・メンデスの最高傑作」とか、
「フィーリンの代表的名盤」と、つい口走りそうになりますけど、
このアルバムにそんな仰々しい言い方は、野暮なだけ。
ここはそっと、「オトコが泣ける格別の一枚」とだけ言っておきましょう。

[LP] José Antonio Méndez "JOSÉ ANTONIO MÉNDEZ" RCA Camden CAMS619
コメント(4) 

15年前の夏 ハムザ・エル・ディン

Hamza El Din_Al Oud.jpg   Hamza El Din_A Song of The Nile.jpg

1995.8.5 Hamza El Din 1.JPG記録ずくめの夏となった今年。
東京では15年来の酷暑という新聞記事に、
15年前って何があったっけと
1995年の日記をひっくりかえしてみたら、
あぁ、あの夏かぁと記憶が蘇りました。

横浜ランドマークタワーのドックヤード・ガーデンで
パンベリ・スティール・オーケストラを、
大倉山記念館でハムザ・エル・ディンを、
川崎市幸文化センターでエバ・アイジョンを、
三浦の三崎小学校でグランムン・レレを
観た夏だったんですねえ。
どれも特徴のある会場で行われたコンサートばかりで、
楽しかった思い出がいろいろと残っています。

なかでも、大倉山記念館で観た
ハムザさんのコンサートは良かったなあ。
横浜の大倉山記念館はなかなか趣のある建造物で、
ギリシャ神殿様式のピロティーに、
昭和初期の雰囲気を残す集会室、
神社建築の木組みを取り入れたホールやエントランスなど、
東西文化が溶け合う独特の様式美を持った
歴史的な風合いのある建物となっています。
映画やテレビのロケ地としても有名で、
今放映されているドラマ「熱海の捜査官」でも登場してますね。

そんなギリシャ神殿のようなピロティーの前で、
ハムザさんはおなじみのヌビアの歌を歌ってくれました。
お客さんたちは広い石畳の中庭や芝生に座りながら聴いたんですけど、
すごく贅沢な夏の夜を過ごした気分でした。
ライトアップされた大倉山記念館は幽玄な雰囲気がいっぱいで、
ハムザさんの叩くタールの響きとセミの鳴き声が交じり合い、
ここが日本であることを忘れるような思いがしたものです。

1995.8.5 Hamza El Din 2.JPG

ハムザさんのコンサートは、80年代から90年代にかけて何度も観ていますけど、
音響のいいホールで聴いたどのコンサートよりも、
95年8月5日に観た大倉山記念館でのフリー・コンサートが、一番の思い出になっています。

Hamza El Din "AL OUD" Vanguard 79194-2 (1965)
Hamza El Din "A SONG OF THE NILE" Victor VDP1098 (1982)
コメント(0) 

ロイヤル・アルバート・ホールのトニー・ジョー・ホワイト

That On The Road Look.JPG   That On The Road Look_back.JPG

ライノ・ハンドメイドがまたしてもやってくれました。
トニー・ジョー・ホワイトの71年ヨーロッパのライヴ録音を、
ワーナー・ブラザーズのレーベル・ロゴを付けたオフィシャル・リリースとして、
ついに実現させたのです! パチ、パチ、パチ。

このライヴ録音は長い間未発表だったのを、
86年にフランスのレーベルがレコード化にこぎつけましたが、
アメリカではリリースされずじまいでした。
その後“LIVE IN EUROPE - 1971” のタイトルで、
トニーの自主レーベル、スワンプからCD化されていたとはいえ、
チープな作りがなんともさびしく感じたのは、ぼくだけでしょうか。

Live in Europe.jpg71年といえば、トニーがワーナーに移籍してまさに絶頂期を迎えようとしていた時期。バックもドナルド・ダック・ダンのベースに、マイケル・アトリイのキーボード、サミー・クリーゾンのドラムスと、最少人数にして最高の布陣を擁しています。デビュー作の“Willie And Laura Mae Jones”、セカンドの “Roosevelt And Ira Lee” ほか、熱いブギーを10分以上繰り広げる“Polk Salad Annie” など、珠玉のナンバーがずらり。観客の反応はいいし、録音もばっちりというわけで、内容にふさわしい装いで、再リリースしてくれないかなあと、ずっと思ってたんですよ。

それだけに今回のライノ・ハンドメイドのリリースは、まさしく待望のもの。
嬉しいことに“LIVE IN EUROPE - 1971” には未収録だった
“Stormy Monday” “That On The Road Look” の2曲が追加されています。
コレクター心をくすぐる、見開きジャケの紙ジャケという手の込んだ装丁にも感心しますけど、
まるで70年代初期のワーナー・ブラザーズ盤を再現したかのような、
ジャケット・デザインが嬉しくなります。
特に裏ジャケの、汚い字でぐちゃぐちゃっと書いた手書きの曲名やクレジットは、
当時こんな感じのジャケットがよくあったなあと、懐かしくなるデザイン。
当時を良く知る人間でなければできないこのセンスに、ウナらされました。
こういう職人気質のコダワリのある仕事ぶりに、ライノ・ハンドメイドの良心を感じますね。

4年前ライノ・ハンドメイドは、トニーのモニュメント時代の録音をコンプリートに収めたボックス
“SWAMP MUSIC : THE COMPLETE MONUMENT RECORDINGS”をリリースしましたが、
あのボックスを買ったトニー・ジョー・ホワイト・ファンなら、ぜったいの1枚です。

Tony Joe White "THAT ON THE ROAD LOOK" Rhino/Warner Bros. 524696
Tony Joe White "LIVE IN EUROPE - 1971" Swamp PACD7017
コメント(2) 

ジンバブウェ版「ブエナ・ビスタ」 クール・クルーナーズ

The Cool Crooners.jpg

こんなCDが出ていたなんて、ぜんぜん知りませんでした。
ジンバブウェのコーラス・グループ、クール・クルーナーズの01年作。
50年代にブラワヨで活躍していたヴェテラン歌手たちが、
90年代になって集まり、新たに結成したグループで、
このフランス盤がデビュー作だそうです。

懐かしい50年代のタウンシップ・ジャズを再現した内容で、
いわば、ジンバブウェ版「ブエナ・ビスタ」。
スウィング・ジャズのリズム感を伴ったマラービ調の曲と、
よりビート感覚を強めたンバクァンガ調の曲がほどよく並んでいて、
彼らが活躍した50~60年代の、マラービからンバクァンガへと移り行く時代の変遷を
そのまま照射した内容となっています。

アルバム・タイトル曲の“Blue Sky” には、クール・クルーナーズを結成したエイブル・シトレの、
10年間に及ぶ刑務所生活の苦難が込められているとのこと。
エイブルは、ジンバブウェ独立闘争時に政治活動へ参加して逮捕され、
当初は死刑宣告を受けたんだそうです。
その後18年の刑に減刑されるものの、刑務所で10年間を過ごし、
ジンバブウェ独立の80年になってようやく釈放されたというのだから、
その人生がどんなに過酷なものだったかは、想像に難くありません。
刑務所の高い塀の上に広がる青空は、
独立のために戦った自由の象徴であったと、エイブルは語っています。

独立闘争が激化する以前のブラワヨでは、
人気を二分したコーラス・グループが存在していました。
それが、エイブルがメンバーだったゴールデン・リズム・クルーナーズとクール・フォーです。
ヴォーカル・ワークならゴールデン・リズム・クルーナーズ、
ダンス・パフォーマンスならクール・フォーとの評判も高く、
両者は50~60年代を通じて、よきライヴァル同士でした。
この二つのグループの元メンバーたち3人が再会して結成されたのがクール・クルーナーズで、
バリトンを担当する最年少(といっても50歳)メンバーを加えて活動をしています。
このデビュー作以降、メンバー2人を亡くしましたが、
新メンバーを加え、アルバムも3作目までリリースされているようです。

思えば、往時のブラワヨのタウンシップ・ジャズは、ほとんどCD化されていませんね。
アウグスト・ムサルルワを中心とした録音を編集した
“BULAWAYO JAZZ, SOUTHERN RHODESIA 1950 ’51 '52” があるくらいで、
ヴォーカルものはまったくの未復刻です。
ゴールデン・リズム・クルーナーズ、クール・フォーのほか、
デ・ブラック・イヴニング・フォリーズ、パイン・トップス・バンドなど、
ぼくも名前だけしか知らないグループがいっぱいあります。
50~60年代のブラワヨを彩った録音を、ぜひ聴いてみたいものですね。

The Cool Crooners "BLUE SKY" Atelier Noaille EPC5023059 (2001)
コメント(0) 

鍵盤職人が残した名作 マイク・フィニガン

Mike Finnigan.jpg

うわ、なつかしーなー。その昔愛聴したマイク・フィニガンの76年デビュー作がCD化されました。
日本ではすでにCD化されてたようですが、本国アメリカではこれが初。
最後に聴いたのはいつだっけ? 何十年ぶりに聴くので、少しどきどきしましたが、
まったく古びてなくて、やっぱり傑作とあらためて思いましたね。

マッスル・ショールズのリズム・セクションを中心に、
エイモス・ギャレットやマリア・マルダーも加わり、
南部色豊かなサウンドに、都会的なポップ・センスを適度にまぶしたサウンドが極上。
泥臭いスワンプではなくって、ほどよい渋さと洗練がバランスを保っているところがいいんです。
アラン・トゥーサン、ジェシー・ウィンチェスター、ジョン・セバスチャン、
ビリー・ジョエルの曲を取り上げた選曲の良さも、このアルバムの魅力となっています。

そして、なんといっても聴きものなのは、マイク・フィニガンの歌いっぷり。
ゴスペル調の1曲めから、そのソウルフルなヴォーカルが炸裂します。
ブルースやソウルを歌う白人歌手って、
どこか「作った」不自然さを拭えない人が多いんですけど、
マイクはシャウトしても無理がなく、こんなふうに歌える白人歌手は希有な存在といえます。
一方、白人歌手ならではの滑らかな声をあわせ持っているのだから、無敵ですね。

のちに知ったことですが、マイク・フィニガンはキーボード・プレイヤーとして、
ジミ・ヘンドリックスの“ELECTRIC LADYLAND”(68)や、ジャニス・ジョプリンの抜けた
ビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーのレコーディングにも参加した人とのこと。
70年代半ばからはデイヴ・メイソン・バンドに起用され、デイヴ・メイソンの片腕として
活躍していた人だということを、その当時はじめて知りました。

ちょうどこのアルバムを愛聴していた77年、デイヴ・メイソンが来日したので、
マイク・フィニガン目当てで中野サンプラザへ観に行った記憶があります。
アメリカン・ハイ・スクールのガキどものガラの悪さにアタマに来たのと、
親分がうまくないギター・ソロを延々やるのに飽きて、
コンサート中ほとんど寝ていたという、まーロクな思い出が残ってませんが、
マイク・フィニガンが1曲だけ歌ってくれたことはよく覚えています。

その後出した2作目は、当時のシティ・ミュージック~AOR路線でペケ。
残したソロ・アルバムはこの2枚だけなので、ぼくにとってはデビュー作がすべての人です。
その後マイクは、セッション・キーボーディストとして売れっ子になり、
ロッド・スチュワートの“BLONDE HAVE MORE FUN”(78)、
マリア・マルダーの“SOUTHERN WINDS”(78)、
レス・デューデックの“GHOST TOWN PARADE”(78)、
リンゴ・スターの“STOP & SMELL THE ROSES”(81)、
ダン・フォーゲルバーグの“INNOCENT AGE”(81)、CSN&Yの“AMERICAN DREAM”(88)、
レナード・コーエンの“FUTURE”(92)、
エタ・ジェイムスの“LIFE, LOVE & THE BLUES”(98)など数多くのアルバムに名を残します。
現在もセッション・キーボーディストとして活躍しており、
2000年にはタジ・マハールのバンド・メンバーとして来日していたんだそうです。

これだけ才能豊かなヴォーカリストなのに、ずっと裏方でいるなんて、
もったいないとも思いますけど、きっと堅実な人なんでしょうね。
浮き沈みの激しい世界で、フロントに立ってスポットライトを浴びることより、
現場にあり続ける職人を選んだマイクの、デビュー作にして最高の1枚です。

Mike Finnigan "MIKE FINNIGAN" Wounded Bird WOU2944 (1976)
コメント(0) 

ヴェトナム・ブルージー ヴァン・フォン

Van Huong.JPG

くすんだ色合いがいい感じの、なかなか雰囲気のあるジャケットだと思いませんか。
ヴェトナム、ヴォン・コ(望古)の歌手、ヴァン・フォンのアルバムです。
昨年ヴァン・フォンのアルバムが数タイトル入ってきましたが、
これはつい最近手に入れたばかり。

ヴァン・フォンの60年代後半と思われるヴェトナム戦争以前の古い録音では、
大衆演劇カイ・ルオンの一部を切り取ったような、長尺の演目がよく出てきます。
チャルメラやドラが打ち鳴らされる京劇風のパートに、
ギター・フィムロンとダン・キム(月琴)による伴奏のパートと、
ロックンロールやラテンなどの洋楽の伴奏パートが接ぎ木状態となった構成で、
ながながとセリフ部分が続く場面も多く、
言葉のわからない日本人が繰り返し聴くには、ちょっと辛いものがあります。

そんなわけで、もっと短めの歌もので、ヴェトナム伝統の味わいを堪能できる、
ギター・フィムロンとダン・キムを伴奏にしたアルバムに手が伸びるんですけど、これもそうした一枚。
録音は70年代のものと思われ、盤おこしの60年代ものと違って、音がいいのも嬉しいですね。
俗にカイ・ルオン・ギターと呼ばれる、ヴェトナム独特の指板のえぐれたギター・フィムロンが奏でる、
チョーキングとヴィブラートによる摩訶不思議な響きを聴くと、
心はヴェトナムへと持って行かれます。
そしてヴェトナム伝統の旋法をもとにした、ヴァン・フォンの歌とも語りともいえない唸り節が
なんともブルージーで、たまらない味わいがあります。

このアルバムでも1曲目から5曲目までは、そんな望古調の嘆き歌がたっぷりと吟じられ、
最後の2曲で、カイ・ルオンの折衷伴奏スタイルが登場します。
6曲目の冒頭にグループサウンズ風の伴奏をバックにひとくさり歌ったあと、
唐突にヴォン・コ調へがらり変わるという、めちゃくちゃ強引な構成。
さらにラストの7曲目は、28分を超す長さのかけあい漫才ふうの寸劇で、
ピアノとサックスのチンドン風伴奏と、
ギター・フィムロンとダン・キムの伴奏とが交互に入れ替わるもの。
照屋林助のワタブーショーみたいなものなんでしょうねえ。言葉がわかれば面白いんだろうけど。
もっぱら5曲目までを、繰り返し楽しんでいます。

Vǎn Hường "TƯ ẾCH, BA RÂU : GIỌNG CA VĂN HƯỜNG 3" Ðĩa Hát Việt Nam no number
コメント(0) 
メッセージを送る