So-net無料ブログ作成
前の30件 | -

理想のラッパ ウディ・ショウ

Woody Shaw  AT ONKEL PO’S CARNEGIE HALL VOL.1.jpg

悶絶。
やっぱ、ウディ・ショウのラッパ、かっこえ~。
ジャズ・トランペットの理想形ですね。

ビル・エヴァンスやウェス・モンゴメリーなど、
ジャズ・レジェンズの未発表音源の発掘が続く今日この頃。
いくらジャズが面白くなってきたといっても、
いまさら、この時代のジャズを聞き返す気にはならないので、
ずっとやりすごしていたんですけれど、さすがにリアルタイムで聴いていた
ウディ・ショウとなると、無視はできません。

発掘されたのは、82年、ハンブルクでのライヴ。
コロンビア時代の最終作“UNITED” (81)のメンバー、スティーヴ・トゥーリ、
マルグリュー・ミラー、スタッフォード・ジェイムズ、トニー・リーダスが勢ぞろい。

大学2年生の時に聞いたヴィレッジ・ヴァンガードのライヴ
“STEPPING STONES” (78)で、ショウのファンになったぼくですけれど、
これまでに聴いたショウのライヴでは、これ、間違いなく最高作ですね。
あぁ、80年に来日したのになあ。観ときゃよかったなあ。痛恨の見逃しであります。

ショウのラッパのブリリアントなことといったら。
フュージョンの一大ブームでジャズ冬の時代に、
アクースティックの新主流派ジャズを貫いた、ハードボイルドなお人でありましたね。
太くふくよかな音色で、大きく跳躍するフレージングを鋭くブロウするスタイルは、
当時のフレディ・ハバードにもない、ショウ独自の個性でした。

そんなショウの輝かしいラッパが、
全編で繰り広げられているんだから、もう、たまんない。
収録された4曲は、もっとも短くて13分強、ほか3曲は20分弱に及ぶ長尺の演奏。
メンバー全員がドライヴしまくり、熱気溢れるインタープレイを繰り広げます。

とりわけ、スティーヴ・トゥーリ(「トゥーレ」でも「ターレ」でもない)
のトロンボーンがすさまじい。“Sunbath” での超低音ソロなんて、
どう聴いてもチューバにしか思えないんだけど、
こんな分厚い低音を、ほんとにトロンボーンで出しているのか。信じられん。

“VOL.1” とあるのが気になるところで、
まだ他に録音が残っているなら、洗いざらい全部出してもらいたいなあ。
最後に気になったのは、インレイの背表紙が“Quartet” と誤記されている点。
“VOL.2” を出すときは、間違えないでね。

The New Woody Shaw Quintet "AT ONKEL PÖ’S CARNEGIE HALL VOL.1" Delta Music & Entertainment N77045
コメント(0) 

集団即興の快感 ティム・バーン

Tim Berne's Snakeoil  INCIDENTALS.jpg

おととしだったか、ジャズCDショップへ行ったところ、
ECMのコーナーが出来ていて、へーえ、ECMがまたそんな人気なのかと、
すっかりジャズ事情に疎くなった自分を思い知らされたものでした。
あらためて、そのコーナーでECMの作品を眺めていたら、
ティム・バーンの名前を見つけて、びっくり。

フリー・インプロヴァイザー、NY・ダウンタウン派の首領ティム・バーンが、
今はECMから作品を出しているのか!
ティム・バーンといえば、JTMと思ってましたけど、
今やそれも遠い昔のことで、時の流れを感じます。
考えてみれば、もう20年近くティム・バーンを聴いてないんだっけ。
それじゃあと、14年作の“YOU'VE BEEN WATCHING ME” を買ってみたのでした。

聴き始め早々から、ダークなトーンに、気分は急低下。
ああ、もうこういう「内省的」というか、「思わせぶり」なフリー・ジャズは、まっぴら。
「辛気臭い」のとか、「もったいぶってる」のとか、
昔さんざん聴いて、全部処分したもんね。
幽玄な空気感はECMゆえなんだろうけど、長い静寂がかったるく、
燃え上がるようで燃え上がらないのも、
せっかちな性分なもんで、じれったくってしょうがない。

そもそも、オーネット・コールマンの高速/凶暴/爆音カヴァー・アルバム、
ジョン・ゾーンの“SPY VS. SPY” (89)で、ティム・バーンにシビれたクチなんでねえ。
ティム・バーンにECMは合わないだろと、結論付けたんでありました。

再会に失敗したものだから、
昨年新作が出ていたことも、ぜんぜん気付かずにいたんですが、
偶然耳にできたのはラッキーでした。
ぼくの好きなティム・バーンと、やっと再会できましたよ。
新作は、なんと前作“YOU'VE BEEN WATCHING ME” と同じ日の録音。
ところが、内容は前作と違って、こちらはめちゃくちゃアグレッシヴ。
こっちを後回しにリリースするのが、ECMというレーベルの性格なんですね、はあ。

曲というより、調性の無いギクシャクとした音列をループさせるようなコンポジションを、
ティムのアルト・サックス、クラリネット、ピアノがレイヤーしながら、
旋律をさまざまに変奏させていきます。リズムもポリリズミックに進行しながら、
即興が次第に熱を帯びていき、絶頂に達したところで起こる、崩壊の美しさといったら。
緊張と解放を行き来する集団即興の快感を、たっぷりと味わえます。

作曲と即興のバランスもいいですね。
メンバーが介入したり、離れていったりしながら、細かい旋律を動かしていくところなど、
作曲なのか、即興なのか、判然としないところが、またスリリング。

あえて個人的な好みを言えば、
1曲目の もったいぶった 思索的な冒頭なんかカットして、
4分01秒からの合奏が始まるところからに編集しちゃいたいところですけれどね。
ティムの粘っこいアルトのトーンは昔と変わらず、
獰猛に吠えもすれば、からっとしたユーモアもある。最高です。

Tim Berne’s Snakeoil "INCIDENTALS" EMI ECM2579 (2017)
コメント(0) 

マサダ・ブック2最終章 メアリー・ハルヴァーソン

Mary Halvorson Quartet  PAIMON.jpg

去年の夏、メアリー・ハルヴァーソンを知って大ファンになり、
ファイアーハウス・12の過去作を一気にまとめ買いし、
一時期メアリーのギター漬けとなる日々が続いておりました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-08-13

何かのきっかけで、すでにキャリアのある人に惚れ込み、
その後その人の旧作をいろいろ聴いたところで、
出会いのアルバム以上のものはないというのが、長年の経験則なので、
こういうことはめったにしないんですけれど、勘が働いたんですねえ。
メアリーに関しては、過去作をさかのぼって聴いて、大収穫でした。

そしてこの新作、いつものレーベル、ファイアーハウス・12からではなく、
ツァッディークから出たんですね。
ジョン・ゾーンのマサダ・プロジェクト第2弾として04年からスタートした、
ブック・オヴ・エンジェルズ・シリーズの32作目を数える作品で、
なんと本作をもって、マサダ・ブック2は完結したんだそうです。
う~ん、もう13年もやってきたのか。
音楽家に限らず、こういう継続力のある作家に、ぼくはとても共感します。

メアリーもマサダの長年のファンだったそうで、
最終章を締めくくるのに、最適の人選だったといえるんじゃないでしょうか。
今回は、メアリーともう一人のギタリスト、マイルス・オカザキに、
トマス・フジワラのドラムス、ドリュー・グレスのベースというカルテット編成。
メアリーと相性の良いトマス・フジワラとのコンビネーションもバッチリなんですが、
今回の聴きものは、なんといってもマイルス・オカザキとのインタープレイ。

メアリーはディレイなどのエフェクトを多用する一方、
オカザキはエコーを使う程度のナチュラルなトーンで弾いていて、
その違いが、とてもスリリングな効果を生み出しているんですね。
オカザキが引き立て役に回るのでなく、
メアリーとイーヴンで絡み合うところが、いいんです。

特にオカザキのバックに回って、メアリーが散発的なフレーズをかましたり、
濁ったトレモロを繰り出したり、歪んだ音の壁を作ったりと、
メアリーが前面に出る時より、オカザキの裏に回った時のプレイが
すごくイマジネイティヴで、刺激的なんですよ。

そして、メアリーのトレードマークで、
♪ きゅ~ぅ~ん ♪ という、子犬が甘え吠えしてるみたいなチョーキングをしたり、
緊張を一気に脱力させる ♪ ぴよ~~ん ♪ というリックを繰り出したりと、
アヴァンギャルドやフリーにあるまじきなオチャメなプレイが、たまらんのです。

Mary Halvorson Quartet "PAIMON : MASADA BOOK 2 - BOOK OF ANGELS VOL.32" Tzadik TZ8356 (2017)
コメント(0) 

アフリカ音楽を体得した初のジャズ・ミュージシャン ベンクト・ベリエル

Bengt Benger Praise Drumming.jpg

こりゃ、驚き。
ベンクト・ベリエルの87年作“PRAISE DRUMMING” が、
オリジナル原盤所有のスウェーデンのレコード会社から、まさかのCD化。

「ベングト・ベルガー」と書かれることがもっぱらな
ベンクト・ベリエルは、スウェーデン人ジャズ・ドラマー。
二十代の時、インド音楽を学びたくて、65年に北インドをヒッチハイクしてタブラを習い、
68年には南インドへ出かけ、ムリダンガムを修得したという無類の民俗音楽好き。
70年代に入るとアフリカ音楽へ関心を寄せ、75年から77年にかけてガーナに滞在し、
カクラバ・ロビからコギリ(木琴)を学んだという、ユニークな経歴のジャズ・マンです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-10-01

Bengt Berger  BITTER FUNERAL BEER.jpg

ベンクトがECMから82年に出した“BITTER FUNERAL BEER” は、衝撃でした。
それまで、いわゆる「アフロ・ジャズ」と称するジャズ・ミュージシャンによる
アフリカ音楽もどきのでたらめぶりにウンザリしていたので、
非アフリカ人による初の本格的なアフリカン・ジャズ作品となった
本作には目を見開かされ、大カンゲキしたものです。

なんせベンクト・ベリエル登場以前のアフリカン・ジャズは、
「まがいもののアフリカ音楽」だらけでしたからねえ。
ジョン・コルトレーンからシカゴ前衛派に至るまで、
60年代にアフロ回帰の思想で産み落とされた作品は、
すべて観念上の想像の産物にすぎませんでした。

アート・ブレイキー、ランディー・ウェストン、トニー・スコット、渡辺貞夫など、
アフリカ人ミュージシャンと共演した人も一部にはいましたが、
アフリカ音楽の構造やポリリズムを理解し、体得した人は、皆無でした。
それだけに、この“BITTER FUNERAL BEER” は、ほんとに画期的だったんですよ。

“BITTER FUNERAL BEER” の録音にあたって、
ベンクトはメンバーのスウェーデン人ミュージシャンたちに、
ガーナで学んだ伝統音楽のリズムやアフリカ音楽の曲構造を、
徹底的に教え込んだんでしょうね。非アフリカ人だけで、
これほど本格的なアフリカン・ジャズを作り上げたことに感服しますけれど、
単に模倣に終わるのではなく、北欧ジャズならではの管楽器による高度な即興演奏もあり、
ワールド・ジャズともいうべきその完成度の高さは、いまなお新鮮です。

今回30年ぶりとなるCD化で、
ひさしぶりに“PRAISE DRUMMING” を聴き直しましたけれど、
うん、やっぱりこれも傑作ですね。
アフリカ音楽の持つクールネスが、北欧ジャズのクールネスと絶妙に融合していますよ。
“BITTER FUNERAL BEER” をさらに発展させて、
アフリカ音楽ばかりでなく、インドネシアのバリのメロディをモチーフとするなど、
オリエンタルな要素も加えて、さらに魅力が倍化しています。

日本では名前すらまともに書かれないぐらいの人なので、
ご存じない方が多いのかもしれません。ぜひ聴いてみてください。

Bengt Berger & Bitter Funeral Beer Band "PRAISE DRUMMING" Dragon DRCD449 (1987)
Bengt Berger "BITTER FUNERAL BEER" ECM 839308-2 (1982)
コメント(0) 

苦味あるソダーデ ティト・パリス

Tito Paris  MIM Ê BÔ.jpg   Tito Paris  Guilhermina.jpg

ティト・パリスの新作 !?
うわー、ずいぶん久しぶりだなあ。
02年の“GUIHERMINA” は傑作だったよねえ。
え? あれ以来のスタジオ作になるの? それじゃあ、15年ぶりじゃない。

ティト・パリスは、カーボ・ヴェルデのシンガー・ソングライター。
若い頃からギタリストとして才覚を表した人で、
19歳の時、セザリア・エヴォーラのバンド・メンバーに選抜され、
バンド・リーダーのカヴァキーニョ奏者バウとともにリスボンへ渡っています。
セザリアのバンドでは、本人の希望でベースを担当していたんでしたね。

ひび割れた、ちょっとクセのある声がいいんですよ。
哀愁味あるモルナによく似合うんだな。
スローばかりでなく、コラデイラやフナナーのアップでも、いい味を出しています。
ストリングス・セクションやホーン・セクションも惜しげなく使って、
エレガントなクレオール・ミュージックを聞かせてくれています。

聴きどころは、大先輩の歌手バナと一緒に歌ったB・レザのカヴァーでしょうか。
バナは、パリスがポルトガルに渡るきっかけとなった、
セザリア・エヴォーラをリスボンに招いた人物で、
パリスはバナとも一緒に演奏し、ソロ活動に転じるまで、バナの世話になったんですね。

バナは13年に81歳で亡くなっているので、いつ録音しておいたのかな。
録音年月のクレジットがありませんが、バナ節というべき歌声に衰えは感じません。
正直、ぼくは苦手とする歌手なんですけど、友情出演といった起用で、
パリスにとって、お世話になった大先輩への恩返しになったんじゃないでしょうか。

苦味あるソダーデをたたえた歌声をアクースティックな伴奏に包み込み、
カーボ・ヴェルデらしい哀愁味を鮮やかに引き出した、ティト・パリスの円熟の一枚です。

Tito Paris "MIM Ê BÔ" Ruela Music/Sony 88985450062 (2017)
Tito Paris "GUILHERMINA" EmArcy Classics/Universal 472282-2 (2002)
コメント(0) 

涙が枯れ果てるまで パウロ・フローレス

Paulo Flores  KANDONGUEIRO VOADOR.jpg   Paulo Flores  BOLO DE ANIVERSARÍO.jpg

まさに、ヴェテランらしい余裕ですねえ。
アンゴラを代表するシンガー・ソングライター、
パウロ・フローレスの16作目となる新作は、
彼の持ち味であるデリケイトなソング・ライティングを、コクのあるノドで歌っていて、
あぁ、円熟したなあと、しみじみと感じ入れる傑作に仕上がっています。

最近はパウロ・フローレスの活躍ぶりが、いろいろと伝わってきますね。
サラ・タヴァレスの復帰作“FITXADU” でも、サラと詞を共作してましたもんね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-12-15
16年の前作“BOLO DE ANIVERSÁRIO” がズーク色の濃い、
明るく陽気な曲の多い作品だったのに対し、
新作はがらりと変わって、哀感を強く打ち出した作品となりました。

パウロの歌い口は、ソフトながらも、芯にガッツがあるのをいつも感じます。
かすかな苦味を含んだ声には哀しみも宿されていて、
それが胸に沁みるんですよねえ。
けっして性急にならない落ち着いた歌いぶりが、パウロの個性で、
キュートな女性コーラスをフィーチャーした軽快なキゾンバでも、
ダンス気分になるのではなくて、
思索的なパウロの歌い口に惹きつけられます。
メロウなフックのあるキゾンバでも、チャラくならないんですよね、この人は。

今作ではどの曲も哀愁を帯びているとはいえ、それぞれの楽想に合わせて、
カラフルにコーディネイトされたプロダクションが鮮やかです。
チープさが否めなかった前作のプロダクションとは、格段の差です。
アンゴラの代表的なパーカッションの
ディカンザをフィーチャーしたオーセンティックなセンバあり、
バンドリンやクラリネットをフィーチャーした切なさ溢れるコラデイラあり、
パウロがラップするヒップホップ・トラックまであります。

アルバムのなかで、ヒップホップ・トラックが浮かずに違和感なく収まっているのは、
プロダクションの手腕ですね。
センバのリズムを鮮やかにミクスチュアしていますよ。
このトラックでアレンジとギターを担当しているのが、
ギネア=ビサウ出身の才人マネーカス・コスタ。
マネーカスは前作でもエレクトリック・ギターを多くの曲で弾いていたし、
先ほどあげたサラ・タヴァレスのアルバムでも活躍していましたね。

この新作にアンゴラの若者へのメッセージを込めたとパウロは語っていますが、
アルバムを聴き終える頃には、涙が枯れ果てそうなほど哀感にまみれた本作、
パウロはここで何を訴えようとしたのでしょう。

Paulo Flores "KANDONGUEIRO VOADOR" Kassete/LS Republicano no number (2017)
Paulo Flores "BOLO DE ANIVERSARÍO" Frequetaplauso/Bartilotti no number (2016)
コメント(3) 

エチオピアン・レゲトン ナッティ・マン

Nhatty Man  VOL.2.jpg

エチオ・ポップはやっぱ人力演奏じゃなきゃ、といった矢先に、
こちらはバリバリの打ち込み系、レゲトンまでありのポップ・アルバムです。
エチオピアのレゲエ・シンガーでは、
アブドゥ・キアルを取り上げたことがありましたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-11-28
エチオピアのシンガーからレゲトンを聴くのは、初めてですねえ。

ネッサネット・メレセの見事な人力演奏のあとでは、
どんな打ち込みのプロダクションも色褪せて聞こえてしまうので、
コンテンポラリーなエチオ・ポップより、
サンプラーとドラム・マシーンがデフォルトのレゲトンの方が、
かえってすがすがしく聞けます。

主役のナッティ・マン(なんつー、イージーな芸名!)の声がいいんですよ。
いかにもエチオピア人らしい声で、晴れ晴れとした歌いっぷりが胸をすきます。
楽曲のレヴェルも高く、フックの利いたメロディが、
リスナーのハートをがっちりつかみます。

パーティ・ミュージックらしいキャッチーなレゲトンあり、
ラガマフィンあり、レゲエあり、ロックあり、
さらにハチロクの伝統的なアムハラ・マナーのフォークロアもありで、
エチオピアのシンガーならではのバラエティを楽しめます。

注目は、繊細なこぶし回しの使い手であること。
こぶし回しで、まるでオートチューンを使用しているような
ヴォーカル表現をするのには驚かされました。
この生歌による疑似オートチューンとでも呼びべき表現は、
ヒューマン・ビート・ボックスの進化系というか、
近年のジャズにおける、ヒップホップの生演奏化の試みに通じますね。
これ、本人がオートチューンを意識してやっているとしたら、スゴいんだけど、
案外当人は無意識で、繊細なこぶし使いが、そう聞こえるだけのなかもしれません。

ナッティ・マンは、14年からオーストラリアに渡り、メルボルンで活動しているとのこと。
去年再来日したデレブ・デサレンもメルボルンが本拠地だから、交流があるのかな。
彼のサイトをのぞいてみたら、レゲエ・シンガーというわけではなく、
多岐にわたる活動をしていることがわかりました。

エチオピア人4名にオーストラリア人ギタリストを加えた
5人組のバンド、ガラとともに活動するほか、
さまざまなユニットに参加しているようです。
15年には、ザ・ラリベラスというエチオ・ジャズのバンドと活動していて、
ヴィデオを見ると、デレブ・アンバサダーの良きライヴァルといった感じ。
このバンドと、ぜひレコーディングしてほしいなあ。

本作はレゲエを中心としたポップ・アルバムですけれど、
生演奏のエチオ・ポップも期待できそうな逸材です。

Nhatty Man "VOL.2" Sigma/Vocal no number (2017)
コメント(0) 

エチオ演歌は人力演奏で ネッサネット・メレセ

Netsanet Melesse  DOJU  BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION.jpg

いい女っぷりですねえ。
艶然とした笑みを浮かべる、エチオピアのヴェテラン女性歌手ネッサネット・メレセの新作。
若い頃のチャーミングな容姿から、なじみの店のママみたいな雰囲気に変わったとはいえ、
ネッサネットのCDカヴァーには、いつも男ごころをソソられますよ。

今作はタイトルにあるとおり、ネッサネットの過去の持ち歌のセルフ・カヴァー集。
ネッサネットが世界に飛び出した、92年のインターナショナル・デビュー作
“DODGE” からは、オープニングの“Eyenamaye” はじめ、
“Minew Jal” “Shegeye” “Tizita” の4曲がカヴァーされています。
このインターナショナル・デビュー作をプロデュースしたのは、
実は、フランシス・ファルセト。これ、意外に知られていないんじゃないかな。
ファルセトが「エチオピーク」シリーズを始める5年前の仕事です。

Netsanet Mellessé  DODGE.jpg   Netsanet Mellesse  SPIRIT OF SHEBA.jpg

ちなみにこのフランス、ドナ・ワナ盤は、翌93年に曲順とタイトルを変え、
アメリカのシャナチーから“SPIRIT OF SHEBA” のタイトルでリリースされました。
日本ではこのシャナチー盤がよく出回ったので、
オリジナルのフランス盤を知らない人がほとんどかもしれません。

さて、話を戻して、このアルバム、大傑作であります。
若い頃のスウィートな歌い口も魅力的でしたけれど、
円熟した熟女のこぶし回しもオツじゃないですか。
オリジナル・ヴァージョンを凌ぐんじゃないかというところも、多数あり。
これまでネッサネットの最高作は、エキスプレス・バンドをバックに歌った
04年の“FURTUNA” と思ってきましたが、本作と交替していただきましょう。

Netsanet Mellese  Furtuna.jpg

何がそんなにいいって、バックです。
なんとアルバム全編、生ドラムスによる人力演奏なんですよ!
いやあ、嬉しいじゃないですか。
PCで制作するDTMが、すっかり標準仕様となった現在のエチオ・ポップで、
キーボード、ギター、ベース、ドラムス、ホーン・セクションの面々が、
スタジオに集まってレコーディングするバンド・サウンドのなんと新鮮なことか。
贅沢なホーン・セクションの鳴りっぷりといったら。

ギターを弾いているのは、間違いなくギルム・ギザウですね。
トーンやリックでわかりますよ。
3・7・10曲目のエチオ・ジャズ・マナーなアレンジも、
ギルムがやっているんじゃないのかな。
クレジットがゲエズ文字で読めませんが、ブラインドで自信あります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-03-04

ことさらエチオ・オールディーズを意識するわけでなく、
中庸なコンテンポラリー・アレンジのままに、
黄金時代のサウンドを引き継いだ、
イマドキのエチオ演歌となっているところが、嬉しいですねえ。

そういえば、一昨年ヴェテラン男性歌手のエフレム・タムルが
再結成したロハ・バンドとリユニオン・アルバムを出したこともありましたね。
あれも人力演奏によるバンド・サウンドだったよなあ。
やっぱりねえ、打ち込みと人力演奏とじゃあ、グルーヴが違いますよ。
エチオ・ポップはこういう動きが主流となって、
人力演奏へ本格的に回帰してもらいたいなあ。

Netsanet Melesse "DOJU : BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION" Truth Network Corporation no number (2017)
Netsanet Mellessé "DODGE" Dona Wana 198682 (1992)
Netsanet Mellesse "SPIRIT OF SHEBA" Shanachie 64044 (1993)
Netsanet Mellese "FURTUNA" Afr Rec no number (2004)
コメント(0) 

カジュアルなマルチニークの伝統舞曲 ギュスターヴ・フランシスク

Gustave Francisque.jpg

いいなあ。
マルチニークの村の公民館で演奏しているのを、
そのまんまレコーディングしたような飾り気のなさ。
こんな普段着な地元仕様の音楽は、案外CDでは聞けないので、
これはなかなかに貴重なアルバムだと思います。

キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ音楽学校で教授を務める
ギュスターヴ・フランシスクは、マルチニークの伝統音楽を演奏する
マルチ管楽器奏者。表紙写真ではテナー・サックスを持っていますが、
クラリネットやアルト・サックスも吹いています。

ビギン、マズルカ、ヴァルスといったレパートリーに加え、
オート・タイユを取り上げてるところが珍しいですね。
なんせ、シュリ・カリ著『カリブの音楽とダンス』にも、
「マルティニークに関しては、今日までに録音されたオート・タイユの作品は、
ほとんどと言ってよいほど存在しない」と書かれているほどで、
ぼくもオート・タイユとクレジットされた曲を聞いたおぼえがありません。

聞いてみると、ヨーロッパ起源の舞曲カドリーユとよく似ていて、
オート・タイユとどう違うのか、よくわかりませんでした。
本作には、46年創立のマルチニークのグラン・バレエに捧げられた、
アル・リルヴァ作曲のオート・タイユに、バレル・コペ作曲のオート・タイユ、
さらにもう1曲、計3曲のオート・タイユが演奏されています。

タイトルに『先人に捧ぐ』とあるとおり、
他のレパートリーでは、レオナ・ガブリエルの名曲ビギン・メドレーに、
アレクサンドル・ステリオのマズルカ・メドレー、
ルイス・カラフとエディ・ギュスターヴ共作のメレンゲを演奏しています。

リズム・セクションがアマチュアぽく聞こえる曲などもあり、
ひょっとして、音楽学校の生徒さんが演奏しているのかもしれません。
5年前に同じレーベルから、キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ名義で、
音楽学校の生徒さんらしき、女性3人のクラリネット奏者のCDが
出ていたことがあったもんね。

演奏者のクレジットがないので、勝手な想像ではありますが、
曲により伴奏の巧拙が大きく感じるのは確か。
すごくヴェテランぽいプレイを聞かせるピアニストがいる一方、
リズムをキープするのがやっとなドラマーもいたりして、
アマチュアが緊張しながら一所懸命演奏しているふうなところなど微笑ましく、
ぜんぜん悪い印象はありません。

そんなアマチュアぽさが、音楽を風通しよくしていて、
マルチニークの伝統舞曲をカジュアルに聞かせる好作品に仕上げています。

Gustave Francisque "HOMMAGE À NOS AINÉS" Granier Music ZM20171-2 (2017)
コメント(0) 

ジョホールを夢想する寝正月 スリ・ムアル・ガザル

Sri Muar Ghazal.jpg

あけましておめでとうございます。

今年のお正月は、ゆるゆる過ごしたい気分なもんで、
マレイシアのガザルなんて地味なアルバムを、引っ張り出してきました。
ハルモニウムの響きが、おめでたい華やぎ感もあって、いいんじゃないかと。

マレイシアのガザルでは、
前に名門楽団のスリ・マハラニ・ガザルを取り上げたことがありましたが、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-05-12
こちらは、ジョホール・バルから北に車で2時間半の距離にある、港町ムアルの楽団です。
ムアルはマラッカ海峡に面した町で、19世紀中ごろにスマトラ島のリアウを経由して、
マレイ半島に伝わったガザルは、
こうした港町からジョホールの内陸へと広まっていったんでしょうね。

う~ん、温泉に浸かって、ぼーっとしているカピバラな気分になれますねえ。
ガンブースの音色から香辛料の香りが立ち上り、ルバーナとタブラのリズムが、
いっそうスパイシーでエキゾティックなグルーヴを醸し出しますよ。

スリ・マハラニ・ガザルのような強烈な大衆感はなく、
素朴な田舎楽団といった風情がいいんです。
リズムが単調なので眠気を誘われ、いつのまにか寝てしまうユルユル感が、
寝正月のだらだら気分によく似合います。

Sri Muar Ghazal "PIMPINAN SALEH HJ. ARSHAD" Ritma/Musicland 51357-20712 (2005)
コメント(0) 

マイ・ベスト・アルバム 2017

Vijay Iyer Sextet  Far From Over.jpg   Tony Allen The Source.jpg
Meddy Gerville  TROPICAL RAIN.jpg   Orchestra Baobab  Tribute To Ndiouga Dieng.jpg
Tony Chasseur  LIVE - LAKOU LANMOU.jpg   20171105_André Vaz.jpg
U Tin  Rollers.jpg   May Thet Htar Swe  TAW PAN KALAY.jpg
Randy Newman Dark Matter.jpg   Don Bryant DON'T GIVE UP ON LOVE.jpg

Vijay Iyer Sextet "FAR FROM OVER" EMI ECM2581
Tony Allen "THE SOURCE" Blue Note 5768329
Meddy Gerville "TROPICAL RAIN" Dot Time DT9060
Orchestra Baobab "TRIBUTE TO NDIOUGA DIENG" World Circuit WCD092
Tony Chasseur "LIVE - LAKOU LANMOU : 30 ANOS DE CARRIÈRE À LA CIGALE" 3M - Mizik Moun Matinik CM2487
André Vaz "FADO" Todos Os Direitos Reservados 0530-2
U Tin "MUSIC OF BURMA VIRTUOSO OF BURMESE GUITAR -MAN YA PYI U TIN AND HIS BAMA GUITAR-" Rollers ROL004
May Thet Htar Swe "TAW PAN KALAY" Rai no number
Randy Newman "DARK MATTER" Nonesuch 558563-2
Don Bryant "DON’T GIVE UP ON LOVE" Fat Possum FP1607-2

3年連続の大豊作、そしてアフリカとジャズに尽きた一年でした。
ここ数年のアフリカの絶好調は相変わらずで、ここに選べなかったジュピテールや
ジェドゥ=ブレイ・アンボリー、ピエール・クウェンダーズも忘れられません。
90年代に死に絶えたと思っていたジャズが、多角的に展開しながら、
現代の音楽として蘇ったのを、これほど実感した年はありませんでした。
新人は、日本のRIRIとミャンマーのトーンナンディ。
今後どう成長していくのか、楽しみです。
コメント(2) 

四半世紀ぶりのレゲエ ジェシー・ロイヤル

Jesse Royal  LILY OF DA VALLEY.jpg

珍しくレゲエの新作を気に入って、買ってきたんですが、
レコード・リストのデータベースに入力していて、自分でオドロいちゃいました。
なんと、レゲエの新作を買ったのは、23年ぶり。
え、えぇ~、そんなに疎遠になってたんだっけか。

データベースは、国別・年代別になっているんですけれど、
ジャマイカの2010年代は今回がお初。
2000年代は、アーネスティン・ラングリンがトニー・アレンと共演した
テラーク盤1枚のみなんだから、お粗末の極み。

そして90年代の最後に載っていたのが、
95年のダイアナ・キングの“TOUGHER THAN LOVE”なんだから、
自分でも笑っちゃう。あれはレゲエというより、ポップスだよねえ。
なんだか、レゲエ・ファンから石投げられそうだな。

そしてその前が、94年のドーン・ペンの“NO, NO, NO” と
ベレス・ハモンドの“IN CONTROL” なんだから、実質的にはこの時以来ってわけ。
それほどレゲエと縁遠くなっていたとは、われながら呆れるばかりなんですが、
ルーツ・レゲエがリヴァヴァルになっているなんてことも、ぜんぜん知らなかったのでした。

で、ジェシー・ロイヤル、その人であります。
新世代ルーツ・アンド・カルチャーの旗手として、すでに活動歴7年。
15年には日本ツアーもしているというのだから、
満を持しての初フル・アルバムなのですね。

四半世紀近くぶりに聴く、ルーツ・レゲエ・シンガー、いい歌いっぷりです。
声にアーシーな味があって、それでいて歌いぶりはなめらか。
これがデビュー・アルバムとは思えぬ、堂々たる存在感を示していますよ。
緻密に作られたプロダクションも、申し分なし。
これほどスキなく作られていると、もう少し破れたところが欲しい、
なんて注文を付けたくなるところなんだけど、そんな気にもならないのが、
レゲエ門外漢の耳にも届く、モノホンの説得力といえそうです。

Jesse Royal "LILY OF DA VALLEY" Easy Star ES1063 (2017)
コメント(0) 

伝説のトロバドール シンド・ガライ

SINDO GARAY - DE LA TROVA UN CANTAR….jpg

シンド・ガライのリイシュー! こりゃ、事件だ。

19世紀末から20世紀にかけて、600曲ものカンシオーンを残した、
キューバ伝説のトロバドールです。
のちのソンやボレーロへ与えた影響も計り知れず、
101歳まで生き、キューバの民衆からこよなく愛された音楽家でした。
いまなお多くの歌手がシンド・ガライの曲を歌い継いでいるというのに、
ご本人の録音がまったく復刻されておらず、
ぼくも“Cualquier Flor” の1曲しか、聴いたことがありません。

2017年がシンド・ガライの生誕150周年にあたるということで、
記念作としてエグレム社から復刻された本作。
喜び勇んで飛びついたんですが、SP時代の復刻は2曲のみで、
ほかに晩年のプライヴェート録音が2曲収録、本人の演唱は4曲だけとなっています。

シンド・ガライのSP復刻集とばかり思ったので、当てが外れてしまいましたけど、
没後の70年代に制作されたトリビュート・アルバムから、
シンドの息子のグアリオネクス・ガライや、アドリアーノ・ロドリーゲス、
ドミニカ・ベルヘスがカヴァーしたシンドの曲が収録されています。

こうして聴いてみると、あらためてガライの曲の豊かな音楽性に感じ入ります。
その音楽の雑食ぶりは、いわゆる吟遊詩人のギター弾きという、
ぼんやりとしたトロバドールのイメージだけでは、到底くくれないものがあります。

SP録音を聴いてみれば、シンドの高度なギター・テクニックにまず驚かされるし、
歌の方も、高音部を担当する息子と低音部を担当するシンドの、
ハーモニーと呼ぶには自由すぎるというか、相手に合わせることに囚われない
その闊達ぶりに、キューバの美学を感じます。
「素朴」などという形容からはあまりに遠い、高度に洗練された音楽です。

19世紀末にトロバドールたちが歌っていた曲は、
芝居などの芸能にも、強く結び付いていたんじゃないでしょうか。
後年となる26年には、リタ・モンタネールと一緒に活動し、
パリ公演もしているほどですからね。

そんな痕跡を、男女二重唱のドゥオ・カブリサス=ファルチのハーモニーにも感じます。
白人系カンシオーンの典型といえる演唱でありつつ、
ソンに橋渡しされるリズム感覚を聴き取れる曲もありますよ。
マノロ・ムレットが歌う“La Baracoesa” にいたっては、
フィーリンそのものじゃないですか。

19世紀末のトロバドールたちが歌っていたカンシオーンは、
のちのソンやボレーロ、フィーリンなどに発展していく、
さまざまな養分をたたえていたんですね。

Sindo Garay, Adriano Rodeiguez, Dominica Vergas, Dúo Cabrisas-Farach, Manolo Mulet and others
"SINDO GARAY - DE LA TROVA UN CANTAR…" Egrem CD1517
コメント(2) 

ポップスも健康志向で メーテッタースウェ

May Thet Htar Swe  TAW PAN KALAY.jpg

トーンナンディのデビュー作と一緒にミャンマーから届いたのが、
11月10日にリリースされたばかりのメーテッタースウェの新作『森の愛らしい花』。
うわーい、これはぼくにとって、最高のクリスマス・プレゼントです~♡

前作“APYOZIN” は、スライド・ギターやバンジョーをフィーチャーした、
ユニークなサウンドのポップ作でしたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-02-28
今作はバックを一新し、オープニングは、
タンズィンのカケラもないポップ・ロック・サウンドでスタートします。

人気ロック・シンガーのマナウとデュエットするキャッチーなナンバーで、
ヒット狙いなのか、これはこれですごくサマになっていますけれど、
メーテッタースウェほど伝統歌謡の天賦の才に恵まれた人が、
フツーのポップ・シンガーになっちゃうつもりなのかなあ。

なんて心配していたら、2曲目からは、ご安心。
メーテッタースウェなればこその、ミャンマー調ポップスにスイッチします。
バンジョー(たぶんサンプル)をフィーチャーした曲あり、
伝統楽器の笛や太鼓、サウンをカクシ味に使った曲あり、
ユーモラスな男性コーラスを配した曲ありで、
ミャンマーならではの唯一無比なポップスを聞かせてくれます。

前作は、シンセがサウンドを支配しすぎていて、うっとうしく感じましたが、
今作はそのあたりのバランスも、すっかり改善。
タンズィン調のメロディもポップなサウンドに無理なく溶け込み、
プロダクションもグンと向上したのを感じます。

そしてなにより、主役メーテッタースウェの歌い方が、吹っ切れましたね。
前作では、ポップなメロディに伝統歌謡の節回しをなじませるのに、
迷いを感じさせるところがありましたけれど、
今作ではのびのびと歌えているじゃないですか。歌いぶりにキレが増したのに加え、
声に落ち着きも出てきて、成長を感じさせますよ。

いやあ、なんだかマレイシアのシティ・ヌールハリザが登り坂だった
90年代末を、思い起こしちゃいますねえ。
シティ・ヌールハリザの名は、
マレイシアの伝統歌謡をリフレッシュメントした97年の“CINDAI” で、
広く知れ渡ったわけですけれど、その後、伝統歌謡とポップ作を交互に制作しながら、
00年代にグングン成長していったんですよね。

あの時のシティとメーテッタースウェが、ぼくにはダブってみえます。
シティの“CINDAI” がメーテッタースウェの“KAUNG CHIN MINGALAR” なら、
今回のポップ作は、シティの01年作“SAFA” に当たるように思えるんですよ。
シティ・ヌールハリザのファンだったら、この話通じると思うんですけれど、どうかなあ。

マレイ・ポップスとミャンマー・ポップスとでは、だいぶ違いがありますけれど、
世界を見渡しても、こんなに朗らかで健康なポップスは、
ミャンマーをおいてほかにありません。
毒のないポップスなんて、とお思いのムキもありましょうが、 
カッティング・エッジなんて価値観とは、
正反対のポップスがここには存在するのですよ。

May Thet Htar Swe "TAW PAN KALAY" Rai no number (2017)
コメント(0) 

ミャンマー伝統歌謡の新星少女歌手 トーンナンディ

Thone Nandi  YIN TWIN SU.jpg

メーテッタースウェ、キンポーパンチに続いて、
ミャンマー伝統歌謡の新人少女歌手が、またまた登場しましたよ。
その名は、トーンナンディ。
珍しい名前だなと思ったら、「トーン」は「クイーン」を意味する名前だとか。
「クイーン・アイダ」みたいな、芸能人ならではのネーミングのよう。
まだ子供なのに、ずいぶんと背伸びした芸名を付けたもんです。

ヤンゴンのCD屋のオヤジは、「ハタチ」だとか言って売っているそうですが、
んなわけないでしょう。どう見たって、メーテッタースウェより年下、
12歳くらいじゃないですか。じっさいのところ、いくつなんだろう?
そうだ、フェイスブックで友達の(←自慢)キンポーパンチに訊いてみよう。

というわけで、メッセージでCDの画像を送ったら、
なんとキンポーパンチは、“Who is she?”だって。
へ? 知らないの? まさか! 
てっきり、「トーンナンディとは、一緒によくステージに立っているのよ」なんて答えが
返ってくるとばかり思っていたので、意外や意外。同業者なのに、ホントに知らんのか?

ネットで検索しても、本人のフェイスブック以外に情報が見当たらないんですが、
なんと彼女のフェイスブックは、13万人がフォローしています(驚)。
あれ? キンポーパンチも「いいね」してるじゃん。
おいおい、と思っていたら、
キンポーパンチと並んでステージに立っているライヴ動画まで見つけちゃいました。
何がWho is she? だよ、ライヴァル心を燃やして、向こうを張ってるってか。

結局年齢はわからずじまいなんですが、
フェイスブックには学校の成績表の画像も載っているので、
ミャンマー語が読めれば、年次とかで年齢がわかりそうなんですけれども。
でも、なんでミャンマーのコって、メーテッタースウェもそうだけれど、
成績表をフェイスブックに載せるんだろうね。

以前、キンポーパンチとメーテッタースウェともっと幼い少女の3人で
ステージに立っている写真が、フェイスブックによくアップされていましたが、
トーンナンディは、そのコとは別人のようです。
う~ん、ミャンマー伝統歌謡の少女歌手は、層が厚いな。

ステージ用にばっちりメイクした写真は、年齢不詳ですが、
普段着姿を見る限り、まだ小学生のように見えます。
Youtubeに上がっている映像を見ると、年配の先生に指導を受けている様子や、
ステージ・ママらしきご婦人と一緒のところ、
はたまた、もっと幼い5・6歳くらいの頃のコンテストらしきテレビ映像などがあって、
幼少の頃から伝統歌謡をしっかり修養してきたことがわかります。

そして今年の9月28日、満を持してリリースした本デビュー作。
タイトルは、「心の中の願い」の意。
CDリリースにあわせて、ヤンゴンのオーキッド・ホテルでセレモニーが行われ、
その時の動画も、フェイスブックに上がっています。

オープニングのみ、シンセ伴奏のポップ曲で、
あとはサイン・ワイン楽団にヴァイオリンとキーボードが加わった、
古典歌謡のタチンジーで、4曲目とラスト10曲目のみ、
歌謡調メロディが入り混じるミャンマータンズィンとなっています。
トーンナンディの華のある声が、いいですねえ。
この声、ソーサーダトンやメーテッタースウェに通じる才能ですよ。
よくコントロールされた発声と、鍛えられたこぶし回しがまた見事。
このコは大器、間違いありません。

CDはソフト・ケースでなくジュエル・ケースで、
ジャケットやバック・インレイの印刷も美麗。
個人的なお気に入りは、表紙写真の額縁の左右に吊されている
ヨウッテー・ポエー(ミャンマーの糸操り人形劇)の人形。
そういえば、キンポーパンチのバック・インレイにもあったっけな。
伝統工芸の人形好きには、嬉しい演出であります。

Thone Nandi "YIN TWIN SU" May no number (2017)
コメント(0) 

現代レンベーティカの最高峰 カテリーナ・ツィリドゥ

Katerina Tsiridou  AMAN KATERINA  A TRIBUTE TO PANAYIOTIS TOUNDAS.jpg   Katerina Tsiridou  OPOU KI AN EISAI GURISE.jpg

うわぁぁ、ハードボイルドだぞぉ。こりゃ、たまらん。

レンベーティカにこだわって歌い続けるヴェテラン女性歌手、
カテリーナ・ツィリドゥの新作、これは話題を呼びそうですね。
今回はスミルナ派を代表する作曲家、
パナギオーティス・トゥンダス(1886-1942)の作品集ですよ。

マルコス・ヴァンヴァカリスやヴァシリス・ツィツァーニスなど、
20世紀初頭のスミルナ派のレンベーティカを歌ったカテリーナの前作
“OPOU KI AN EISAI GURISE” も素晴らしかったんですけれど、
今作はパナギオーティス・トゥンダスの作品とあって、
さらにディープさを増して、現代レンベーティカの最高峰じゃないですか、これ。

生粋のスミルナっ子のパナギオーティスは、幼い頃からマンドリンを弾き歌い、
のちにエジプトで古典音楽も学んだ、スミルナ派きっての教養高い音楽家。
トルコとの住民交換後にピレウスへ移り、
24年にオデオン社ギリシャ支社のディレクターとなって、
数多くのレンベーティカを録音しました。
31年になるとコロンビアとHMVの音楽監督に迎え入れられ、
40年までに350曲以上の歌を残したといいます。
ローザ・エスケナージを見出したのも、パナギオーティスだったんですよ。

ブズーキ、バグラマー、カーヌーン、ヴァイオリン、チェロの弦楽器に、
アコーディオンとパーカッションを加えた、伝統的なレンベーティカのサウンドにのせ、
甘さを排したカテリーナの芯のある歌声がキリリとしていて、胸をすきます。
期待の若手女性歌手アレッティ・ケティメもサントゥールで参加していて、
1曲歌を歌っているのも、聴きどころ。
カテリーナの歌の合間にアレッティの声を聞くと、
なんとも可愛らしいというか、チャーミングですねえ。

かつてローザ・エスケナージが歌った、
パナギオーティスの代表曲“Chariklaki” はじめ、
無頼な味わいを色濃く残す、これぞ地中海のブルースといった、
パナギオーティス・トゥンダスのレンベーティカを堪能できる傑作です。

Katerina Tsiridou "AMAN KATERINA : A TRIBUTE TO PANAYIOTIS TOUNDAS" Protasis Music PR1173-2 (2016)
Katerina Tsiridou "OPOU KI AN EISAI GURISE" Protasis Music PR1157-2 (2012)
コメント(5) 

イングランド南部ウィルトシャーから ロージー・フッド

Rosie Hood  THE BEAUTIFUL & THE ACTUAL.jpg

ジャケットには、ずいぶん昔に撮られたご婦人ふうの写真が載っていますけれど、
じっさいのロージー・フッドは、まだ若い英国の女性歌手。
これがデビュー作になります。

イングランド南部ウィルトシャー出身の人で、
地元ウィルトシャーに残された伝承歌を掘り起こし、
自作の曲をつけて歌っている人だそう。
第一次世界大戦前に、ウィルトシャー出身の詩人で
歴史家のアルフレッド・ウィリアムズが、多くの民謡を採集して
それらをまとめた本を23年に出版していて、
その本から多くの曲がレパートリーに選ばれています。
このデビュー作のタイトルも、その本の冒頭の一文から、採られたものなんですね。

きりりとした発声が、いかにもイングランドらしくて、すがすがしいじゃないですか。
その真摯な歌いぶりに、デビュー作らしいほどよい緊張感が溢れていて、
聴いているこちらの背も伸びます。

ロージー自身が弾くテナー・ギターとフィドルのほか、
メロディオンだけを伴奏に歌った曲や、ベースのみで歌った曲など、
曲に合わせて、もっとも効果のある楽器を選び抜いて歌っているところが良く、
これ以上引き算できない、シンプルな伴奏が、歌を鮮やかに引き立てています。

冒頭1曲目の通奏低音のように響くサウンドは、
てっきりシンセが作っているものと思ったら、
ラップ・スティールとベースとフィドルで出していると知り、すっかり感心。
こういうアイディアを目の当たりにすると、安易にシンセを使って、
ケルト・サウンド一丁上がり式なプロダクションが恥ずかしくなりますね。

ほかに、エミリー・ポートマンと2曲デュエットしているのも聴きものなんですが、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-04-12
無伴奏で歌った“The Cruel Mother” での二人のハーモニーは、
アルバムのハイライトとなっています。

Rosie Hood "THE BEAUTIFUL & THE ACTUAL" Rootbeat RBRCD36 (2016)
コメント(0) 

リルティングの魅力 ジュリー・ファウリス

Julie Fowlis  ALTERUM.jpg

3年ぶりに届いたジュリー・ファウリスの新作。
スコットランドの女性ガーリック・シンガーで、ぼくのいっちばん好きな人。
i の母音を発声する時のチャーミングさは、この人を凌ぐ女性歌手はいません。
ジュリーの声を聴いているだけで、幸せになれるんですよ。
ほんとにこればっかりは、相性ですよねえ。

前作“GACH SGEUL - EVERY STORY” が出たさいに、
「大人への階段を上った新作」という記事を書きましたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-04-03
あのあと、ジュリーは二人の娘がいるお母さんだということを知りました。
えぇ~、それじゃあ、「大人への階段を上った」もなにもあったもんじゃないなあ。

ジュリーが結婚していたことすら知らなかったので、びっくりだったんですが、
ご主人はアイリッシュの人気バンド、ダヌーのエイモン・ドアリーだそう。
ジュリーのアルバムにいつもブズーキ奏者として参加していた音楽パートナーで、
07年に結婚、10年に長女を、12年に次女を出産していたとのこと。
いやあ、知りませんでした。

デビューまもなくの、十代の歌声としか思えない若々しい印象があまりにも強くって、
いつまでも二十代みたいなイメージが抜けなかったんですけれど、
実は今年ですでに三十代終わりの歳なんですね。
このみずみずしい声を聴いていると、そんな感じがまったくしません。

今作も、ガーリック・シンガーとして着実な歩みを進めたことを実感させる充実作で、
軽やかなダンス・チューンから、メランコリックなラメントや清涼なバラッドまで、
どんなレパートリーでも、それぞれにふさわしい表現と奥行きを持って歌っています。
初めて取り上げた英語曲、アン・ブリッグスとアーチー・フィッシャーの2曲が
話題を呼びそうですけれど、ぼくにとって一番魅力なのは、
愛らしいリルティングを聞かせてくれる“Thèid Mi Do Loch Àlainn”。

リルティングは、ジュリーの生まれ故郷、
北ユーイスト島でも盛んなアウター・ヘブリディーズ特産の毛織物ツイードを、
叩いたりひっぱたりする作業で歌われる労働歌のウォウキング・ソングでよく使われますね。
一種のマウス・ミュージックのようなものですけれど、リルティングが好きなもので、
ウォウキング・ソングも大好物なんであります。
ウォウキング・ソングは、カパーケリーが現代化して再生し、
カパーケリー登場以降、ハイランドの重要なレパートリーとなりました。

音符が弾むジュリーの声で歌われるリルティングは格別。
1音1音エッジが立ったアーティキュレーション、スタッカートの利いた発声は、
ジュリーの真骨頂です。

Julie Fowlis "ALTERUM" Machair MACH008 (2017)
コメント(0) 

人生の宿命を受け入れた歌声 サラ・タヴァレス

Sara Tavares  FITXADU.jpg

“XINTI” から8年。
新作リリースのニュースに、首を長くして待っておりました。

サラ・タヴァレスは、かつてぼくが溺愛した女性シンガー・ソングライター。
リスボン育ちのカーボ・ヴェルデ移民二世ならではの洗練された音楽性を備えた、
オーガニックなクレオール・ミュージックを聞かせる人です。

“BALANCÊ” と“XINTI” を、いったい何百回聴いたことか。
2つのアルバムに刻み込まれたサラのチャーミングな歌い口は、
かすかな息づかいさえ、ぼくの脳裏にくっきりと染みついて、
これって、ほぼ恋愛感情みたいなもんじゃないかとさえ思います。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-08-03

それにしても、なぜ8年もの長いブランクがあったんでしょう。
なんとサラは“XINTI” 発表後のツアーで脳腫瘍を発症して手術を受け、
一時は歌手生命を断念する深刻な事態にあったのだとか。
そんなことがあったとはツユ知らず、
無事復帰して新作を出すことができたのは、本当に、本当に良かったです。

で、待ちわびた新作なんですが、けだるい歌声が冒頭から流れてきて、ガクゼン。
暗いトーンが支配するその歌声は、まるで別人です。
かつてのコケティッシュな表情など、どこにも見当たりません。
わずか30の若さで、死をも覚悟せざるを得ない絶望を体験したことが、
サラの歌声をすっかり変えてしまったようです。

哀しみを宿して、苦みの加わった歌声に、正直戸惑いは隠せませんでしたけれど、
何度も聞き返すうちに、最初のショックも次第に和らいでいき、
サラの変わらぬ作風であるソダーデ溢れるセンチメントなメロディに、
避けられない宿命を静かに受け入れた者の諦念を感じ、はっとさせられました。

本作は、曲ごとにサラの音楽性に合ったゲストや共作者を
PALOP(ポルトガル語圏アフリカ)・コネクションから迎え、丁寧に制作されています。
サラのルーツであるカーボ・ヴェルデからは、ナンシー・ヴィエイラが参加し、
“Ginga” をサラと共作しています。
ギネア=ビサウからは、才人のマネーカス・コスタがギターとベースで参加、
“Coisas Bunitas” ではスキャットも披露しています。

そしてアンゴラからは、大物シンガー・ソングライターのパウロ・フローレスが参加。
本アルバムの中では異色のアフロビートにアレンジした“Fitxadu Flutuar” で
サラと詞を共作し、一緒に歌っています。
このほかアンゴラ勢では、ぼくが注目しているトッティ・サメドを起用。
トッティ・サメドは、配信リリースのみのデビューEPを出したばかりの新人で、
“Brincar De Casamento” をサラと共作し、一緒に歌っています。
ここには収録されていませんが、トッティ・サメドのギター伴奏で、
ボブ・マーリーの“Waiting In Vain” を一緒に歌っている動画が、
Youtube に上がっていますよ。

エレクトロやプログラミングを加えつつも、
生演奏を生かしたデリケイトなプロダクションが、
とてもいいディレクションとなっているし、
フナナーなどカーボ・ヴェルデのリズムを、
これまでになくさりげなく取り入れているところも、とても好感が持てるアルバムです。

死に直面し、絶望の淵に立たされたサラが、
その歌声に憂いの表情をまとうようになったのも、
人生を深く捉え直し、内面を成長させた結果なのだと、今は前向きに受け取っています。

【蛇足的追記】
本作は、ジュエル・ケース入りの通常版と、
“Coisas Bunitas” のリミックスがボーナスで追加された、紙ジャケ仕様限定版があります。
せっかくなので、限定版をオーダーしたんですけれども、
中身は通常版ディスクの紙ジャケ盤が届き、ただいま業者に問い合わせ中(泣)。

Sara Tavares "FITXADU" Sony Music Entertainment 88985490712 (2017)
コメント(4) 

インドネシアのパワー・ロック トーパティ・ブルティガ

Tohpati Bertiga  Faces.jpg

凍てつく冬の朝はロックだ!

なんて、ガラにもないことを言ってますが、
ここ半年ほど、朝のウォーキングの友が、ずっとジャズのアルバムだったもんで、
ロックにスイッチすると、すごく新鮮に響くんですよねえ。
ロックといっても、インストのアルバムなんでありますが。

そのアルバムは、脚光を集めるインドネシアのギタリスト、
トーパティ率いるトーパティ・ブルティガの新作。
トーパティといえば、昨年トーパティ・エスノミッション名義のアルバムにブッとんだのが、
まだ記憶に新しいところですけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-06-07
今作も、実にフッ切れた爽快なロック・サウンドを聞かせてくれて、カイカン。
いやあ、トーパティ、エネルギーありますねえ。

トーパティ・ブルティガは、インドロ・ハルジョディコロのベース、
ボウイことアディテョ・ウィボウォのドラムスとのトリオ編成。
トーパティのギターは、ソロ・パート、リズム・カッティング、バッキング・リフで
異なるカラーのサウンドをはじき出し、トップ、ミドル、ボトムそれぞれに、
厚みのあるサウンドを作り出しています。

楽曲作りも巧みで、次々と転調しながら、リズムもスイッチしていく
息つかせぬダイナミックな展開には、ドキドキしますよ。
こういうスリルは、ロックの醍醐味ですよねえ。

パワフルに押しまくるソリッドなサウンドは、徹頭徹尾ロックで、
フュージョンのセンスは皆無。
曲はポップでも、メロウでもなけりゃ、ソフトでもないし、アーバンでもありません。
ジャズ的なフレージングはほとんど使われないし、
かといって、ブルースぽいニュアンスもなく、
ジェフ・ベックに通じる正統派ロックといえます。

Tohpati Bertiga "FACES" Demajors no number (2017)
コメント(0) 

ロウ・テープス・オール・スターズ エコー

Echo  CALLING ON WONDERS.jpg

バターリング・トリオよりマイっちゃったのが、こっち。
エコーという女性歌手/ラッパーのソロ・アルバムなんですが、
こちらは、ロウ・テープスのオール・スターがずらり勢揃い。
多士済々の面々がプロデュースするサウンドのハイブリッドぶりが、スゴい。

まず、ヤられたのが2曲目の“Come Sit With Us”。
レコードのチリ・ノイズの奥から聞こえてくるのは、なんとフェイルーズの歌声。
いやあ、ドキリとさせられますねえ。
サンプルされたその歌声の神秘なことといったら。やっぱフェイルーズは、マジックだわ。
この曲のプロデュースは、レーベル主宰のプロデューサーでビートメイカーのリジョイサー。
う~ん、さすがだわ。

本作は、プログラミングされたトラックとドラムスが生演奏するトラックが、
違和感なくシームレスに繋がっていくところが、最大の聴きどころ。

ジャズ・ドラマーのアヴィヴ・コーエンが3曲フィーチャーされているとおり、
細分化されたビート感やスモーキーなサウンド・メイクは、
イマドキのジャズのセンスそのもの。
アヴァイシャイ・コーエンと一緒にやっていたアミール・ブレスラーのドラムスや、
セフィ・ジスリングのトランペットなどの生演奏に加え、
ヒップホップのリズム感が生かされていて、この音づくりの巧みさは、ただごとじゃない。

ヒップホップ、ジャズ、ビート・ミュージックなど、欧米の最先端トレンドとリンクしつつ、
イスラエルの独自性をしっかりと発揮する若い才能が、見事に開花した作品。
こりゃあ、ロウ・テープスから、しばらく目が離せなくなりそうですねえ。

Echo "CALLING ON WONDERS" Raw Tapes no number (2016)
コメント(0) 

テル・アヴィヴ新時代 バターリング・トリオ

Buttering Trio  THREESOME.jpg

『ミュージック・マガジン』12月号のイスラエル音楽特集記事に触発されて、
紹介されていたディスクを、ネットでいろいろ試聴していたところ、
ロウ・テープスという新興インディの作品が、やたらと面白い。
ただ残念なのは、カタログは70作品以上あるのに、
フィジカルになっているものが少ないこと。
とりあえずCDで出ている作品を、いくつかオーダーしてみました。

まずは、レーベルを主宰するリジョイサーことユヴァル・ハヴキンを擁する
バターリング・トリオの16年最新作。
すでに今年の春、日本盤でもリリースされた人気盤であります。

「イスラエルのハイエータス・カイヨーテ」という前評判もナットクの音楽性で、
「フューチャー・ソウル」なるヤスっぽいネーミングは、
雲散霧消したかつてのフューチャー・ジャズを思い出させ、気乗りはしませんが、
なるほど、そんな感じのバンドではありますね。

エレピとシンセがレイヤーするサウンドや、
ヴォーカル・ハーモニーが生み出すサウンドの浮遊感は、
ムーンチャイルドも連想させます。
女1・男2というフォーマットも同じなら、女性が歌とサックスを担当しているのも、
ムーンチャイルドとおんなじで、偶然にしても面白いですね。
メルボルンとLAとテル・アヴィヴが共振しているような、そんな時代なんですねえ。

9月に観たムーンチャイルドのライヴでは、ドラムスが起用されていましたけれど、
こちらはプログラミングが基本で、ヴォーカルや鍵盤がハーモニーを作り出し、
ベースがグルーヴを生み出すというより、
歌心豊かなメロディ・ラインを残すところが面白い。
スキマだらけの空間を、サックスが一筆書きのように吹き流すのも印象的です。
サウンドの組み立てがムーンチャイルドほど洗練に向かわず、適度にラフで、
時にサイケな感覚が横断するなど、引き出しはかなり持ってそう。

ネオ・ソウルな感触はあっても、ブラック・ミュージックの要素はなく、
ビート・ミュージックとジャズのセンスが、すごくイマっぽい。
インド音楽やレゲエの取り入れ方も自然で、
音楽の参照の仕方に、力みがないところがいいな。
気付くのが遅すぎて、10月の来日を観れなかったのが、残念であります。

Buttering Trio "THREESOME" Raw Tapes no number (2016)
コメント(0) 

サンバ・ジャム・グルーヴ ガブリエル・モウラ

Gabriel Moura  QUEM NÃO SE MEXER VAI DANÇAR.jpg

うわぉ! ガブリエル・モウラの新作。
ブルーのバックに、ど派手なファッションでポーズをキめたジャケットに、即買い。
中央にどーんとでっかく名前をレタリングしたデザインも、キマってます。
サンバ・ソウルのジャケットは、こうでなくっちゃ、ね。

ここんところ、サンバ・ソウルの良作に出会えないなあと、ボヤいていたところ、
サンダリア・ジ・プラッタの6曲入りミニ・アルバムが良かったので、
これを取り上げようと思っていたところだったんですけどね。
ガブリエル・モウラの新作が届いたとあっては、
何を置いても、これをまず紹介しなくっちゃねえ。

ガブリエル・モウラについては、もう説明不要ですよね。
かつてセウ・ジョルジやロジェーとファロファ・カリオカで活躍した、
サンバ・ソウルのヴェテランであります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-01-26
今作では大物プロデューサー、リミーニャを迎え、
生音のホーンズもたっぷり、
80年代ディスコの祝祭感もいっぱいなサウンドが炸裂します。

メジャー感いっぱいのプロダクションに、
レーベルはユニヴァーサルかWEAかと思えば、なんと、ビスコイト・フィーノ。
えぇ? なんかイメージが狂いますねえ。
インテリ向けの知的な作品を出すビスコイト・フィーノが、
こんな大衆味溢れたポップ・アルバムを出すとは。
リミーニャがプロデュースしたビスコイト・フィーノ作品なんて、これまであったっけか。

リミーニャが辣腕をふるうと、やっぱ違うと思わせるのが、ベース・ライン。
直接リミーニャがシンセ・ベースを弾いている曲もあるものの、自身が弾いていなくても、
アレンジで口出ししているに違いないとおぼしきベース・ラインがそこかしこに。
ジェリー・ジェモットばりのグルーヴ溢れるラスト・トラックなど、
背中ゾクゾク、踊らずにはおれません。

Gabriel Moura "QUEM NÃO SE MEXER VAI DANÇAR" Biscoito Fino BF501-2 (2017)
コメント(0) 

美人妻にボレーロを歌わせて トゥイ・ティエン

Thuỷ Tiên  ĐÔI MẮT NGƯƠI XƯA.jpg

すんばらし。

1曲目を聴き終え、タメ息がもれました。
ヴァイオリンがむせび泣くイントロから、
滑り出すように歌い始めるトゥイ・ティエンの歌い口に、はや降参です。
レー・クエンによって、すっかりヴェトナム歌謡の一大潮流となった、
ボレーロ(ヴェトナム戦争前の抒情歌謡)の新作であります。
変形横長ジャケット内には、トゥイ・ティエンのブロマイドが3枚入っていて、
経年劣化したふうのデザインが、いかにもボレーロらしい演出となっています。

トゥイ・ティエンというこの女性歌手、はじめて知りましたが、
85年生まれ、南部メコン・デルタのタイランド湾に面する
港湾都市ラック・ザーの出身とのこと。
モデルで女優でもあり、コンサドーレ札幌でプレーした経験を持つ、
元ヴェトナム代表のサッカー選手レー・コン・ヴィンと、14年に結婚しています。

トゥイ・ティエンは、おもにバラードを歌うポップ・シンガーで、
時にEDM歌謡なども歌うアイドル的存在だったようですが、
夫になったレー・コー・ヴィンが大のボレーロ好きで、
トゥイ・ティエンに、ボレーロを歌うことを強く薦めたんだそうです。

本人は、大人向けの歌手へ転身する自信がなく、
ボレーロを歌うことに相当抵抗を示したようなんですが、
制作に3年を費やし、レー・コン・ヴィンが選曲やアレンジの助言もして、
完成にこぎつけたのが本作とのこと。
ジャケット裏には、レー・コン・ヴィンの名がエディターとしてクレジットされています。

しっとりとした情感のある歌い口で、丁寧にメロディを織り上げ、
ゆらぐヴィブラート使いも美しく、いい歌いぶりじゃないですか。
自信がなかったといいますが、見事な歌いぶりです。
また、佳曲揃いのレパートリーもいいですねえ。
レー・コー・ヴィンの選曲、シュミ合うなあ。
美人の奥さんに自分の好きな歌を歌わせるなんざ、男の夢ですな。

Thuỷ Tiên "ĐÔI MẮT NGƯƠI XƯA" Bến Thành no number (2017)
コメント(0) 

春霞に溶けていく歌声 アンディエン

Andien  METAMORFOSA.jpg   Andien  KINANTI.jpg

15年ぶりのアンディエン。

もうお母さんになったんだって?
結婚していたことも知りませんでした。
いやあ、歳月は流れるだなあ。
まるでお子ちゃまなアイドル・ルックスのCD表紙に、
買うのをためらったのが、ついこの前のよう。

16歳当時の02年作“KINANTI” には、心底驚かされました。
インドネシアの天才少女という評判に、CDを手に取ってみれば、
幼児タレントか?てな写真にゲンナリ。
裏ジャケットの、ショートパンツにタンクトップ姿で唇かんだポーズもカンベンつーか、
ジャリ・タレだの、ロリータ趣味だのに、ムシズが走る性分なもので、
こんなん金出して買うの、ヤダなあとか思ったよなあ。

で、その表紙写真からは到底想像がつかない、しっとりとした歌声と、
都会的で洗練されたプロダクションのハイ・レヴェルぶりにノックアウト。
ほんとに、このコが、これ歌ってんの!? 別人でしょ、これ。
その落ち着き払った歌声に、びっくりしました。
ティーン特有のはしゃいだ感じなど、どこにもありません。

背伸びして、大人びた歌い方をしているというのとも違って、
発声じたいが柔らかく、破綻しない一定のトーンを、ずっと保っているんですね。
霞がかった声で、声が前に出ることがないので、
それが余計落ち着いた雰囲気を漂わせます。
アップ・テンポの曲でも、華やいだりしないので、声がキンキンすることも皆無、
10代らしからぬ歌いぶりは、この人独自の個性でした。

歌い回しに、シーラ・マジッドの影響も感じさせますが、
ハイ・トーンにオキャンな感じもにじみ出るシーラとは、だいぶ印象が異なります。
ジャジーなプロダクションにのる、どこまでも柔らかく、こもった歌声は、
極上のAORを演出するのにうってつけな癒し系ヴォーカルで、
おそるべき16歳!と驚嘆しました。

あれから15年。
あいかわらず、もやあっとした声をしてますねえ。
02年作のジャケットとナカミのチグハグぶりと違って、
ジャケットの淡いブルーが、アンディエンらしさをよく表わしています。
早熟すぎた歌声が、ようやく実年齢に追いついたというか、
歌声と外見に違和感がなくなったのをおぼえます。

イントロとオウトロで、ペロッグ音階が飛び出すのは、
おやっと思わせる演出ですけれど、これも大人になった余裕でしょうか。
ちらっと最後に出てくる赤ちゃんの声は、アンディエンの子供なのかな。
しなやかなプロダクションによくなじむ慈愛に満ちた歌声から、
母アンディエンの今がよく伝わってきます。

Andien "METAMORFOSA" Demajors no number (2017)
Andien "KINANTI" WEA 0297-45336-2 (2002)
コメント(6) 

議論はやめ!!! 汚せ!!! 汚せ!!! 脅せ!!! 脅せ!!! オルケストル・レ・マンゲレパ

Orchestre Les Mangalepa  LAST BAND STANDING.jpg

アフリカのヴェテラン・バンドが、またひとつ復活!
今度はケニヤのマンゲレパですよ。
う~ん、懐かしいですねえ。

36年前、今はなき、高円寺の輸入レコード・ショップ、アミナダブで、
はじめて手にしたケニヤ直輸入のレコードのジャケットを、
クンクンと嗅いだことを、思い出しますねえ。
あの時匂いを嗅いだマンゲレバのLP2枚を、棚から取り出してきましたが、
さすがにケニヤの匂いは、もうしなくなっちゃったなあ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-03-23

Orchestre Les Mangelepa_913.jpg   Orchestre Les Mangelepa_921.jpg

マンゲレパは、当時のザイール、現在のコンゴ民主共和国の
東部の都市ルブンバシからケニヤのナイロビへ出稼ぎにきたバンドで、
ナイロビを拠点に東アフリカ各国を回り、活動していました。

オープニングから、懐かしいアニマシオン(かけ声)が聞こえてきますよ。
♪チャッフア! チャッフア、チャッフア!♪ ♪シトゥカ! シトゥカ、シトゥカ!♪
印象的なアニマシオンがそのまんまタイトルとなった80年作
“AMUA!!! CHAFUA!!! CHAFUA!!! SHITUKA-SHITUKA” の収録曲
“Kanemo” が再演されていて、いきなり頬がゆるんじゃいました。

ほかにも、この80年作からもう1曲再演されているほか、
先に掲げた78年作の『1周年記念作』からは、4曲中3曲が再演されています。
13年に亡くなったウィリアム・ンタンブウェ・キマケサが
ベースとクレジットされているので、レコーディングは13年以前ということですか。

ちなみに、ウィリアムの後任のベーシスト、
ジュマ・カチェングも16年に亡くなっています。
どういうわけだか録音年月のクレジットがなくて、
リリースまで4年以上かかっていることを、隠してるふうなのは、どういうわけ?

アニマシオンのアグレッシヴさはさすがにないけど、
涼しげなハーモニーやみずみずしいグルーヴは、70年代そのまま。
ヴォーカルが口ずさむフレーズやアニマシオンを、ベースがマネしてなぞるという、
マンゲレパお約束の掛け合いもきっちり再現していて(“Malawi Zikomo”)、
懐かしさでいっぱいになりました。

Orchestre Les Mangalepa "LAST BAND STANDING" Strut STRUT159CD (2017)
[LP] Orchestre Les Mangelepa "1ST ANNIVERSARY ALBUM" ASL ASLP913 (1978)
[LP] Orchestre Les Mangelepa "AMUA!!! CHAFUA!!! CHAFUA!!! SHITUKA-SHITUKA" ASL ASLP921 (1980)
コメント(0) 

親指ピアニストの朗らかなアフロ・ポップ ルーレンド

Lulendo  MWINDA.jpg   Lulendo  À QUI PROFITE LE CRIME.jpg
Lulendo  ANGOLA.jpg   Lulendo  LIVE SESSIONS.jpg


パリで活動しているアンゴラ人ディアスポラの親指ピアニスト、ルーレンドの新作です。
前作から10年ぶり、ずいぶんと長いインターヴァルでのリリースですが、
日本盤が出るのは今回が初めて。こりゃあ、めでたい。

拙著『ポップ・アフリカ800』に、01年のデビュー作を載せた時は、
ルレンドと書いたんですが、ライスのリリース・インフォメーションにルーレンドと記され、
こちらのカナ読みが正しいことに、いまごろ気付きました。
おわびして訂正させていただきたいと思います。

デビュー作は、ルーレンドが書くメロディアスな楽曲を、
彼の親指ピアノをベースに、ビリンバウやタマ、ンゴニを演奏するパーカッショニストや、
その他メンバーがニュアンス豊かなリズムで彩っていました。
センバといったアンゴラ色はあまり感じさせず、
ルーレンドのソフトな歌声が、繊細な感性をよく伝えるアフロ・ポップ作でしたね。

一方、セカンドは、がらっとメンバーを変え、ドラムスにキーボード、ギター、
打ち込みも取り入れて、エッジの立ったポップ・サウンドに変貌し、
デビュー作の良い意味でのナイーヴな感触は、だいぶ減ってしまいました。
サックスやヴァイオリン、ペダル・スティールなどのゲストも加わって、
サウンドが華やかになり、ルーレンドも歌に専念する曲が多くなり、
親指ピアノを弾く曲が少なくなってしまいました。

3作目は、セカンド作と同じメンバーのリズム・セクションとギターに、
ルーレンドの4人というシンプルな編成で、
観客を入れずにライヴ・セッションしたアルバム。
レパートリーは2作収録曲の再演で、やはりセカンドからの曲は歌のみになっています。

そして10年ぶりの新作は、なんとトニー・アレンがゲストで2曲ドラムスを叩いています。
プロデュースとアレンジは、トニー・アレンのバンドでギターを弾いている
カメルーン人のインディ・ディボング。その縁でトニーを呼んできたというわけか。
トニー・アレンばかりでなく、トニーの新作で大活躍だったサックス奏者、
ヤン・ジョンキエレヴィックスも呼ばれていて、
テナー、アルト、バリトンに加え、トロンボーンも吹いています。

原点回帰して、デビュー作同様、ルーレンドの親指ピアノをメインに据えたところが、いい。
時にエフェクトを施しつつも、コノノのようにやりすぎることはありません。
トニー・アレンともう一人のドラマーも共通して、
ビートが丸っこくふくよかで、ルーレンドの音楽性との相性はばっちり。
管楽器を効果的に使いながら、鍵盤などで音を塗り固めないヌケのいいサウンドで、
ルーレンドらしい朗らかなアフロ・ポップに仕上げています。

ルーレンドが弾く親指ピアノは、過去3作ではリケンベとクレジットされていましたが、
今回の新作では、キサンジと書かれています。
リケンベはコンゴ民主共和国で広く見られる名前ですが、
キサンジはアンゴラでの一般的な名称で、チタンジと呼ばれることもあります。
リケンベもキサンジも構造としては、くりぬいた本体に蓋をして共鳴空間を作ったもので、
同じタイプの親指ピアノです。

コンゴ民主共和国にも、アンゴラ国境付近にイサンジと呼ばれる親指ピアノがあるので、
同系の民族による名称なのかもしれません。
ルーレンドもアンゴラ北部マケラ・ド・ゾンボ出身の
コンゴ人(国籍ではなく民族名)の家系ですからね。
祖父からコンゴの儀式を受けてから、
親指ピアノのテクニックを習ってきたという人であります。

Lulendo "MWINDA" Buda 5767421 (2017)
Lulendo "À QUI PROFITE LE CRIME?" Nola Musique 82220-2 (2001)
Lulendo "ANGOLA" Nola Musique 3017263 (2005)
Lulendo "LIVE SESSIONS" Nola Musique NM107 (2007)
コメント(0) 

キルギスへのイントロダクション オルド・サフナ、グルザダ

Ordo Sakhna.jpg   Gulzada  TOLGONUU.jpg

キルギス音楽、初体験。

日本口琴協会の直川礼緒さんの招きで、
キルギスの伝統音楽グループがやってくるというので駆け付けた、
11月24日高輪区民センター。
05年に愛知万博で来日したというオルド・サフナは、今回が2度目の来日だそう。

長棹で3弦の擦弦楽器コムズ3人と胡弓クル・クヤック、
チェロに似たバス・クヤックの弦楽器5人に、笛が2人と
ジェンベ2台、バス・タム、木魚、シンバルを並べたパーカッションの8人編成。
弦楽器の5人は、持ち替えで口琴も演奏します。

オープニングは、キルギスに伝わる英雄叙事詩を吟じる語り物が披露されました。
マナスチと呼ばれる語り部のおじさんが吟じるんですが、これがなかなか野趣があって、
味わい深いものでした。言葉がわからないと外国人にはきついからか、
冒頭1曲しかやってくれませんでしたけれど、もっと聴いてみたかったですね。

オルド・サフナの演奏は、しっかりとディレクションされたもの。
笛のハーモニーや弦楽器のアンサンブルは、かなり計算されたアレンジが施されていて、
これ、譜面に落としてあるんじゃないかと思えるような曲もありました。
伝統音楽といっても、素の民謡といったものではぜんぜんなくて、
伝統音楽の要素を精緻に再構築したグループという感じ。
そのせいか、その洗練された演奏は、映画音楽のようにも聞こえましたね。

00年のデビュー作CDも、キリル文字がいっさい書かれておらず
グループ名もタイトルも、すべてアルファベット表記。
バイオや楽器解説などすべて英語で書かれていることからもわかるとおり、
外国人向けに制作されていることがわかります。

コムズの3人がすごい業師たちで、それぞれ曲弾きをするのは、
なかなかの見ものでしたよ。
弦の指さばきに、3人それぞれ個性があって、
エッジの立たない柔らかなナイロン弦の響きを粒立ちよく弾く者あり、
弦を弾いた指でわざとボディにあたるような弾き方をする者など、
個性豊かな奏法にも目を奪われました。
ボディを指で叩くパーカッションのような奏法を交えたり、タッピング奏法使いなど、
あらん限りの技を繰り出すこと、繰り出すこと。
しまいに楽器を肩に載せたり、顔にあてたまま弾いたりと、見せ場を作っていました。

052489.jpg
052476.jpg052521.jpg

そして、ゲストとして登場した女性歌手のグルザダが、スゴかった。
最初に歌ったア・カペラのスケールの大きな歌いぶりに、ノックアウトをくらいました。
歌に込められたエナジーがハンパなくって、
歌を聴いているのに、まるでコンテンポラリー・ダンスの
ソロ・パフォーマンスを観ているような錯覚に陥りましたね。
いや、この人、タダもんじゃないぞとドギモを抜かれ、
家に帰って、14年に出したというデビュー作を聴いてみましたが、
これがまたすごい力作です。

伝統音楽をベースとして、オルタナティヴなニュアンスもある、
モダンなサウンドにデザインされたプロダクションが見事。
このままインターナショナルに通用するレヴェルで、
トルコやギリシャのオルタナティヴあたりと親和性がありそう。
サラーム海上さんや松本晋也さんに聞かせてみたい、なんてことも頭をかすめました。

キルギスのもっとディープな民謡やポップスを
聴いてみたいという欲望にかられた、刺激的な一夜でした。

Ordo Sakhna "THE MUSIC OF THE LEGENDS" Ordo Sakhna no number (2000)
Gulzada "TOLGONUU" Gulzada no number (2014)
コメント(0) 

エレクトロ・ソンガイ レイラ・ゴビ

Leila Gobi  2017.jpg

お! 今度はフィジカルも出るのね。
インターナショナル・デビュー作として、
クレモント・ミュージックからリリースされたレイラ・ゴビの前作は、
500枚限定LPと配信のみのリリースでしたけれど、
セカンドはCDもリリースされるというインフォメーションに、楽しみにしていました。

レイラ・ゴビは、マリ東部メナカ出身の女性歌手。
これまでさまざまなマリの歌手のバックアップ・ヴォーカリストとして活動し、
10年に自身のグループを率いてソロ活動を始めたという人です。
本作は、ソンガイ語とタマシェク語で歌った曲が半々となっています。

メナカ出身ということは、レイラはソンガイ人なのでしょうか。
そういえば、トンブクトゥ出身のソンガイ人歌手ハイラ・アルビーも、
ソンガイ語、タマシェク語両方で歌いますよね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-09-21
トゥアレグの歌手はタマシェク語でしか歌いませんけれど、
ソンガイの歌手って、多言語使いが多いですよね。
アフェル・ボクムやママドゥ・ケリーも、
ソンガイ語、プール(フルフルデ)語、バンバラ語で歌うし。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-06-20
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-10-03

レイラは、鼻にかかったハイ・ピッチのクセのある声に特徴があり、
エレクトリック・ギター、ベース、カラバシの3人をバックに歌っています。
バマコでレコーディングされたベーシック・トラックに、
エレクトロなサウンドを加味したいというレイラの希望で、
マリ国内では機材や電力事情に問題が多いことから、
ロサンゼルスで打ち込みが加えられ、ニュー・ヨークでミックスされました。

ベーシック・トラックに寄り添うように施された打ち込みは、
見事に3人の伴奏に溶け込んでいて、
デヴィッド・ハーローという人、なかなかの手腕ですね。
ギターの旋回するフレージングを補うシンセ音を加えたり、
ベース・ラインを強化したりと、ソンガイ音楽の構造をよく理解した
プロダクションを作り出しています。
存在感をくっきりと示しながらも、
主役以上にでしゃばらず、やりすぎとならない、いい仕事ぶりです。

なんか、これに似た名作が昔、ありましたよね。
そう、「テクノ・イサ」の異名を取った、
ワスルの男性歌手イサ・バガヨゴの“SYA” です。
あのアルバムほどには打ち込みが自己主張していないぶん、
テクノ度は低いけど、それだけにこなれたエレクトロ・サウンドが楽しめます。

Leila Gobi "2017" Clermont Music CLE019 (2017)
コメント(0) 

音楽を引き立てる音響の快楽 細野晴臣

細野晴臣 Vu Jà Dé.jpg

細野晴臣の新作が、とんでもない。
オープニングからして、スリム・ゲイラードの“Tutti Frutti” なんだから、
いきなりニヤニヤが止まりません。いかにも細野さんらしいカヴァーと思ったら、
ご本人曰く、レオ・ワトソンのヴァージョンを、最近知ったばかりというのだから、
意外や意外。スリム・アンド・スラムのオリジナルは聞いたことがないんだそう。

で、「とんでもない」のは、そういうカヴァー曲云々てな話じゃありません。
この録音の良さ、なんなんすか!
目の前に飛び出てくる、細野の歌声。
手を伸ばせば、ギター抱えて歌っている細野の顔を触れるんじゃないかってほど、
まぢかに感じることのできる録音。このナマっぽい音は驚異的です。

ヴォーカルは、SP時代の音質を追及したようなミックスをしているし、
バックの演奏の音録りは、アナログのような温かみに溢れ、
これがデジタル録音とは、にわかに信じられないほど。
ブラシのスネアなんか、50年代のブルー・ノートみたいな音をしてるじゃないですか。
アコーディオンやペダル・スティールの響きに、脳がトロけます。

細野が表現するノスタルジックな音楽を、もっともふさわしい音響で演出していて、
音響が音楽をこれほど引き立てているのは、ここ最近聴いたおぼえがありません。
これは、単にアナログぽい音をねらったとかのレヴェルを完全に超えた、
音楽の快楽を音響の面から追及したレコーディングです。

ところが、このアルバムの特集を組んだ、
『ミュージック・マガジン』の今月号の記事を読んでも、音響に関する言及がほとんどなく、
「録音そのものは抜群にいいけど」なんて、軽いコメントで済まされちゃっていて、
おいおい、聴きどころ、まつがってないか、みたいな思いがふつふつと。

ぼくは、録音や音響といったことにあまり興味のない方なんですけれど、
それは、ナカミの音楽とは次元の違う、
純技術的なエンジニアリングの側面ばっかりが、語られるからなんですよね。

デジタルの時代になって、「音の良さ」というものが、エンジニアリング一辺倒で語られ、
音楽家と技術者の間に、壁ができてしまったように感じるんですよ。
肝心の音楽を聴かず、勝手に技術面での音の良さを競い合っているみたいな
違和感を感じるのは、ぼくだけですかね。
音の定位のありかたなど、その音楽を生かす音響という観点から、
レコーディングやミックスを練り上げた最良の例が、このアルバムなんじゃないでしょうか、

事実、このアルバムでゆいいつ違和感を感じるのが、84年と87年に録音した2曲で、
ミニマルを追及していたアンビエント期に録音された、このエッジの立った音は、
他のトラックとあまりに異質です。

音楽と音響の調和という問題は、その好例と悪例が、
細野さんのかつての名作で、すでに実証されているじゃないですか。
音楽と音響がベスト・マッチングだった『泰安洋行』に対して、
『はらいそ』は、デジタルな音質が音楽を台無しにしていましたよね。

かの名作を傷つけたくない配慮からなのか、
なぜかこの問題はあまり話題にされることがありませんが、
『はらいそ』の録音が、音楽とミス・マッチだったことは、みんな内心感じてきたはず。
ぼくには新作『Vu Jà Dé』が、『はらいそ』のリヴェンジに聞こえ、
快哉を叫びたくなるんですよ。

細野晴臣 「Vu Jà Dé」 スピードスター/ビクター VICL64872~3 (2017)
コメント(0) 
前の30件 | -
メッセージを送る