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エチオピアン・ポップのリリース事情 エスバルウ・ユタイェウ・イェシ

Esubalew Yitayew (Yeshi)  TIRTAYE.jpg

エチオピアの男性歌手の新作で良かったのは、エスバルウ・ユタイェウ・イェシ。
85年生まれで、今年リリースした本作がデビュー・アルバムとのこと。
カラッと明るい、いい声の持ち主ですね。
伸びのあるソウルフルな歌いぶりがすがすがしく、好感が持てます。
やわらかに回るこぶしも、若々しくていいじゃないですか。

プロダクションは、エチオピアン・ポップの標準仕様とはいえ、
メリハリの効いたアレンジが、バラエティのある曲調を華やかに彩り、
いわゆる金太郎飴的サウンドからは免れています。

レパートリーがなかなかユニークで、
冒頭、マーチのリズムで始まるのには、意表をつかれました。
♪ エチオピアなんたら ♪ という歌詞も出てくるので、
愛国的なメッセージのある曲なのかな。
バックで、ワシントやサックスが控えめに、
エチオピアのフォークロアなメロディを吹いているところも、そんな演出を感じますが、
テディ・アフロみたいなわざとらしさはありません。

ほかにも、ア・カペラのドゥー=ワップが出てきて、びっくり、
エチオピアン・ポップで、ドゥー=ワップを聴くのは初めてですね。
なかなかシャレた仕上がりで、従来にないセンスのプロデュースが光ります。

ところで、エチオピアン・ポップ・シーンで不思議なのは、
次々と新人がデビューするわりに、2作目がなかなか出ないことでしょうか。
新人に限らず、中堅やヴェテランも、なかなかコンスタントに作品が出ません。
デビューする歌手の多さは、層の厚さの表われですけれど、
ある程度有名になったあとは、CDよりライヴで稼ぐようになってしまうのかなあ。
なんせ、大御所のマフムード・アハメッドやアレマイユ・エシェテも、
現役バリバリで歌っているくせに、CDはまったく出ないもんねえ。
それが少し残念であります。

Esubalew Yitayew (Yeshi) "TIRTAYE" Sigma no number (2017)
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コンテンポラリー・エチオ・ポップ良作 ヘレン・ベルヘ

Helen Berhe  ESKI LEYEW.jpg

あいかわらず、エチオピア現地盤のリリースは活発なんですけれども、
どうもここのところ、ぱっとした作品がないんですよね。
良かったのは、この春に出会ったジャズ・ギタリストのギルム・ギザウくらいかなあ。
エチオ・ジャズ新世代によるユニークな良作なんですけど、
日本に入ってこないのが残念です。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-03-04
一方、歌モノは、良くも悪くも、ソツなくできた平均的作品ばかり。
これは!という作品がなくて、どうも取り上げにくいんですよね。

人気絶頂のテディ・アフロは、社会派なメッセージ・ソングが、
どうにも見え透いていて、ぼくは買えないんですが、現地じゃ大ウケですね。
その昔、ナイジェリアにソニー・オコソンというメッセージ・ソングを商売にした
インチキ野郎がいたっけねえ。ソニー・オコソンみたいなヤツって、
その後も、ちょこちょこ出てくるよなあ。
自分の国の民族問題すら解決してないくせ、
足元の問題はヤバイので触れずに、「アフリカ・ユナイト」だのと、
オタメごかしのメッセージを歌うヤツくらい、信用ならんのはいませんよ。

メッセージ・ソングを売り物に、現地で支持されているからって、
外国人がそれに追随する必要なんてありません。
最近の日本の音楽ジャーナリズムは、批評の視点が欠けてるんじゃないのかな。
あちらで人気があるからって、ただそれを礼賛したってしょうがないんだけど。

おっと、話が変な方向にそれちゃいましたが、
そんな不満を抱えていたエチオピア新作で、珍しく耳がピクンと反応したのは、
ヘレン・ベルヘという新人女性歌手の2作目。
オープニングは、アバガス・キブレワーク・シオタ・マナーの
コンテンポラリー・サウンドで、ああ、またかといった感じだったんですけれど、
2曲目、3曲目と聴き進めていくうちに、エレクトロR&Bあり、
人力ドラムスに管楽器入りの生演奏ありと、サウンドの振り幅は大。
シオタのほかに3~4人がプロデュースを手がけているようで、
個性豊かなカラフルなサウンドに、すっかり魅せられたんでした。

なかでも耳を奪われたのが、マンドリンをフィーチャーした3曲目の“Yene Konjo”。
エチオピアでマンドリンを弾く人いえば、
かの名門インペリアル・ボディガード・オーケストラの
アイェレ・マモしか知らないんですけれど、あのレジェンドが弾いているんでしょうか !?
たまたま本作と一緒に入手した、新人男性歌手アディス・グルメサのデビュー作
“YAN GIZE” のライナーに、マンドリンを弾いているアイェレ・マモの写真が載っていて、
マンドリンが登場する曲があったので、ひょっとするとヘレンのアルバムで弾いているのも、
アイェレ・マモなのかもしれません。

バックのことばかり書いちゃいましたが、主役のヘレンのヴォーカルもいいんですよ。
ちょっとハスキー味のあるソウルフルな声で、
ざっくばらんとした歌いぶりに、親しみがもてます。さらりと回すこぶしも巧みです。
ヘレンは10年に“TASFELIGEGNALEH” でデビューしたそうで、
デビュー作はアバガス・キブレワーク・シオタとウォンディメネ・アセファの二人が
アレンジを手がけていたとのこと。
セカンドの本作は、スタッフをさらに強化して制作されたわけですね。
金太郎飴的なエチオピアン・ポップのなか、ひとつ頭抜けたアルバムです。

Helen Berhe "ESKI LEYEW" Zojak World Wide no number (2017)
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蘇る南ア・ブラックネス バファナ・ンハラポ

Bafana Nhlapo.jpg

初めてその名を聞く、南ア黒人歌手のデビュー作。
なんとノルウェイのジャズ・レーベル、ジャズランドからのリリースで、
プロデュースとミックスを、
ブッゲ・ヴェッセルトフトが手がけているというのだから、へえ~。

どんなアルバムになっているのやら、まったく想像もつかずに聴き始めたんですが、
これが予想だにせぬ、すばらしい仕上がり。
期せずして南ア大衆音楽のエッセンスが詰まった内容に、いたく感心してしまいました。

サックス、トランペット、トロンボーン、チューバ、ドラムスに、
サポート・ヴォーカルを一人加えた、ベースレスのブラス・バンド編成は、
南ア音楽ファンなら、往年のマラービを思い起こさずにはおれません。

このアルバムがユニークなのは、
そんなマラービの再現を狙ったのでは、まったくなさそうなところ。
ブッゲが南ア音楽に造詣があるような話は聞いたことがないし、
メンバーの名前を眺めてみても、サポート・ヴォーカリストとドラマー以外は
全員ノルウェイ人のようで、マラービを知っているとは、到底思えません。
バファナ・ンハラポの曲をブラス・バンド・スタイルで演奏してみたら、
はからずもマラービみたいになってしまった、みたいなところがいいんですよ。

オープニングはサポート・ヴォーカルとのア・カペラで始まり、
バファナのヴォーカルは、のんしゃらんとしていて、上手くはないものの味があり、
エネルギッシュに歌うと、はっちゃけた表情をのぞかせ、魅力があります。

CDにはバファナ・ンハラボに関するインフォメーションがいっさいなく、
いったいどういう人なのかと思って調べてみると、76年ソウェトの生まれなんですね。
父親は名コーラス・グループのキング・スター・ブラザーズのメンバーというのだから、
アパルトヘイトのもっとも過酷だった時代に幼少期を過ごしたとはいえ、
ソウェトの音楽や演劇など、ズールーの大衆文化にどっぷりとつかり、
南ア大衆音楽の豊かな環境のもとに育った人なのでしょう。

ロックやジャズ、ファンクなどを貪欲に吸収しながら、ズールー語で歌うとともに、
ジョハネスバーグの詩の舞台で見た、ハンドメイドのパーカッションに刺激されて、
どこの家にもある、ありふれたスズのカップといった家庭用品をパーカッションとする、
インダストリアル・パーカッショニストとなったそうです。

パーカッショニストとして、
ポップ・グループのクワニ・エクスペリエンスに9年間在籍したほか、
パーカッション・カルテットのL.A.P(ライヴ・アフリカン・パーカッション)でも
アルバムを残したのち、ソロ活動に転じたとのこと。
ブッゲ・ヴェッセルトフトとは、
クワニ・エクスペリエンス時代にノルウェイへツアーして、交流ができたようです。

共演歴に、ブシ・ムションゴ、ポップス・ムハンマド、マダラ・クネネ、
ダブ・ポエットのムタバルカといった名が挙がるとおり、
スピリチュアルな資質もうかがわせる、南ア伝統のブラックネスを感じさせる逸材です。

Bafana Nhalapo "NGIKHUMBULE KHAYA" Jazzland 3779185 (2017)
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優美な知性を彩る清涼な歌声 ヴァネッサ・モレーノ

Vanessa Moreno  EM MOVIMENTO.jpg

なんて清涼な歌声。
ヴァネッサ・モレーノを聴いて、ジョイスの“FEMININA” を思い浮かべるのは、
ぼくばかりではないでしょう。
ジョイスと同じ声質を持つジアナ・ヴィスカルジの方が、
ジャズ・センスの強さといった点で、より共通項があるといえるかもしれません。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-09-25

でもジャズ度の高さでいえば、ヴァネッサはジアナ以上。
サンパウロ州立ULM音楽学校でポピュラー歌唱を学び、
ソウザ・リマ音楽大学にも通ったというキャリアが物語るとおり、
ジャズ/フォークロア/クラシックを縦断する、高度な音楽性の持ち主です。

MPBというポップスの枠を超えた、アーティスティックな音楽性は、
サンパウロのノーヴォス・ コンポジトーレス派らしさではあるものの、
いわゆる庶民的な親しみといった大衆性に欠けるのが、玉にキズ。

ブラジルばかりでなく、近年南米各国に広がるこの種の芸術音楽志向は、
一部のインテリ相手の愛玩物となることに満足してしまって、
広くリスナーを求める姿勢が欠けているように思えてなりません。

ヴァネッサ・モレーノも、そういう芸術音楽志向タイプの歌手ですが、
みずみずしく、フレッシュな歌声が、
知的すぎる音楽に親しみと温かみをもたらしていて、本作には魅力を覚えました。

高速スキャットの軽やかさも、ブラジル人ならではで、
タチアーナ・パーラあたりが好きな人なら、たまらないはず。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-03-27
ファビオ・レアルのオーセンティックなスタイルのジャズ・ギターや、
アレシャンドリ・リベイロのクラリネットを多重録音した柔らかな木管の響きも
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-09-11
聴きどころとなっています。

Vanessa Moreno "EM MOVIMENTO" Vanessa Moreno VIM001 (2017)
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歌うドラムス エドゥ・リベイロ

Edu Ribeiro Na Calada Do Dia.jpg

渡辺貞夫のバンド・メンバーとして、先日来日していたエドゥ・リベイロの新作。
いまやサンパウロのジャズ・シーンで引っ張りだこのドラマーで、
ヤマンドゥ・コスタのバックで来日したこともありましたっけね。
あいかわらず貞夫さんの若手起用ぶりは、冴えてますねえ。

本作は、11年ぶりのリーダー作とのこと。
ペイパー・スリーヴ仕様のそっけない作りですけど、
中身は極上のブラジリアン・ジャズですよ。
アコーディオン、7弦ギター、トランペット、ベースに、
エドゥのドラムスという、変則クインテット編成で、
アコーディオンがギリェルミ・リベイロというのが、まず目を引きます。

ギリェルミ・リベイロといえば、
現在のサンパウロのジャズ・シーンを牽引するピアニスト。
おととしリリースされたソロ・アルバム“TEMPO” も秀逸でしたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-12-06
本作ではピアノではなく、アコーディオンに専念しています。

そして、トランペットはルデーリで活躍中のルビーニョ・アントゥネス。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-09-24
ルデーリではキレたソロを吹きまくっていましたけれど、
本作ではゆとりを感じさせるプレイを聞かせています。

7弦ギターのジアン・コレアにベースのブルーノ・ミゴット、
ゲストで加わるレア・フレイリのフルートという、
サンパウロの今をときめく実力派が揃っています。

そして主役のエドゥ・リベイロは、サンバやマラカトゥ、フレーヴォなど、
多彩なブラジルのリズムを繰り出し、その柔軟なプレイが、
サンパウロ新世代のコンテンポラリー・ジャズを輝かせます。

エドゥのポリリズミカルなドラミングは、
かなり手数が多いものの、実に軽妙で、スウィンギー。
ものすごいスピード感があるから、重ったるくならないし、うるさくもない。
複雑なリズムをすいすい乗りこなしていくさまは、
スペクタクル・ショーさながらです。

そしてまた、メロディックなドラミングも、エドゥの特徴ですね。
6曲目とアルバム・ラストのドラムス・ソロを、ぜひ聴いてみてください。
こんなにはっきりとメロディが聞き取れるドラムス・ソロは、そうそうないですよ。

Edu Ribeiro "NA CALADA DO DIA" Maritaca M1051 (2017)
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ポルトガルのカヴァキーニョ ジュリオ・ペレイラ

Júlio Pereira  CAVAQUINHO PT..jpg   Júlio Pereira  PRAÇA DO COMÉRCIO.jpg

ブラジルのカヴァキーニョの起源は、
ポルトガル移民が持ち込んだブラギーニョだというのが通説になっていますけれど、
どうやらこの説は不正確というか、ちょっと問題ありだということを知りました。
特に「ブラギーニョ」という固有名詞を使うのが問題で、
単に「小型弦楽器」としておけば良かったようなんですけれども。

そんなことが、ポルトガルのトラジソンからリリースされた、
マルチ弦楽器奏者ジュリオ・ペレイラの新作CDの解説に、詳しく書かれています。
100ページを超すポルトガル語・英語の解説が付いたこのCDブックには、
さまざまなタイプのカヴァキーニョや古楽器の写真も載っていて、
ちょっとした研究書といえますね。

ジュリオ・ペレイラは、13年にもトラジソンから同様のCDブックを出していて、
新作と一緒に買ってみたんですが、
こちらにもこの小型弦楽器の古楽器の写真が満載で、
楽器好きはたまらないCDブックとなっています。
タイトルを『ポルトガルのカヴァキーニョ』と謳うとおり、
ブラギーニョという名前は、いっさい出していないんですね。

インドネシアのクロンチョンやハワイのウクレレのルーツも、
ブラギーニャだと言われているんですが、それを伝えたポルトガル本国では、
ブラギーニャという名前は使われておらず、マシェーテと呼ばれているとのこと。
マシェーテは、ポルトガル北西部ミーニョ地方のブラガという町で
製作されたのが始まりで、そのマシェーテがマデイラ島で発達したことから、
ブラガで作られた楽器ということでブラギーニャと称するようになり、
マデイラ島出身のポルトガル移民がその名を伝えたようなんですね。

ところがポルトガルには、マシェーテとはまた別のタイプの小型弦楽器があり、
リスボンやコインブラでは、同じカヴァキーニョと呼ばれているのだから、ややこしい。
ジュリオ・ペレイラの13年作では、そんなさまざまなポルトガルのカヴァキーニョに加え、
ブラジルそしてカーボ・ヴェルデのカヴァキーニョを演奏した内容となっています。

さきほどのマシェーテの起源については、さらに奥深くて、
ミーニョ地方に伝わったのはガリシア人によるものという説があり、
古代ガリシアのギリシャの影響もあるとも考えられているようで、
要するに、このポルトガルの楽器の起源は、はっきりしないということなんですね。

クラウス・シュライナー著『ブラジル音楽のすばらしい世界』や、
田中勝則著『インドネシア音楽の本』には、マシェーテのことがきちんと記されているのに、
なんでいつのまにかブラギーニャ起源説が通説になったんでしょうか。

とまあ、この2作の解説を拾い読み(すみません、ちゃんと読み込んでなくて)して、
この記事を書いてるわけなんですが、
ジュリア・ペレイラは81年に『カヴァキーニョ』というタイトルのアルバムを出していて、
この2作はその続編、続々編なんですね。
演奏内容の方は、研究発表のようなオカタイものではなく、
ポルトガル各地の民謡、ファド、モルナ、バイオーンを取り入れたオリジナル曲に、
ガリシア民謡やブラジルの伝承曲などを爽やかに演奏しています。

Júlio Pereira "CAVAQUINHO PT." Tradisom TRAD081 (2013)
Júlio Pereira "PRAÇA DO COMÉRCIO" Tradisom TRAD105 (2017)
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トランプが来た夜のファド アンドレー・ヴァス

20171105_André Vaz.jpg

ファドの新世代歌手では、ジョアン・アメンドエイラのように、
伝統ファドのスタイルをしっかりと保っている歌い手が好きです。
ファドのように歴史の古い、きっちりとした型のある音楽は、
変にモダン化したり、他の音楽をミックスしても、
結局のところ、旧来のファドが持つ魅力以上のものを打ち出すのは、
難しいと思っているもんで、これって、フラメンコも同じですよね。

新しい試みに挑戦するミュージシャンシップを否定するつもりはありませんが、
そうした試みより、伝統ファドの型を習得して歌える人の方が好ましく、
ファドに関しては、ぼくはゴリゴリの保守派です。
そんなわけで、最近のファドふうに歌ったポップ曲って、
どうにも気持ち悪くって、聞けないんですよね。
人気絶賛のアントニオ・ザンブージョも、ぼくにはファド歌手に聞こえません。

古典ファドをしっかりと歌いこなせるのは、
ジョアン・アメンドエイラやカチア・ゲレイロといった女性歌手ばかりで、
男性歌手はさっぱり見当たらないと、長年ぼやいてたんですが、
ようやく出てきましたよ、ぼく好みの人が。
それが、83年生まれという、アンドレー・ヴァス。

ライスから出たデビュー作を聴いて、すっかりファンになっていたところ、
なんと来日するというのだから、嬉しいじゃないですか。
しかも、本場カーザ・デ・ファド(ファド・ハウス)・スタイルの
ポルトガル料理店でのライヴがあるというので、
すぐさま予約しましたよ。11月5日夜の部。
結婚記念日の前祝いにかこつけて、家人と一緒に観てきました。

当日の夜、地下鉄の日比谷駅から地上に出たら、ものすごい数の警察官に仰天。
出口すぐの帝国ホテル脇道の道路が封鎖され、厳戒態勢のただならぬ緊張感で、
あ、そうか、トランプが来てるんだっけと、気づきました。
居並ぶ警察官の脇をすり抜けて、ヴィラモウラ銀座本店へ。
トランプはうかい亭だったんだってね。すごい日にぶつかっちゃったもんだ。

ライヴは20分のステージが3回。合間に運ばれる料理を愉しみながらという、
本場カーザ・デ・ファドさながらのスタイルで、いやあ、いい夜でした。
マイクなしの生声で、オーソドックスなスタイルのファドを、たっぷり歌ってくれましたよ。
旋律の上がり下がりが大きな古典ファドの難曲もさらりと歌いこなし、
打ち合わせのない曲も、その場の雰囲気でどんどん歌ってしまうところは、
現場で鍛えられたホンモノのファド歌手の証し。

20171105_André Vaz @Ginza 01.jpg

デビュー作の曲をほとんど歌わなかったのも、豊富なレパートリーの表れで、
むしろCDデビューが遅すぎたんですね。
9歳にしてリスボン最大のファド・コンクール、
グランデ・ノイテ・ド・ファドの決勝に出場したというのだから、
キャリアは十分すぎるほどの人です。

ケレンのない歌いぶりがすがすがしく、
麗しい歌声にはほんのりとした色気もあって、胸に沁みます。
カルロス・ラモスの“Canto O Fado” のコーラス・パートを客席に歌わせたり、
マルシャを歌ってくれたのも嬉しかったな。
ギターラの演奏を披露するという、珍しい場面もありました。
ギターラを人前で弾いたのは、今回の日本が初めてだそうで、
下を向きっぱなしで弾く、いかにも慣れない姿でしたが、
伴奏の月本一史と、即興のインタープレイを繰り広げたのは、なかなかの腕前でしたよ。

20171105_André Vaz @Ginza  02.jpg

ファドのライヴというと、変わったロケーションで観た思い出がいくつかあり、
まだ無名のミージアが93年に来日した時は、
なんとホテルオークラのディナー・ショウ(!)だったというのが、一番の変わり種。
今回は、アメリカ大統領の訪日とぶつかり、
店の外がものものしい厳戒態勢だったという、
レアな思い出が加わったのでした。

André Vaz "FADO" Todos Os Direitos Reservados 0530-2 (2016)
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トゥアレグのガールズ・グループ レ・フィーユ・ド・イリガダッド

Les Filles De Illighadad.jpg

ムドゥ・モクタールに続くサヘル・サウンズの新作は、
「イリガダッドの女の子たち」を名乗るニジェールの女性3人組。
イリガダッドって、どこよと思って、グーグルさんに訊いてもわからず、
レーベルの説明によれば、ニジェール中央部のサハラ砂漠の縁にある、
小さな沼地の村とのこと。地図にも載っていない場所で、
もちろん電気も水道もない、トゥアレグの野営地なんでしょうね。

そんなまさしく辺境の地から、イシュマール・スタイルと呼ばれる
エレクトリック・ギターを弾く女性が登場したのだから、たいへんです。
これまで、イシュマール・スタイルのギターといえば、
ティナリウェンやトゥーマストに代表されるとおり、男性ゲリラ兵を象徴する楽器でした。
一方、トゥアレグ女性の音楽といえば、伝統的なティンデを
太鼓(ティンデ)と手拍子で歌うのが、長年の習わしだったのだから、
女性ギタリストが登場したのは、事件といっていいでしょう。

リーダーのギタリスト、ファトゥ・セイディ・ガリは、
ニジェールでワン・アンド・オンリーのトゥアレグ人女性ギタリストだそうで、
ニジェールどころか、マリやアルジェリアにだって、
女性ギタリストなんていないんじゃないかなあ。
ファトゥ・セイディ・ガリは、トゥアレグ女性初のギタリストなんじゃないですかね。

兄が持ってきた、古びた青いアクースティック・ギターを独学で覚えたという
ファトゥ・セイディ・ガリは、従姉妹の歌い手アラムヌ・アクルニとともに、
レ・フィーユ・ド・イリガダッドを結成し、ティンデにイシュマールのギターを取り入れた
独自の音楽を始めたとのこと。ニジェールのトゥアレグ・バンドの先達である
エトラン・フィナタワを範として、彼らの曲を、多くカヴァーしてきたそうです。
今作ではもう一人の従姉妹マリアマ・サラ・アスワンも加わっています。

これまでも、ティナリウェンやタルティットなどの男性バンドで、
女性コーラスが花を添えることはあっても、
女性がメインのガールズ・グループなのだから、華やかさが違います。
太鼓と手拍子を叩きながら、コーラスやウルレーション(喉声)で囃す
ティンデに絡むギターがなんとも妙味ですね。
シンプルな反復による曲など、いかにもトゥアレグの野営で歌われる
祝い歌を聴くようで、その素朴さにやられます。
現在3人はヨーロッパをツアー中です。

最後に苦言を。
サヘル・サウンズのCDは、毎度のことなんですが、
曲名しか載せないというのは、どういう制作態度なんですかね。
バンドキャンプに載っているテキストぐらい、ジャケットに印刷しておけばいいものを、
メンバーの名前や担当楽器という、最低限の基礎情報すら載せないっていうのは、
音楽家に対して、あまりに礼儀を欠いていませんかね。
レーベル主宰者でプロデューサーのクリストファー・カークリーに、
今度フェイスブックのメッセージで、文句言っとこう。

Les Filles De Illighadad "EGHASS MALAN" Sahel Sounds SS044 (2017)
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ナス・エル・ギワンのフォロワー ナス・エル・ハル

Nass El Hal  QUAND COMPRENDRAS TU.jpg

うわあ、ナス・エル・ギワンのフォロワーかあ。
やっぱり、いるんだなあ、モロッコには。いや、いなけりゃ、オカシイよね。

すみません、いきなり。何の話だか、わかりませんね、これじゃ。
モロッコのマラケシュで86年に結成されたという、
ナス・エル・ハルのCDを聴いて、感じ入っちゃったもんで。

はじめに名前を出したナス・エル・ギワンは、60年代末にカサブランカで結成され、
70年代に若者から圧倒的な支持を得て、
「モロッコのローリング・ストーンズ」とみなされ、文化的アイコンとなったバンドです。
メンバーを替えながら、現在も活動を続けていて、
モロッコで圧倒的な影響力を誇るバンドなのに、
フォロワーが現れないのを、不思議に思っていたんですよね。

でも、やっぱりいたんですね、フォロワーというか、チルドレン的存在のバンドが。
モロッコ現地ではCDを出しているのかもしれませんが、
国外に出回ることがないので、彼らのような存在をキャッチすることができません。
今回ヴァンサン・ドルレアンのレーベル、
サン・コモンテールからCDを出してくれたので、ようやく出会えました。

ナス・エル・ハルは、ナス・エル・ギワン同様の5人組で、
編成もバンジョー×2、ゲンブリ、ベンディール、パーカッションと同じ。
オール・アクースティックでエレクトリック不在、
ドラムス、ベースもいないのに、すごくロックぽく聞こえるから不思議です。
ベンディールがドラムス、ゲンブリがベースの役割を果たして、
ロック・バンドと変わらないグルーヴをはじき出すんだから、たまりません。
メンバー全員が歌い、5人とも味のある声の持ち主揃いで、
歌いぶりもきりっとしていて、胸をすきます。

ナス・エル・ギワンのいいところを全部引き継いでいるバンド、
ナス・エル・ハル、気に入りました。

Nass El Hal "QUAND COMPRENDRAS TU?" Sans Commentaire SC05 (2017)
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キュートなマンデ・スウィング カンジャファ

Kandiafa  MALI COUNTRY.jpg

ンゴニでジプシー・スウィングを演奏するという、
ユニークすぎるマリの若手音楽家、カンジャファのフル・アルバムがリリースされました。
昨年出たデビューEPで、この若き才能におったまげたんですが、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-12-12
その後、カンジャファは若手天才プレイヤーとして、
マリで注目を集める存在であることを知りました。

カンジャファは、多くのグリオを輩出するマリ西部カイのグリオ一門の出身。
カイといえばカソンケ人が多く暮らす地方なので、
カンジャファもカソンケなのかもしれません。
ただし、グリオとしての修養はカイではなく、マリの首都バマコで受けたようです。

グリオとして一本立ちしてからは、ソンガイ人歌手シディ・トゥーレに見出されて、
アメリカやヨーロッパ・ツアーに帯同し、アメリカやカナダではカントリー音楽に感化され、
フランスで出会ったジプシー・スウィングが、彼に決定的な影響を与えたようです。
以前から、海外の音楽に惹かれていたカンジャファは、
アラブ音楽やフラメンコなども勉強していて、好奇心旺盛だったんですね。

ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリに感化されたグリオなんて、
彼が初というか、アフリカ人の音楽家初なんじゃないかしらん。
デビューEPの2曲含む計14曲のこのアルバムでは、
ジプシー・スウィングばかりでなく、
アメリカのカントリーやアラブ音楽に影響されたトラックなど、
カンジャファが吸収してきた音楽性が素直に発揮されていて楽しめます。

「バンジョーのようにンゴニをプレイする」「ウードのようにンゴニをプレイする」と
副題の付いたトラックに聞かれるとおり、バセク・クヤテやマカン・トゥンカラたちが
切り拓いて来たンゴニの可能性を、
カンジャファもまた新たなアプローチで試みているんですね。

コード弾きはばんばんするし、ロックやブルースから借りてきたフレーズも披露するし、
アブ・シというンゴニ奏者とのンゴニ二重奏では、
あの手この手のテクニックを見せつけてくれますが、
そんなトリッキーなプレイでも、ぜんぜんイヤミな感じを与えないのは、
カンジャファが弾くンゴニのタッチに、<ゆるぎない美しさ>があるからです。

ンゴニをこれほどキリリと響かせるのは、ピッキング/フィンガリングの正確さ、
タッチの的確さの賜物で、そこが若き天才と呼ばれる由縁でしょうね。
そして、ぼくがなによりカンジャファを支持したいのは、
彼の音楽がキュートだからなのでした。
マンデ・ポップをこんなにカワイク♡演奏した人を、ぼくは他に知りません。

Kandiafa "MALI COUNTRY" Sans Commentaire SC04 (2017)
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マリファナをキメて気持ちよくなるジュジュ J・O・アラバ

J.O. Araba.jpg

「12歳の時からコレクター」を豪語するフェミ・エショが社長を務める、
ナイジェリアのエヴァーグリーン・ミュージカル・カンパニー。
フェラ・クティの40枚組ボックスを筆頭に、ロイ・シカゴ、アデオル・アキンサニャ、
ヴィクター・オライヤ、アインデ・バカレ、E・T・メンサー、ブラック・ビーツなど、
ナイジェリアやガーナのレジェンドたちを、フェミ個人蔵の音源から、
続々ボックスCD化している会社です。

十年以上前に、知り合いのナイジェリア人から直接買い付けてもらって、
あらかたエヴァーグリーンのカタログは入手したものの、
その後のリリースで、入手しないままのものがいくつかあったんですね。
そのうち手に入れなきゃと思いながら、すっかり記憶の彼方になっていたんですが、
エル・スールの原田さんがまとめてエヴァーグリーンのカタログを発注するというので、
これ幸いとオーダーをお願いしました。
ボックスものは年末に入荷するということで、先に届いたのが、1枚もののJ・O・アラバ。

よほどナイジェリア音楽に詳しい人でないと、J・O・アラバを知る人はいないでしょうが
(オーダーしたのはぼくと深沢さんの二人だけだったらしく、
原田さんも、J・O・アラバ、誰それ?と思ってたとのこと)、
50~60年代に一風変わったジュジュのスタイルで人気を呼んだ重要人物なんですよ。

第二次世界大戦後のジュジュ・シーンというと、
電化によってアンサンブルが大型化したアインデ・バカレから、
I・K・ダイロ、トゥンデ・ナイチンゲールを経て、
エベネザー・オベイ、サニー・アデへと続くのが、
いわばジュジュの本流であったわけですけれど、
J・O・アラバは、そうした本流から外れたタイプのミュージシャンでした。
そんなJ・O・アラバに憧れたのが修行時代の若き日のフェラ・クティで、
クーラ・ロビトス時代には、“Araba's Delight” という曲を録音しているほどです。

50年代のジュジュといえば、トーキング・ドラムを中心とした打楽器アンサンブルに、
コーラスが導入されてコール・アンド・レスポンスをするなど、
ヨルバ化とモダン化が同時に進んだ時代でした。
しかし、J・O・アラバはそんな流行に背を向け、
雑食性溢れるパームワイン音楽の香りが残る、30年代のトゥンデ・キング時代の
少人数による、昔ながらのジュジュをリヴァイヴァルしたのでした。

J・O・アラバことジュリウス・オレドラ・アラバは、22年5月24日レゴス生まれ。
ライト級のボクサーとしてタイトルを獲り、「スピーディ」の異名を取ったあと、
ナイジェリア鉄道で技能工として働いていたところ、同僚で9つ年上の先輩の
ジョセフ・オランレワジュ・オイェシク(J・O・オイェシク)と出会い、
二人で「トイ・モーション」というスタイルのジュジュを作り出したのです。

トイ・モーションは、いわば労務者クラスのノスタルジーといえるもので、
当時のジュジュですでにデフォルトとなっていたトーキング・ドラムを使わず、
西洋式のパレード・ドラム(サイド・ドラム)やアギディボを取り入れた、
より庶民的で下町感覚に富んだジュジュでした。
トイとはマリファナの隠語で、要するに、
「マリファナをキメて、気持ちよくなる」という意味だったんですね。

J・O・オイェシクはレインボー・クインテット、
J・O・アラバはリズム・ブルースを率いて、
それぞれグッド・オールド・デイズなトイ・モーションを売り出していたところに、
ナイジェリア放送局の大物DJスティーヴ・ローズに認められ、
57年にフィリップスへのレコーディングを果たしました。

J・O・アラバ率いるリズム・ブルースには、アギディボにファタイ・ローリング・ダラー、
サイド・ドラムにオラセニ・テジュソが在籍していました。
ファタイ・ローリング・ダラーについては、以前ここで書いたことがありますが、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-11-08
オラセニ(セニ)・テジュソは、J・O・アラバ時代のレパートリーを再演した初アルバムを
81歳でリリースして、ちょっとした話題になりました。

Seni Tejuoso.jpg

タイトル曲の“Easy Motion Tourist” は、セニのシグニチャー・ソングとなった代表曲で、
J・O・アラバが歌ったオリジナル・ヴァージョンは本作に収録されているほか、
ファタイ・ローリング・ダラーも復帰作の“RETURNS” で取り上げたほか、
キング・サニー・アデも98年の“ODÙ” でカヴァーしていました。

エヴァーグリーンが復刻した50代末から60年代初めの全盛期録音15曲
(クレジットは14曲のみで、あいかわらずのナイジェリア流のテキトー仕事)の中には、
マンドリンとカズーをフィーチャーしたJ・O・オイェシク名義録音の3曲も入っていて、
そのうちの1曲“Yabonsa” は、パームワイン古典の“Yaa Amponsah” のカヴァーです。

DVD Konkombe.jpg最後になりますが、
ナイジェリア音楽ドキュメンタリー
“KONKOMBE” で、晩年のJ・O・アラバを
観ることができるのをご存じでしょうか。
つい最近、“KONKOMBE” から抜粋された
フェラ・クティのリハーサル・シーンに、
「初めて見た」と興奮していた
往年のファンもいたくらいなので、
J・O・アラバのシーンなんて、
誰も記憶していないかもしれませんが、
かの名ヴィデオはDVD化もされたので、
ソフトが手元にある方は、ぜひ見直してみてください。

J. O. Araba
"WORKS OF THE LEGENDARY J.O. ARABA"
The Evergreen Musical Company no number
Seni Tejuoso "EASY MOTION TOURIST" Jazzhole JAH011CD (2010)
[DVD] King Sunny Ade, I.K. Dairo, J.O. Araba, Kokoro, Fela Anikulapo-Kuti, Lijadu Sisters, Area Scatter and others
"KONKOMBE : THE NIGERIAN POP MUSIC SCENE" Shanachie 1201
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アフリカン・ラップ最前線 ジョーイ・ル・ソルダ

Joey Le Soldat  Barka.jpg

ブルキナ・ファソがラップで盛り上がっているらしいというウワサを聞きつけ、
人気沸騰のアート・メロディはじめ、ブルキナベ・ラッパーの一人として、
ジョーイ・ル・ソルダをこの春初めて聴いたわけなんですが、
どうやらこの人の才能は、こちらの想像をはるかに超えていたようです。

ジャズ名盤のデザインを借用したアートワークが秀逸な14年作も、
アフリカン・ラップとして水準以上のアルバムでしたけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-03-08
届いたばかりの新作が、独自の個性をくっきりと示していて、いや~、スゴイ。

まず、バックトラックの説得力が、2倍増ししましたね。
トラックメイカーは14年作同様、レッドラムとDJフォームの二人ですけれど、
前作のプロデュースはDJフォームだったのが、今回はトラックメイクを担当した曲を
それぞれがプロデュース。とりわけ惹かれたのが、レッドラムのトラックメイクです。

バラフォンをフィーチャーした“De la lutte qui libère”、
ガムランのような響きのトラックにラガで迫った“Goomdé”、
アクースティックなマンデ・ポップをサンプルに、
ギネアの女性ラッパー、アニー・カシーと共演した“Tirailleurs”。
ほかにも、ベンベヤ・ジャズ・ナシオナルや
ヴォルタ・ジャズからサンプルを取っているほか、
ラルフ・マクドナルドの名盤“THE PATH” のA面タイトル組曲を大幅に使用して、
シンドラムを使ったイントロから、中盤のコーラスが加わるパートなど、
あの組曲のもっとも印象的な場面をいいとこどりした“Travell” には脱帽。

欧米の流行を周回遅れで取り入れるような時代を脱して、
アフリカの身体感覚を発揮したビートメイクに自覚的となったこと、
そして、過去の豊かな音楽遺産にも目を向けるようになったってことが、
嬉しいじゃないの。
アフリカン・ラップが、ついにヒップホップ・シーンの最前線に躍り出てきたぞっていう、
そういう手ごたえのあるアルバムですよ。

バックトラックのことばかり先にいっちゃいましたけど、
ジョーイのごついフロウが、とにかく個性的なんだわ。
14年作を聴いた時、もっとこのファットな声を生かす
バックトラックが欲しいと思っただけに、今回は大満足です。

ジョーイは、今年の春フランス、スペイン、オランダ、ベルギーをツアーして成功を収め、
現在もヨーロッパを回っていて、
スイスでは南アのスポーク・マサンボと共演を果たしたもよう。
アフリカン・ヒップホップの才能ある者同士、ちゃんとつながってますね。

ちなみに、ジャケット内のジョーイの写真の撮影クレジットには、
フローラン・マッツォレーニの名がありましたよ。活躍してますねえ。

Joey Le Soldat "BARKA" Tentacule no number (2017)
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ターボ・フォークの痛快作 ダーラ・ブバマラ

Dara Bubamara.jpg

セルビア、ターボ・フォークの美人巨乳歌手、ターラ・ブバマラの新作。
しばらくアルバムが出ていませんでしたが、前線復帰作でしょうか。
毎度おなじみ、豊胸したバストを強調した写真が、ライナーにはたんまり。
セルビアの男どもを、さぞ喜ばせているんでしょうね。

76年生まれなので、すでに四十代ですか。
野性味たっぷり、艶やかさをあわせもつ姐御肌のエネルギッシュなヴォーカルは、
相変わらず胸をすく爽快さで、円熟味を増して
彼女のキャリア最高の境地を示しているんじゃないでしょうか。
ベタつかない切れ味、男前な歌いっぷりは、
南欧らしい乾いた情感を伝える、このジャンルならではの良さを示します

いわゆるウチコミ系ダンス・ポップスですけれど、
EDMではなく、ファンク味のあるアレンジが、ぼく好みなんですよね。
ターボ・フォークの醍醐味、バルカン・ブラスが活躍する曲ももちろんあり、
ジプシー・ルンバのリズムも巧みに取り入れています。
ほとんどの作曲とアレンジを手がけるデジャン・コスティッチ、才人ですね。
手を変え品を変えのアレンジで、さまざまな曲調を料理しながら、
骨太のグルーヴでアルバム全体を貫く手腕が鮮やかです。

ギンギンのロック・アレンジも、ある意味、見事に様式化したもので、
いわゆるお約束な楽しみが、聴き手の期待を裏切らないというか、
ポップスのあるべき姿みたいなプロダクションを作る人ですね。
以前夢中になった、ポップ・モーラムのインリー・シーチュムポンを思い出します。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-11-19

本篇10曲、ボーナス・トラック7曲付きという過剰サービス盤ながら、
「ムダに長い」などの不満を抱かせない、ターボ・フォークの痛快作です。

Dara Bubamara "2017" City CD001141 (2017)
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ペルーのソングライター アンドレス・ソト

Andrés Soto  EL BRIBÓN.jpg

去る7月7日に68歳でこの世を去った、
ペルーのヴェテラン・シンガー・ソングライター、アンドレス・ソトの14年作。
長くステージやレコーディングから離れていたため、
復帰作として歓迎されたアルバムだったにもかかわらず、
これが遺作となってしまったようです。

本作はアンドレス・ソトの代表曲“Negra Presuntuosa” “El Tamalito”
“Quisiera Ser Caramelo” “El Membrillito” などに、
新たに書き下ろした曲を、若手ミュージシャンをバックに歌っています。
ピアノ、ヴァイオリン、サックス兼クラリネット兼フルート、ギター、
ベース、カホンに女性コーラスという編成で、
クリオージョやアフロペルーを取り入れた
ペルービアン・ジャズの洗練されたサウンドを聞かせます。

ウィキペディアによれば、
チャブーカ・グランダやノーベル賞作家のバルガス・リョサから賞賛されたとのことで、
エバ・アイジョンやスサーナ・バカ、タニア・リベルタ、フリエ・フレウンドなど、
多くの歌手が彼の作品を歌っているんですね。

ちょっとキューバのヌエバ・トローバのペルー版みたいな立ち位置の人で、
歌はうまくないし、その歌い口も、正直、ぼくの苦手なタイプではあります。
不安定な歌いぶりの“Camina Negro Trabaja” など、一瞬耳を覆っちゃいました。
やはり歌手ではなく、作曲家の人ですね。
それでもバックのセンスのいいサウンドに、全体を通して抵抗感なく聴き通せます。
ヴァイオリンの艶やかな響きが、すごくいいアクセントになっています。

ブルース・ロック調にアレンジしたタイトル曲の“El Bribón” など、
この人らしい面白い仕上がりですね。
個性的な作風をもつアンドレス・ソトのソングライターとしての良さを引き出した一枚です。

Andrés Soto "EL BRIBÓN" Liliana Schiantarelli Producciones no number (2014)
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ジャジー・ヨルバ・ポップ アデデジ

Adédèjì  ÀJÒ.jpg   Adédèjì  AFREEKANISM.jpg

こりゃまたスゴイ才能が、ナイジェリアから出てきたなあ。

洗練されたサウンドは、ジャジーでポップ。
そのくせメロディは、めちゃくちゃヨルバ臭いという、得難い個性。
ヨルバ版ラウル・ミドンといったら、一番わかりやすいかな。
本格的なジャズ・ギターも聞かせる才人なのであります。
12年のデビュー作を聴いて、こんな人がいたとは仰天。ずっと気付かず、ごめんなさい。

去年ティワ・サヴェイジとダレイにやられて、
ヨルバ音楽の未来は、もうジュジュやフジなんかじゃなく、
ナイジャ・ポップこそにあると確信したばかりのところに、
アデデジを知って、その波は確実に大きくなってきたのを実感します。
といっても、ナイジャ・ポップにはR&Bやヒップホップの単なる焼き直しも多いので、
その中に、どれだけヨルバなりイボなりの民俗性を発揮しているかがポイント。
欧米でヒットしたから注目するとかじゃなくて、自分の耳で聞こうよ、みんな。

その意味でアデデジは、ティワ・サヴェイジやダレイ以上に、ヨルバ色濃厚。
“Night And Day” のメロディを借用した“Odun Ayabo” のセンスに脱帽です。
アメリカン・スタンダードのメロディと、ヨルバ独特のメロディが入り混じり、
英語とヨルバ語で入れ替わりで歌うという、面白いトラックです。
「ナイジャポップ」ならぬ“Naijazz” とキメた曲では、
ギター・ソロとユニゾンでスキャットするジョージ・ベンソンばりのプレイを披露。

アーバンなジャジー・ソウルの“Jojolo” では、
トーキング・ドラムをバックにコーラスのレスポンスがインタールードで差し挟まれたり、
リオーネル・エルケをフィーチャーしたハイライフ・ナンバーまでありますよ。
途中、コーラスとコール・アンド・レスポンスをするパートのメロディは、
ハイライフではなく、完全にジュジュですね。

今年になってリリースされた、2作目にあたる2枚組新作は、
デビュー作の取組みを、さらに深化させたものとなっています。
ディスク1は、トーキング・ドラムの乱打で始まる
エドゥマレ(全能の神オロドゥマレ)賛歌でスタート。
2曲目の“IBA” は、アクースティック・ギターを核に、トーキング・ドラムほかの
パーカッション・アンサンブルが活躍するオーガニックなサウンドのジュジュ。
編成こそ40年代の電化前のジュジュだけど、このセンスは新しい。
ニュー・ソウルを通過した若者ならではのセンスだね、まいったなあ。

“Iyawo Ori Aja” は、オーランド・ジュリウスをゲストに迎えた本格的なハイライフ。
トーキング・ドラムのドラム・ランゲージを、
カリンバで演奏するアイディアには、脱帽。こういうセンスに、この人の才能が光ります。
アフロ・ファンクの“If You Don't Like To Funk (IYDL2Funk)” では、ウルマーよろしく
♪Jazz is the teacher, funk is the preacher ♪ なんて歌ってます。
アルバム・ラストも、トーキング・ドラムを中心とする
パーカッション・アンサンブルをバックに歌うコール・アンド・レスポンスで、
クールに締めくくっています。

ディスク2の聴きどころは、4曲目の“Ija Ominira” でしょう。
アフロビートをジャズ化したようなアフロ・ファンク・ジャズで、
フェラ・クティのナレーションをコラージュし、
ギターを弾き倒しているアデデジのソロが白眉。
さらに5曲目“Felasophy” でも生前のフェラのインタヴューをバックに流しながら、
アデデジはオーソドックスなスタイルのジャズ・ギター・ソロを披露しています。

演奏力の高さ、アレンジの緻密さは、ナイジェリアのミュージシャン随一といえ、
これほどジャズ・センスのある人は、初めてじゃないですかね。
今すぐブルーノートで公演したって、ぜんぜん不思議じゃありません。
ロンドンとオランダのカレッジでジャズを学んだ経歴を持ち、
ジョージ・ベンソン、ウェス・モンゴメリー、チャーリー・パーカー、サニー・アデ、
フェラ・クティの影響を受けたという音楽性をそのままに発揮しているアデデジは、
ギリシャのアテネにも活動拠点を置き、
ヨーロッパとナイジェリアを行き来しながら、活動中です。

Adédèjì "ÀJÒ" no label no number (2012)
Adédèjì "AFREEKANISM" Dejafrique Music no number (2017)
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おばあちゃん子のヌーラ・ミント・セイマリ

Noura Mint Seymali_Tzenni.jpg   Noura Mint Seymali_Arbina.jpg

この夏来日した、モーリタニアの女性グリオ、ヌーラ・ミント・セイマリに取材して、
ムーア音楽の旋法体系を、大づかみながら理解できたのは、大収穫でした。

これまでムーアのグリオの古典的名盤であるオコラ盤の解説や、
ポール・コラール/ユルゲン・エルスナー著『人間と音楽の歴史 北アフリカ』などで、
ムーア音楽の旋法の基礎知識はあったものの、
資料ごとに内容が違っていたり、いまひとつピンとこないところもあったんですよね。
ヌーラの説明を聞いて、それまで漠然としか理解できなかったものが、
ようやくなるほどと腑に落ちたのでした。

ヌーラが語ってくれたムーア音楽の旋法体系については、
今月号の『ミュージック・マガジン』のインタヴュー記事をお読みいただくとして、
この時の取材で面白かったのが、ヌーラのおばあちゃん子ぶり。

ヌーラのインターナショナル・デビュー作“TZENNI” のジャケットで
意外に感じたのが、世界的に有名な継母のディミ・ミント・アッバの写真を載せず、
父親のセイマリ・ウルド・アフメド・ヴァルと祖母のムニナの写真を載せていたことでした。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-09-26

ディミ・ミント・アッバの威光を借りるのを、よしとしないからなのか、
インタヴューでもディミについて言葉少なだったのに比べ、
父と祖母については、たくさんの思い出を喋ってくれました。

Musique Maure.jpg

なかでも、祖母ムニナへの敬愛は相当なもので、
取材に持参したレコードと写真集が、ちょっとした騒ぎになりました。
レコードは先に挙げたオコラ盤LPで、
A面2曲目に収録されている女グリオの Mouninna は、
ヌーラの祖母ではないかと思ってヌーラに示したところ、大当たり。

先日出たばかりのシャルル・ドゥヴェル写真集にも、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-07-14
ムニナの別のショットがあったので、それも一緒に見せると、
ヌーラばかりでなく、同席していたギタリストのご主人ジェイシュ・ウルド・シガリ、
ドラマーのマシュー・ティナリ3人とも身を乗り出して、大興奮。
めいめいがスマホを取り出し、写真を撮りまくり、取材が中断してしまいました。

LP Photo Book Mounina.jpg

3人とも、ムニナの写真もレコードも初めて見たとのことで、むしろぼくの方がびっくり。
これまでヨーロッパやアメリカでさんざん取材を受けているだろうに、
このムーア音楽の名盤LPをヌーラに見せた人は、誰もいなかったのか。
まさか日本で祖母の写真を見るとはと、ヌーラは感無量そうでしたけれど、
これほどのリアクションは予想外で、重たい写真集を持っていった甲斐がありましたよ。

“TZENNI” に載っていたムニナの写真は、サングラスをかけていて
顔がよくわかりませんでしたけれど、オコラ盤のムニナの写真は、
ヌーラと顔立ちがそっくりなうえ、歌声まで似ているのだから、間違いようがありません。

ムニナはモーリタニアの紙幣にもなったという、
ドラマーのマシュー・ティナリの発言に、取材から帰って調べてみると、
なるほど旧1000ウギア札にアルディンを弾くムニナが描かれていて、
透かしにも、正面を向いたムニナの姿がデザインされていました。
ムニナは、モーリタニアを代表する名グリオとして、
ディミ・ミント・アッバ以上の存在だったんですね。

Banque Centrale de Mauritanie, 1000 ouguiya.jpg

シャルル・ドゥヴェルがモーリタニアでフィールド録音した音源は、
のちにプロフェット・シリーズから、CD3タイトルでリリースされましたけれど、
残念ながらムニナの録音はCDに収録されず、未CD化です。
オコラ盤LPも現在では入手が難しくなっていまいましたが、
ムニナの吟唱“Vagho” は、Youtube で視聴可能です。
ちなみに、Vagho は曲のタイトルではなく、「ヴァフォ」というモードの名称で、
オコラ盤LPの曲タイトルは、すべてモード名になっていました。

Si Daty et Mounina_MB1415.jpg   Si Daty et Mounina_MB1419.jpg

取材を終えてひと月後、偶然にも、ムニナのレコードを2枚見つけました。
入手したのは、モロッコのブシフォンから出たEPで、
調べてみると、ブシフォンからは以下のLP5枚も出ているんですね。
KAR MTAMASS (MB19)
FAKO TAMAJOUGA (MB20)
LAKHAL (MB21)
LABYAD AKOURASS (MB22)
LABTAYT AADAL (MB23)
LPはカヴァーなしのいわゆる白ジャケですが、EPにはスリーヴが付いていました。

Noura Mint Seymali "TZENNI" Glitterbeat GBCD016 (2014)
Noura Mint Seymali "ARBINA" Glitterbeat GBCD038 (2016)
[LP] Sidi Ahmed El Bakay Ould Awa, Mouninna, Ahmedou Ould Meïddah, Les Griots De L’Emir Du Tagant "MUSIQUE MAURE" Ocora OCR28
[EP] Si Daty et Mounina "INALI MAOULANE KARIMANE / YA OUGUI" Boussiphone MB1415 (1966)
[EP] Si Daty et Mounina "IDA HAKA" Boussiphone MB1419 (1966)
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アソウフが映す乾いた情感 ムドゥ・モクタール

Mdou Moctar  SOUSOUME TAMACHEK.jpg

珍しくサヘル・サウンズの新作が、CDリリースされました。
このレーベルはデジタル配信と限定アナログのリリースがメインで、
めったにフィジカルを出さないので、ひさしぶりです。
マリのトゥアレグ人バンド、アマナール以来じゃないかしらん。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-05-30

アマナールのCDはすでに入手不可能のようで、
本当にごく少量(100枚程度?)しか生産していないんでしょうね。
サヘル・サウンズのCDは、リリース直後に買わないと、
すぐ売切れ御免になってしまうので、要注意であります。

リリースされたのは、ニジェールのアガデスを拠点に活動する、
トゥアレグ人ギタリスト、ムドゥ・モクタールのアルバム。
ニジェールのトゥアレグ人ギタリストというと、
ボンビーノが世界的に有名になりましたけれど、
ムドゥ・モクタールはボンビーノより8歳年下で、まだ30歳そこそこの若手。
左利きのギタリストです。

13年にサヘル・サウンズから配信とアナログでデビュー作を出し、
14年配信のみのセカンドをリリース、
15年ムドゥ主演の映画のサウンドトラック
(トゥアレグ版『パープル・レイン』!)を経て、
17年、3作目にして初CDリリース(配信・アナログもあり)と相成ったわけですね。

目元をぐわっとアップで捉えた白黒写真が印象的なジャケットは、
デビュー作のロー・ファイなトゥアレグ・ロックとも、
セカンドのドラム・マシーンやシンセを多用した、
チープなエレクトロ仕立てとも違う予感を、漂わせていますね。

つぶやくようなヴォーカルで内省的な歌を聞かせる、
アクースティック・ギターの弾き語りをベースに、
エレクトリック・ギターやカラバシ、コーラスも自身で多重録音した、
ムドゥ・モクタール完全独奏の渋いアルバムとなっています。
ドローンを奏でるリズム・ギターと、ひたすらループする
リード・ギターのフレーズに幻惑され、沈み込んでいくような トランスに誘われます。

ムドゥの声が軽やかなせいか、ディープな感覚は乏しいですが、
トゥアレグ独特の乾いた哀感が伝わってきて、胸に沁みます。
これがタマシェク語で郷愁、憧憬、思慕、切なさを意味する、<アソウフ>なのでしょう。
デザート・ブルースでよく目にする assouf というワードは、
<サウダージ>に相当するトゥアレグ音楽にとって重要なキーワードですね。
秋の宵に、ゆっくりと聴きたい一枚です。

Mdou Moctar "SOUSOUME TAMACHEK" Sahel Sounds SS043 (2017)
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ピアノ・トリオ+ビッグ・バンド フロネシス

Phronesis  THE BEHEMOTH.jpg

今年のジャズはヴィジェイ・アイヤーでキマリと、勝手に認定してますけど、
それにしても、こんなにジャズが面白くなるなんて、
ちょっと前には想像もつきませんでしたねえ。
ジャズ新作を買わなくなり、専門店からも足が遠のいていた時期が長かっただけに、
ひさしぶりに通い出すようになると、店の品揃えがガラッと変わっていて、
隔世の感というか、なんだかすごく新鮮です。

で、目下のお気に入りが、フロネシスというイギリスのピアノ・トリオ。
ピアノ・トリオといっても、
リーダーはデンマーク出身のベーシスト、イエスパー・ホイビーで、
イギリス人サックス奏者ジュリアン・アーギュロスの指揮・編曲による、
ドイツの名門フランクフルト・ラジオ・ビッグ・バンドとの共演作となっています。

ピアノ・トリオの演奏と、ビッグ・バンドのオーケストレーションを絡ませた編曲が絶妙で、
木管楽器を多用した厚みのある豊かな響きが、楽曲の魅力を引き立てています。
手数の多いアントン・イーガーのドラムスが、複雑なリズムをいとも軽やかに押し出し、
アイヴォ・ニームが紡ぐ込み入ったフレーズと絡み合って緊張感を生み出すところに、
ビッグ・バンドのハーモニーが雄大なサウンドスケープをもたらしていて、
いやあ、ぐっときますねえ。

息つかせぬ展開に汗握る場面など、ドラマティックなアレンジが効果的で、
現代的なビート・センスのピアノ・トリオが、カラフルなビッグ・バンド・サウンドを得て、
スケールの大きなサウンドを生み出しているんですね。
このピアノ・トリオの他のアルバムは聴いたことがないんですが、
ピアノ・トリオだけでは、このスケール感は出ないはずです。

ハード・ドライヴィングなインタープレイのあとに、抑制を利かせたオーケストラの
ハーモニーのパートをバランスよく配する構成には、降参というほかありません。

Phronesis "THE BEHEMOTH" Edition EDN1085 (2017)
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狂おしいレディ・ソウル ミズ・アイリーン・リネー

Ms Irene Renee  UBIQUITOUS SOUL.jpg   Ms Irene Renee SERENDIPITOUS EXPERIENCE.jpg

ここのところネオ・ソウルぽいサウンドを耳にすることが多くて、妙な気分。
だって、ネオ・ソウル華やかりし頃には、あんまり興味を持てなかったもんだから。
サウンドには惹かれても、歌いぶりとか、声そのものがどうも苦手な歌手が多くて、
世間では大絶賛のシンガーにまったく反応できず、ほとんど素通りしてきただけに、
なんで今頃と、我ながら思ってマス。

で、また出会ってしまった1枚。
ニュー・ヨークで活動するシンガー、ミズ・アイリーン・リネーの2作目。
じっくりと歌うバラードでの、零れ落ちんばかりの情の深さにノックアウトされたのでした。
内に秘めた炎が、メラメラと燃えているのを感じさせるレディ・ソウル。
けっしてシャウトしないからこその狂おしさというか、
一語一語に託した思いが、ぐいぐいこちらに迫ってきて、ムネアツになりますよ。

こういうじわじわと迫るように歌う歌手は、
それこそレディ・ソウル盛んな70年代には珍しくありませんでしたけれど、
いまでは貴重な存在じゃないですかねえ。
『どこにでもあるソウル』なんて奥ゆかしいタイトルは、自信の裏返しなのか、
イマドキ、そんじょそこらにはないですよ。

すっかりこの新作にマイってしまい、
UK・ソウル・チャートでトップ10にランク・インしたという
デビュー作“SERENDIPITOUS EXPERIENCE” も聴いてみましたが、
アイリーンの歌いぶりは新作同様。本物の実力派シンガーですね。
ただし、プロダクションの完成度は、新作には及ばず。
それほどこの2作目は、歌・プロダクションともにパーフェクトです。

Ms Irene Renee "UBIQUITOUS SOUL" D.A.P. no number (2017)
Ms Irene Renee "SERENDIPITOUS EXPERIENCE" no label no number (2013)
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ブラジルのシャバダバ・コーラス エジガル・エ・オス・タイス

Edgar E Os Tais.jpg

祝CD化。

ジスコベルタスがやってくれました。
ブラジリアン・スキャットの名盤として、
その筋のファンから絶賛されていた、ジャズ・ボサ・ヴォーカル・グループ、
エジガル・エ・オス・タイスの70年RGE盤です。

ブラジルのレア・グルーヴとして、一時期とんでもない値段が付けられてましたけど、
今はそんな狂騒も過ぎ去って、落ち着いた頃でしょうか。
そんな頃にぽろっとCD化されるというのも、フツーの音楽ファンには喜ばしいこと。
ばかばかしい高額盤には手を伸ばさなかった賢明なみなさま、
安心して楽しみましょう。レア度だけで騒いでたDJは、どうせ買わないだろうから。

エジガルことアントニオ・エジガルジ・ジアヌーロは、職人肌のギタリスト。
64年にファルーピニャから出したギター・インスト盤(乞CD化)でデビューし、
本作からもわかるとおり、ギタリストである以上にアレンジの才能が豊かな人でした。

ホーン・セクションを贅沢に配し、管楽器のソロも交えながら、
スウィンギーな演奏を繰り広げているんですが、
これがよくアレンジされてるんですよねえ。
短いソロがどれもキマっていて、これ、全部書き譜なんじゃなかろうか。
エレピやオルガン、ギターも、ここぞというところに、きっちり顔を出すんだから、
もう憎ったらしいったら、ありゃしない。これぞプロのお仕事ですね。

そんな最高の伴奏にのって、キャッチーな男女混成コーラスがフィーチャーされ、
シャバダバな高速スキャットがのるんだから、もうたまりません。
セルジオ・メンデスが好きなポップス・ファン、ソフト・ロック好き、
幅広くポップス・ファンにオススメです。

Edgar E Os Tais "CANTÁRIDA" Discobertas DBSL011 (1970)
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ギネアのサップなギタリスト モー!クヤテ

Moh! Kouyate  LOUNDO.jpg   Moh! Kouyate  FE TOKI.jpg

秀逸なジャケット写真が印象的だったモー!クヤテの前作。
フランスのファッション誌から飛び出してきたようなデザインに、
ウェスタナイズしたアフリカ人モデルといった風情で写っているものだから、
さぞやフランス人受けをねらったサウンドかと思いきや、
これが直球のマンデ・ポップで、そのフレッシュさに頬がゆるんだのでありました。

モー!クヤテは、77年、ギネアの首都コナクリ生まれ。
クヤテ姓からわかるとおり、グリオの出身で、
セク・ベンベヤ・ジャバテやウスマン・クヤテなどギネアの名ギタリストに憧れる一方、
サンタナ、B・B・キング、ジャンゴ・ラインハルト、ベン・ハーパーなどの
ギター・テクニックを学んできたというギタリストです。
フランスに渡り、ファトゥマナ・ジャワラやバ・シソコの伴奏を務めたあと、
14年にデビューEPをリリースし、15年に初のフル・アルバム“LOUNDO” を出しました。

グリオ出身らしいマンデの伝統と、ロック、ブルース、ジャズから学んできた
ポップ・センスが無理なく同居していて、フランス人チェロ奏者ヴァンサン・セガールや
イギリス人歌手ピアーズ・ファッチーニとの共演曲もしっくりしていて、
マンデ・ポップのアイデンティティを何ひとつ損なうことなく、
グローバルに通用するポップスに仕上げているところが嬉しいアルバムでした。

ここには、世界的な成功を収めたアマドゥ&マリアムが見失ったものがありますね。
成功を収めて以来のアマドゥ&マリアムのアルバムは、
欧米のファンを意識して、ますますオーヴァー・プロデュースになっていて、
新作も、ヨーロッパ人好みのサウンドに装飾したプロダクションで、ヘキエキとしました。
そこへいくと、モー!クヤテのポップなプロダクションは、地に足がついています。

新作は、しなやかなサウンド・テクスチャーが光る、
洗練されたポップさに溢れたアルバムに仕上がっていて、前作を上回る出来。
ヒット性高そうな“Fankila” は、キャッチーなリフが本国ギネアでもウケそうだし、
ラストの哀愁味溢れるマンディングらしいスロー・ナンバーでは、
マカン・トゥンカラのンゴニ、セク・クヤテとモー!クヤテのギター二重奏が
織り成すアンサンブルに、カクシ味のように響かせたオルガンが妙味となっています。

しばらく聞かない間に、マンデ・ポップのサウンド・プロダクションも、
欧米サウンドへのアクセスの流儀がすっかり成熟したのを実感します。
モー!のファッションのサップールぶりにも、それが示されていますよね。
その自然体なモーの音楽に比べると、最新スタイルのサウンドへ擦り寄る
アマドゥ&マリアムは、あざとくすら聞こえてしまうなあ。

Moh! Kouyaté "LOUNDO (UN JOUR)" Foli Son Productions FOLISON811 (2015)
Moh! Kouyaté "FÉ TOKI" Foli Son Productions FOLISON927 (2017)
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アフロフューチャリズムの偉才 ピエール・クウェンダーズ

Pierre Kwenders  LE DERNIER EMPEREUR BANTOU.jpg   Pierre Kwenders  MAKANDA.jpg

バロジ以来の逸材を発見しました。
85年、コンゴ民主共和国の首都キンシャサに生まれ、
16歳の時に母親とカナダへ移住した、
ピエール・クウェンダーズことジョゼ・ルイ・モダビ。
14年のデビュー作が、いきなりカナダ最大の音楽賞、ジュノー賞の
ワールド・ミュージック最優秀アルバムにノミネートされたという才人です。

今回2作目となる新作リリースで、この人を初めて知り、
話題のデビュー作ともども聴いてみたんですが、
いやあ、スゴイ才能だわ。この音楽性の豊かさはハンパない。
ヒップホップ、R&B、ハウスを縦横無尽に織り込んだトラックに、
コンゴの豊かなリズムが太い根っこになっているところが頼もしく、
カラフルなビートには、アフリカならではのポリリズムが息づいています。

ラップトップ世代であることを強烈にアピールするサウンドづくりには、
ジョニー・クレッグやイヴォンヌ・チャカ・チャカなど、
80年代南ア音楽からの影響も大とのこと。
こんなハイブリッドなアフロ・エレクトロニック・サウンドは、
コンゴ国内からはまず出てこないでしょう。
「フューチャリスティック・ポスト=ルンバ・エレクトロ=ファンク・グルーヴ」という、
コケオドシな形容詞を並べた評も、あながち大げさではありませんね。

デビュー作は、ルンバの要素皆無。
それなのに、強烈にコンゴ臭がするのは、
リンガラ語やルバ語が生み出すビートのせいでしょうか。
ケイジャン・フィドルをカクシ味にした“Mardi Gras” や、
アフリカ神話でおなじみの水の精霊マミ・ワタをタイトルにしたトラックなど、
さまざまなメッセージがこのアルバムには秘められているのは間違いなく、
バロジはじめ、多くのアフリカのラッパーをフィーチャーした話題性より、
注目すべきは、クウェンダーズの音楽性の方でしょう。

新作の方は、ギターや親指ピアノもフィーチャーして、
コンゴリーズ・ルンバを思わせるトラックも出てきますが、
そこにさらにサックスやストリングス・セクションをフィーチャーするなど、
この若者のクリエイティヴィティには、感心せざるを得ません。
インタヴューでは、自身の音楽をワールド・ミュージックと括られることに反発していて、
これだけ豊かな音楽性を持つ彼なら、その反発心もよくわかります。

欧米発のエレクトロニック・ダンス・ミュージックに影響されたアフリカン・ポップスは、
アフリカの音楽性をミジンも持ち合わせていないクドゥロから、
南ア大衆音楽の伝統をうまく生かしたものも一部にはあるクワイトまで、
はっきりいって玉石混交。近年話題のゴムも、クドゥロ同様、現地消費用音楽で、
フォロー不要と割り切ってしまいたくなるところなんですが、
なかには南アのスポーク・マサンボのように、
突き抜けた才能を発揮する音楽家もいるので、なかなか無視もできません。

この方面の音楽は、デジタル・リリースが主流ですけど、
クウェンダーズはフィジカルでもリリースしていて、好感度大。
スポーク・マサンボの新作も、早くフィジカル化してくれないかなあ。
それはさておき、アフロフューチャリズムの偉才、
アフロ・ディアスポラのピエール・クウェンダーズに要注目です。

Pierre Kwenders "LE DERNIER EMPEREUR BANTOU" Bonsound BONAL037CD (2014)
Pierre Kwenders "MAKANDA" Bonsound BONAL054CD (2017)
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トーゴリーズ・ファンク降臨 トーゴ・オール・スターズ

Togo All Stars.jpg

うぉう、ボトムが利いてるねえ。
セヴンティーズを意識したオールド・スクールなサウンドなれど、
この重量感あるリズム、これぞアフリカン・ファンクの醍醐味じゃないですか。

オランダから届いた、トーゴ・オール・スターズを名乗るアルバム。
ミュージシャン14人に、アディショナル・ミュージシャン4人の名前が
クレジットされていて、トーゴのロメで録音されています。

プロデュースとアレンジは、セルジュ・アミアノ。
アミアノは、フランス、モンペリエのアフロビート・バンド、ファンガを結成した
アフロビート~アフロ・ファンクに通じた人物。
数年前からトーゴのロメに拠点を移し、このプロジェクトに専念していたんだそうです。
ファンガの前作からアミアノの名が消えていたのは、そういうことだったのか。

フロントにヴェテラン・ハイライフ・シンガーのアゲイ・クジョーに、
「トーゴのジェイムズ・ブラウン」と称される
若手のダマ・ダマウザンの二人を立てているように、
往年の時代を知るヴェテランと若手を組み合わせたプロジェクトで、
70年代サウンドの再現ではなく、70年代のトーゴの貧弱な機材や録音設備では、
やろうとしても出来なかった、ファットで厚みのあるサウンドを実現しています。

最近70年代トーゴのソウルのシングル集が出ましたけれど、
聴き比べてみれば、それがよくわかるはずです。
本作は後ろ向きの回帰でも、レトロでもないんですね。

70年代に活躍したファンク・バンド、ブラック・デヴィルのフロントで活躍した、
伝説的なシンガー、ナポ・デ・ミ・アモールをラストに起用したのも、
往年のトーゴ人ファンにとっては、感涙ものなんじゃないかな。

曲ごとに形式が書かれていて、「アフロ・ファンク」が一番多いんですが、
エヴェ人の伝統的なダンス・リズムのアクペセやアグバジャをファンク化した、
「アクペセ・ファンク」「アグバジャ・ロック」もあり、
「ファンキー・ハイライフ」と「アフロビート」も1曲ずつあります。

ホーンズの鳴りっぷりも逞しく、
今日びこれほど野性味あふれるファンクは、なかなか聴けるもんじゃありません。

Togo All Stars "TOGO ALL STARS" Excelsior EXCEL96499 (2017)
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セーシェルのアフロ・クレオール・ミュージック グレース・バルベ

Grace Barbe  Kreol Daughter.jpg

拙著『ポップ・アフリカ800』の選盤で泣く泣く外したCDが、
最近エル・スールに入荷したのを、常連のお客さんのツイートで知りました。
ひさしぶりに目にしたもので、懐かしくなって、
CD棚からひっぱり出して聴き直したんですけど、う~ん、いいアルバムですねえ。
ああ、やっぱり入れたかったなあ。悔しさがまた込み上げてきます。

いい機会なので、ここで取り上げておこうかな。
インド洋のセーシェル出身の女性歌手、グレース・バルベのアルバムです。
6歳の時に母親とともにオーストラリアに移住し、その後またセーシェルに戻り、
現在は西オーストラリアのパースに暮らして、歌手活動をしています。
セーシェルとオーストラリアを行き来したことによって、
故郷のセーシェルのアフロ・クレオール・ミュージックに自覚的になったんでしょうね。

セーシェルの歌手というと、フォークぽいシンガー・ソングライターばかりが目立ち、
教会系の健全フォークといった感じの退屈なアルバムが多いんですけれど、
この人の08年のデビュー作は、違いましたね。
1曲目からグルーヴィなアフロビートが飛び出すので、ちょっとびっくり。
続く2曲目は、メロディカをフィーチャーした
オーガスタス・パブロばりの本格的なレゲエで、
セーシェルのひ弱なフォーキー・サウンドとはまるで違っていて、
おおっと思ったものでした。

歌声もアンジェリーク・キジョーばりのファットな感触があって、
イマドキの女性シンガー・ソングライターにありがちな線の細さがなく、好感触。
「クレオール娘」とその心意気や良しといったタイトルも好ましいんですが、
全体にレゲエ色が強く、セーシェルのアフロ・クレオール性が
はっきりと打ち出されていないのは、惜しい気がしました。

Grace Barbe  Welele!.jpg

ところが13年に出した2作目で、
セーシェルのアフロ・クレオール・ミュージックであるセガとムティヤを前面に押し出し、
これこそ「クレオール娘」の名にふさわしいアルバムに仕上げていたんですね。

オープニング・ナンバーのタイトルは、ずばり「アフロ・セガ」だし、
タイトル曲はセーシェル独自のアフロ・リズム、ムティヤで聞かせるんだから、
セーシェル・クレオールで攻めてます。
有名なセーシェル民謡“Mous Pran Fler” をセガにアレンジし、
ルンバ・マナーのギターとアニマシオンをフィーチャーするアイディアも、ニクイばかり。
このグレースの2作目が『ポップ・アフリカ800』に入れたかったアルバムで、
今回エル・スールに入荷したCDです。

デビュー作・2作目ともに、イギリス、ソールズベリー出身のギタリスト、
ジェイミー・サールが音楽監督を務め、グレースと曲を共作しています。
2作目の方では、グレースの妹のジョエル・バルベがドラムスを叩いています。
ソングライティングはいいし、アレンジばっちり、
プロダクションもしっかりしているという、申し分ないディレクションで、
う~ん、やっぱり、ブライアン・マトンベじゃなくて、
こっちに差替えるべきだったかなあ。

Grace Barbé "KREOL DAUGHTER" MGM Distrubution no number (2008)
Grace Barbé "WELELE!" Afrotropik no number (2013)
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クインシー・ジョーンズの後継者 テラス・マーティン

20170927_Terrace Martin_Velvet Portraits.jpg   20170927_Terrace Martin_Sounds Of Crenshaw Vol.1.jpg

9月はグレッチェン・パーラト、ムーンチャイルドとライヴ三昧だったんですが、
最後にテラス・マーティンで打ち止め。

ケンドリック・ラマーにスヌープ・ドッグのプロデューサーとして、
脚光を浴びまくっているテラス・マーティンですけれど、
アルバムの方はなんだかスムース・ジャズみたいで、
この人の本領は、ナマを観なければわからなさそう。
そんな予感があって、9月27日ビルボードライブ東京のセカンド・ショウに足を運びました。

さすが、ロサンゼルスのジャズ・シーンと西海岸のヒップホップ・シーンを横断する才人。
テラスの音楽性は、フュージョン以前のジャズ・ロック~クロスオーヴァー、
ずばり70年代のハービー・ハンコックのファンク路線にあると思うんですけれど、
その基本から、ジャズ~R&B~ヒップホップへ多面的に発展していった
ブラック・ミュージックを、再統合したようなサウンドが全面展開されたのでした。

ヴォコーダーを操り、サックスをブロウするその所作をみていても、
やりたいようにやっているという自由さがあって、バンドを引っ張っていく力だけでなく、
その中で悠々と自分を表現する力量の大きさが示されていましたね。
もちろん自信のなせる業なんでしょうけど、
かつてのマイルズみたいな、おっかない親分といった存在感ではなくて、
曲間の長いMCも含め、気の置けないやんちゃな仲間みたいな気分が横溢していて、
テラスの笑顔に象徴されるリーダーシップに、古今を感じました。

ブラック・ミュージックのヒストリーをエンターテインメントで包んだ上に、
隣のあんちゃん的な気安さでもって提示することのできる才能。
ブラック・ミュージックを過去から未来に繋ぐ才人。
彼こそ、クインシー・ジョーンズの後継者といえるんじゃないでしょうか。

Terrace Martin "VELVET PORTRAITS" Ropeadope no number (2016)
Terrace Martin Presents The Pollyseeds "SOUNDS OF CRENSHAW VOL.1" Ropeadope RAD363 (2017)
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小粋なキューバン・スウィング ボビー・カルカセース

Bobby Carcasses.jpg

こりゃあ、面白い。この人、どういう人なの?
キューバのエンタテイナー歌手なんですか、へぇ、初めて知りました。
ブラジルのカウビ・ペイショートに続いて、
老練なヴェテラン歌謡歌手のアルバムを聞くというのも、なんだか奇遇ですねえ。

外交官の家に生まれたボビー・カルカセースは、38年キングストン生まれ。
一家はボビーが4歳の時にキューバに戻り、
56年にボビー・コジャーソのヴォーカル・カルテットでプロ・デビューしたシンガー。
アフロ・キューバンにジャズをミックスした、ジャイヴィーな味のあるジャズ・シンガーで、
マルチ奏者でもある多芸なお人なんですね。
チューチョ・バルデース、エミリアーノ・サルバドールと共に、
60年代以降のキューバン・ジャズのスタイルを決定づけた功労者なんだそうです。

御年78歳になるわけですけれど、ジャケットを見ると、そんなお歳には見えませんね。
キューバ新世代として活躍中の息子ロベルト・カルカセースがプロデュースした本作は、
オリベル・バルデース(ドラムス)、ホルヘ・レジェス(ベース)、
フリート・パドロン(トランペット)、マラカ(フルート)といった、
現代キューバを代表するトップ・プレイヤーたちが勢揃いしています。

ベニー・モレーをモチーフにした1曲目のボビーのオリジナル曲から、
エリントンの「キャラバン」にボビーが詞を付けた“Caravana”、
「テンダリー」「ナイト・イン・チュニジア」といったジャズ・チューンのほか、
ティト・プエンテとデイブ・バレンティン他がアレンジした、
ペドロ・フローレスの“Obsesión” まで取り上げています。

ソフトで軽快にスウィングする歌い口で、スキャットも鮮やかに決め、
いや~、粋じゃないですか。
フロアでレディと踊りたくなりますよ。
ラストはボーナス・トラック扱いの“Son De La Loma”。
かの古典ソンのスタンダード・ナンバーを、
全編ア・カペラのスキャットで歌うとは、降参です。

Bobby Carcassés Y Afrojazz "BLUES CON MONTUNO" Bis Music CD1141 (2017)
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ブラジル大衆歌謡歌手の矜持 カウビ・ペイショート

Cauby Canta Dick Farney.jpg

あの世に逝く前、最後にこんなふうに歌えたら、歌手人生も本望だろうなあ。
そんな思いを抱いた本作は、亡くなるわずかひと月前のレコーディングという、
カウビ・ペイショートの遺作です。

16年3月に本作のレコーディングを終え、
5月3日にリオでアンジェラ・マリアとステージで歌ったのを最後に、
そのわずか12日後の5月15日、肺炎で息を引き取ったというのだから、
急なことだったようですね。

カウビ・ペイショートというと、ちりちりヘアのルックスからして、
いかにも俗悪なブラジルの大衆歌謡歌手というイメージが強くて、
正直、これまでまともに聞いたことがありませんでした。
ロベルト・カルロス同様、本国では絶大な人気歌手でも、
ブラジル音楽好きの日本人が、無視するタイプの歌手といえます。

それなのに、このアルバムに手を伸ばす気になったのは、
大衆歌謡歌手らしからぬアーティスティックなレーベル、
ビスコイト・フィーノからのリリースだったこと。
そして、プレ・ボサ・ノーヴァの時代に、粋なクルーナー歌手として活躍した、
ぼくの大好きなディック・ファーニー(ジッキ・ファルネイ)のカヴァー集という企画に、
ソソられたからなのでした。

幼い頃ナット・キング・コールに憧れて歌手になったというカウビ・ペイショートは、
典型的なアメリカナイズされたポップス・シンガー。
今回あらためて経歴を調べてみたら、
50年代半ばにアメリカに進出して成功し、タイム誌やライフ誌に
「ブラジルのエルヴィス・プレスリー」と書かれるまでになり、
57年には、アメリカで初のポルトガル語で歌ったロックン・ロールのレコードを
出していることがわかりました。
なんと、シロ・モンテイロの従兄弟だったんですね。

ブラジルに帰国してからは、ナイトクラブを中心に、
ロマンティックな歌を歌うショー歌手として活躍した人で、
ぼくの視界にまったく入らなかった歌手です。
晩年もナット・キング・コールや
フランク・シナトラのカヴァー集を出していたようですけど、
ラスト・レコーディングがディック・ファーニーのカヴァーでなければ、
カウピのアルバムを買うことは、一生なかったでしょうね。

いかにもクラブ歌手といった雰囲気の歌い口ではあるんですが、
若い頃のキザったらしさや、大仰な歌いぶりは影をひそめ、
枯れた味わいがディック・ファーニーのジャジーな歌にぴったりで、
イヤミのないダンディさが、ほどよいムードを醸し出しています。
ピアノ・トリオにサックスとギターを加えた伴奏も申し分ありません。

老いらくの恋を歌うには、こういうオールド・スクールな歌い口がよく似合うというか、
ロマンティック歌手のひとつの理想像を見るかのようで、
80越えて、こんな歌を歌えたら、いいもんだと思いますよ。

Cauby Peixoto "CAUBY CANTA DICK FARNEY" Biscoito Fino BF466-2 (2017)
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目が覚めるショーロ チアーゴ・ソウザ

Tiago Souza.jpg

うひゃー、このリズムのキレ!
ボーっとしてた頭が、一瞬にしてシャキッと目が覚めました。
のっけからシャープなバンドリンに驚かされたのは、
エポカ・ジ・オウロのバンドリン奏者ロナルド・ド・バンドリンの息子
チアーゴ・ソウザのデビュー作です。

ジャケットに写る主役のルックスは優等生ぽく、ファッションもイケてないというか、
なんかいまひとつだなあと思いながら聴き始めたせいか、
出音イッパツで、椅子から転げそうになっちゃいました。

オープニング曲がチアーゴ自作のオリジナルなんですけど、
一瞬変拍子の曲かと思わせるような、複雑なリズムのシカケがある曲で、
おおっと前のめりになっちゃいました。
でも、いわゆるアミルトン・ジ・オランダのような
プログレッシヴなインスト・ナンバーではなく、まぎれもなくショーロなんですよね。
テクニカルな作曲能力と、ショーロ本来の味がちゃんと同居しているところが憎いなあ。

オリジナルは冒頭曲のみで、ほかはナザレーのような古典曲に、
マウリシオ・カリーリョ、ルシアーノ・ラベーロ、ペドロ・アモリン、
ゼー・パウロ・ベケールなどのショーロ・ナンバーを取り上げています。
どんなレパートリーでも、リズムが立っていて、
バンドリンの粒立ちの良い響きが鮮やか。
アルバム全編から、若々しさが溢れ出ていて、まばゆいほど。

曲ごとに編成も多彩で、ドラムスが入る曲もあれば、
トランペット、トロンボーン、バス・クラリネットなどの管楽器が加わる曲、
チェロ、アコーディオン、ヴァイオリンをフィーチャーした曲など、さまざま。
参加メンバーも豪華で、総勢40人近い名前がクレジットされています。
ヤマンドゥ・コスタ、ニコラス・クラシッキ、アレサンドロ・クラメルに、
お父さんのロナルドもいますよ。

ソンふうのトランペットを配した「ショーロ・クバーノ」なんておちゃめなナンバーや、
バイオーンとマラカトゥをミックスしたようなノルデスチ満開な曲もあり、
とにかく楽しめること間違いなし。
若手だからこそのフレッシュなショーロ・アルバムです。

Tiago Souza "DE SOSLAIO" Discmídia no number (2017)
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ブラジルのコンテンポラリー・ジャズ最高峰のグループ ルデーリ

Ludede  RETRATOS.jpg   Ludere.jpg

ルデーリの新作が出ました。
ルデーリは、バーデン・パウエルの息子フィリップ・バーデン・パウエルのピアノに、
ギリェルミ・リベイロのアルバムでもプレイしていたダニエル・ジ・パウラのドラムス、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-12-06
ルビーニョ・アントゥネスのトランペット、ブルーノ・バルボーザのベースの4人組。
ブラジルのコンテンポラリー・ジャズ最高峰のグループと呼ぶのに、
なんのためらいもありません。

昨年リリースしたデビュー作が鮮烈で、
従来のブラジリアン・ジャズとはステージの違う、
世界標準の新世代ジャズのセンスを持っていることに驚かされました。
抜きんでたリズム表現、作曲能力の高さ、濃密なサウンド・アプローチ、
卓越したソロ・ワークと、どこを切っても、現代のジャズのエッセンスが充満しています。

パリ生まれ、ドイツ育ちのフィリップ・バーデン・パウエルをのぞき、
全員サンパウロのミュージシャンなのですが、
彼らの演奏には、ブラジル音楽の要素は見当たりません。
サンバやボサ・ノーヴァ、北東部など地方のリズムがまったく出てこないどころか、
参照すらされていないので、ルデーリの演奏を聞いて、
ブラジル人とわかる人は、まずいないんじゃないかな。
フィリップ・バーデン・パウエルのソロ作では、
ブラジリアン・ジャズらしい楽想も見受けられるんですけれど、
ルデーリではブラジルを封印しているかのようです。

今回の新作は、弦楽四重奏をゲストに迎えているところが聴きどころ。
アンサンブルが生み出すフック・ラインを、
弦楽四重奏が加わることで、より濃密なものにしています。
リズムの崩しも巧みなルビーニョのトランペット・ソロや、
現代ジャズ的な訛りのあるリズム・フィールを持ったダニエル・ジ・パウラの
サウンドに流れを生み出していくドラミングが、すごくイマっぽい。
う~ん、ライヴを観てみたいですねえ。

Ludere "RETRATOS" Blaxtream BXT0011 (2017)
Ludere "LUDERE" no label no number (2016)
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リズムの偉才、爆発 ヴィジェイ・アイヤー

Vijay Iyer Sextet  Far From Over.jpg

わ~お ♪
こういうフォーマットで聴きたかったんですよ。
3管入りのセクステットとなったヴィジェイ・アイヤーの新作。
ずっとピアノ・トリオの作品が続いていて、
リズムの鬼ヴィジェイの凄みは、そこでも十分発揮されていたとはいえ、
もっと大きな編成で聴いてみたいと思っていたもんだから、願ったりかなったり。

どういうメンバーを集めたのかとクレジットをみれば、
トランペットにグレアム・ヘインズ、アルト・サックスにスティーヴ・リーマン、
ドラムスにタイショーン・ソーリーを起用しているじゃないですか。
こりゃあ、すごい。俊英を揃えましたねえ。

M-BASE の影響大なヴィジェイにとって、グレアム・ヘインズはうってつけだし、
ぶっといトーンでぶりぶり吹きまくる期待の若手、
スティーヴ・リーマンを起用したのも嬉しいですねえ。
そして、マーカス・ギルモアから交替したドラマーが、
そのリーマンと一緒にプレイしているタイショーン・ソーリーなんだから、
こりゃあ期待が高まるってもんです。
半年前に“MISE EN ABÎME” を愛聴していたばかりなので、嬉しさ倍増。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-02-12

レーベルがECM なので、
ヴォリュームをいつもの13から20へと上げて、プレイ・ボタンを押したんだけど、
オープニングのピアノの音量がちっちゃすぎて、聞こえやしない。
まったく、どんだけ音圧低いんだよ、ECM。
ひとりごちながら、さらにヴォリュームを26まで上げると、
3管のユニゾンから一気に爆発。どひゃーあ、来た、来たぁ~!

数学的なリズム使いは、ヴィジェイのリズム探究の賜物ですけれど、
反復/垂直的なM-BASE を、加算的に変化させていくヴィジェイのリズム使いには、
やっぱりこの人、インド人だよなと思わずにはおれません。
時間軸に水平移動してリズムを動かしていくところなんて、
インド古典音楽のリズム・サイクルであるターラと同じ発想だもんねえ。
それが、ジャズのアフリカ起源的な垂直方向に動かすリズムとレイヤーして、
新しいポリリズムとグルーヴのあり方を提示しているかのようで、ドキドキしてきます。

ピアノ・トリオだと、
数理的なリズム・オリエンテッドな演奏が前面に押し出されますけれど、
今回は3管、ピアノ、ドラムスそれぞれのソロが大暴れして、
マッシヴなジャズの快楽を味わえる、ヴィジェイの最高傑作です。

Vijay Iyer Sextet "FAR FROM OVER" EMI ECM2581 (2017)
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